見出し画像

いじめが起きにくい学校づくり:ニュージーランドでの検証

 ニュージーランドの子どもコミッショナー事務所は、11月16日、教育省とともに作成したいじめ防止に関する報告書『私たちが好きな学校』Our Kind of School)を発表しました。

 マオリ(同国の先住民族)の子ども関連の問題を主に担当するグレニス・フィリップ-バーバラ(Glenis Phillip-Barbara)副コミッショナーによる解説動画も作成されています(ただし、この報告書はマオリの子どもに対するいじめだけを対象としたものではありません)。

 その説明によれば、ニュージーランドでもいじめは広く行なわれているものの、いじめがめったに起こらない学校やクラ(クラ・カウパパ・マオリ=マオリ語イマージョン教育機関)も存在することから、“いじめを解決するにはどうすればよいか”という視点ではなく、どうすればすべての子どもにとって安全で包摂的な学校/クラをつくることができるかを学ぶという観点に立って検討を進めたとのことです。5つの学校/クラの生徒、スタッフおよび保護者・地域住民と対話を重ねた結果、これらの学校には次の6つの共通点があることがわかりました(太字は平野による)。

1.生徒1人ひとりのニーズを知り、満たしている。
2.力強く敬意を持ったリーダーシップが学校/クラに存在し、ポジティブな学校/クラ文化の基盤を形成している。
3.学校/クラの教室、文化および共同体で、マオリの慣習・伝統およびマオリ語に対するコミットメントが存在する。
4.ファナウ(生徒の大家族)およびより幅広いコミュニティとのつながりがあり、これらの人々を学校/クラの生活に包摂している。
5.スタッフおよび生徒の多様性を大切にし、称揚している。
6.いじめの事案に対して迅速かつ効果的に対応している。

 最後の点(いじめ事案への対応)について補足しておくと、これらの学校では、いじめ防止プログラムのようなものはとくに設けられておらず、それぞれのアプローチでいじめ防止およびいじめへの対応に取り組んでいたことです。対応の際には、問題行動の根本的な原因を見つけること、生徒間の関係を修復することに焦点が当てられていました。

 つまるところ、▽ポジティブかつ包摂的で安全な環境づくりに努めること、▽すべての生徒が受け入れられ、尊重され、つながっており、参加で来ていて、エンパワーされている(accepted, respected, connected, involved and empowered)と感じられるような学校づくりを進めることこそ、いじめの効果的な防止につながるという結論です。報告書では、各学校/クラで具体的にどのような取り組みを行なっているかについても、詳細に紹介されています。

 ニュージーランドの状況は、とくに先住民族であるマオリに対して(少なくとも法制度上・政策上は)手厚い配慮が行なわれているなどの点で日本とだいぶ異なりますが、以上の知見から得られることも多いと思われます。大阪市立大空小学校の元校長・木村泰子さんの実践と共通する点も少なくないと感じました。

 なお、副コミッショナーの説明や報告書本文にはマオリ語の単語が多数出てきますが、主な単語については報告書の末尾に説明がありますので、ご参照ください。


noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。