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世界人権宣言採択75年――「子どもたちの人権ビジョン」

 今年は世界人権宣言が1948年に採択されて75年が経つ節目の年ということで、国連でも Human Rights 75 としてさまざまな取り組みを行なってきました。国連・子どもの権利委員会が世界人権デーの12月10日付で発表した声明については、Facebookで紹介済みです(末尾に採録しておきます)。

 そこでも触れておきましたが、Human Rights 75 の一環として、「子どもたちの人権ビジョン」(Children's Vision for Human Rights)と題する冊子も発表されました(11月29日ごろ)。Human Rights 75 に関する子ども向けのページに掲載されています(PDFへの直接リンクはこちら)。

 この「ビジョン」は、OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)と Child Rights Connect がパートナー組織と協力しながら世界の子どもたちを対象として実施した、オンライン調査および協議を踏まえて作成されたものです。作成には53か国(地域)から約4,000人の子ども(おおむね6~17歳)が参加し(オンライン調査への参加者1,152人、フォーカスグループディスカッションへの参加者2,684人)、随所で子どもたちの言葉が引用されています。調査に回答した子どもの過半数(70%)はすでに人権についてよく知っており、そのうち65%は学校で、11%は学校外での活動を通じて、人権について学んだと報告しています(p.7)。

 その他、▽国連・子どもの権利委員会の一般的意見26号(とくに気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境)の作成、▽OHCHRが国連人権理事会第54会期に提出した「包摂的な社会的保護」に関する報告書の作成などの過程で出された子どもたちからの意見も参考にされたとのことです(p.8)。

 調査および協議の過程で子どもたちが挙げた最大の課題としては、主に次のようなものがあります(p.10以下)。これらの課題の多くは、大人も直面していると子どもたちが認識しているものです(p.16以下)。

(権利主体としての)子どもの承認
-差別と排除
-安全で意味のある参加の否定
-教育に対する権利
-貧困および不十分な生活水準
-暴力・虐待・ネグレクト・搾取からの保護
-身体的・精神的健康に対する権利
-清浄で、健康的で持続可能な環境に対する権利

 国によっては人権に対する否定的な態度がいまだに根強く残っていることなども踏まえ、子どもたちは、すべての人に次のことを知ってほしいと希望しています(p.28)。

● 人権は共有された価値観であり、すべての人の生活に関連するものである。
● 政府には、すべての人の権利を守る責任がある。
● 人権を実現することは、すべての人の利益になる。
● 人権が実現されない場合、すべての人が影響を受ける。

 具体的には、次のような取り組みを進めることが提案されています(p.28)。

-人権に関する訓練を受けた教員によって支えられる人権教育を学校カリキュラムに含め、すべての学校で必須にすること。
-ウェブサイトやソーシャルメディアを含む公共の場所で、人権に関する情報を増やすこと。
-新聞、テレビ、ラジオ、映画およびオンライン・ソーシャルメディア・キャンペーンを含むさまざまなメディアを活用しながら人権啓発キャンペーンを実施し、社会のすべての人(子どもだけではなく)、とくにもっとも周縁化されている人々に情報が届くようにすること。
-人々が、人権に関する平和的な抗議およびデモンストレーションに、常に安全に参加できるようにすること。
-人々が、人権を具体的に取り上げるプログラム、講演・会議、ワークショップ、研修などのフォーマルな場で人権について学ぶようにすること。
-意思決定を行なう立場にある人々が、人権に関する公衆教育・啓発を促進すること。

 最後に、子どもたちはOHCHRに対し、すべての人の人権の実現を加速するために次のような取り組みを行なうよう勧告しています(p.35以下;それぞれの項目について具体的な要請も掲げられています)。

1)国際・国内・地方の各レベルで、オンラインおよびオフラインの機会を活用しながら、子どもたちとの連携を強化すること。
2)より多くの子どもを包摂し、すべての子どもの公平な参加を確保するため、国連のアウトリーチを拡大すること。
3)人権に関する情報および研修と、財政的・技術的支援を提供すること。
4)地方レベルで人権に関する意識および意識を強化すること。

 今年8月に発表された「子どもの権利の主流化」に関する国連事務総長のガイダンスノートも踏まえ、OHCHRとしても子どもたちとの協働をさらに強化していくと思われます。日本でも、「人権」の捉え方そのものを見直していくこととあわせて、こうした取り組みを強化していくことが必要です。

 なお、12月12日にはHuman Rights 75 若者宣言も発表されています。これについても近いうちに概要を紹介したいと思います。

 以下、国連・子どもの権利委員会が世界人権デーの12月10日付で発表した声明についてのFacebookポストを採録しておきます(太字、リンクの一部は採録時の加工)。

★ OHCHR: Statement of the Committee on the Rights of the Child on Human Rights Day 2023 (PDF)
https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/hrbodies/crc/activities/crc-stm-hr-day-2023.pdf

 昨日(12月10日)は #世界人権デー でした。今年は世界人権宣言が1948年に採択されて75年が経つ節目の年なので、国連でも Human Rights 75 としてさまざまな取り組みを行なっています。

 国連・子どもの権利委員会も、12月10日付で、
「国連未来サミットでは、子どもたちを主要なアクターとして認識し、その関与を得るべきである」
 と題した声明を発表しました。

 委員会は、世界人権宣言の採択から75年が過ぎ、子どもの権利条約をほぼすべての国が批准した現在にあっても、
「世界のすべての場所における子どもの権利の全面的実現は、現実とはほど遠い状況です」
 という認識をあらためて表明し、子どもたちが、来年(2024年)9月22~23日に開催される国連未来サミット(Summit of the Future)*に向けたプロセスの不可欠な一部とされなければならないことを強調しています。さらに、今年8月に発表された「子どもの権利の主流化」に関する国連事務総長ガイダンスノートを歓迎し、国連未来サミットは同ガイダンスノートの実施に関する試金石になるだろうとも述べています。

 委員会は最後に、世界の子どもたちが直面している課題としてとくに気候危機、紛争と平和、デジタル環境に言及し、次のように声明を締めくくっています。
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「子どもたちは、平和・公正・包摂的な社会を築き、この星の永続的保護を確保するための、現在における重要なパートナーおよびステークホルダーとして、また将来世代にとってのもっとも重要な未来の意思決定者としても、特別な注意を向けられ、かつ話し合いの場におけるスペースを与えられるにふさわしい存在です。1人ひとりの子どもの権利が充足され、尊重されかつ保護されるようになるまで、持続可能な開発、平和および安全は存在しません」

 このほか、Human Rights 75 の一環として「子どもたちの人権ビジョン」(Children's Vision for Human Rights)と題する冊子も発表されていますので、近いうちに概要を紹介します。とりいそぎ↓のページを参照。
https://www.ohchr.org/en/children/children-and-human-rights-75-initiative-information-children
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* 国連未来サミットについては国連広報センターが作成した日本語資料「未来サミット:それは何をもたらすのか」などを参照。
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/49013/

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