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韓国、民法の懲戒権規定を削除して親権者の体罰を禁止

 韓国で、親の体罰を禁止することを目的とした民法改正案が可決成立しました(1月8日)。これによって韓国が世界で62番目の体罰全面禁止国となるかどうかはまだ判断できませんが、大きな一歩であるのは間違いありません。(追記:3月25日、62番目の体罰全面禁止国と認定されました

★中央日報:'사랑의 매' 민법 조항 62년 만에 삭제…잇따른 학대 사건이 ‘신중론’ 꺾었다(「愛の鞭」民法の規定、62年ぶりに削除……相次ぐ虐待事件が「慎重論」を打破)
https://news.joins.com/article/23964864
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 改正の眼目は、以前の投稿でお知らせしたとおり、「親権者は子を保護または教養するために必要な懲戒を行うことができ、裁判所の許可を得て、感化または矯正機関に委託することができる」という民法第915条の規定を削除するところにあります。あわせて、感化機関・矯正機関への委託に関わる民法・家事訴訟法の関連規定も削除されました。

 中央日報の記事ではこの間の経緯も要領よくまとめられているのでそれにしたがって紹介しますが、法務部(法務省)が作成した法改正案は10月13日に閣議決定され、16日までに国会に提出されています。そのほか、議員からも、▼政府案と同様に民法の懲戒権規定の削除を提案する法案、▼「懲戒」権に代えて「しつけ」の権利の新設を提案する法案、▼暴力的な懲戒方法を禁止する法案がそれぞれ発議されていました。

 一連の法案については2020年11月26日に審議が行なわれ、「しつけ」の権利を新設するなどの折衷案を採用するのではなく端的に懲戒権規定を削除するという方向でおおむね合意が形成されたとのことです。しかし、他の問題もからむ政治的な駆け引きもあったようで議論はまとまらず、継続審議となっていました。セーブ・ザ・チルドレン・コリアは、同年12月22日付の声明家庭内体罰禁止のための民法改正、これ以上先送りしてはならないで、世界で61番目の体罰全面禁止国となったメキシコの例を引きながら速やかな審議再開と可決を求めましたが、目立った動きはなかったようです。

 こうした雰囲気が一変したのは、いわゆる「ジョンインちゃん事件」がきっかけでした。生後16か月のジョンイン(チョンイン)ちゃんが、養父母の虐待により死亡した事件です。ジョンインちゃんが亡くなったのは昨年10月13日(今回の法改正案が閣議決定された日)でしたが、今年1月2日に放映されたSBS『そこが知りたい』という番組で事件の詳細や警察の対応の問題点が明らかになると、SNSで「ジョンインちゃんごめんね」というハッシュタグが広がるなど、虐待対応の強化を求める世論が急速に高まりました。

 このような世論に押され、番組の放送から1週間も経たないうちに、国会本会議で法案が可決されるに至ったものです。あわせて、児童虐待への対応を強化するための法改正も行なわれています(たとえば Wow! Korea の記事東亜日報の記事などを参照)。子どもが何人も犠牲になり、しかもそのことがメディア等で大きく取り上げられなければなかなか本気で法改正等に取り組もうとしないというのは、日本でも同様でしたが、悲しいことです。

「ジョンインちゃん事件」については日本語でも比較的詳しく報じられていますが、その他の事件も含めて韓国における虐待対応の問題点を指摘するものとして、たとえば『ハンギョレ』の以下の記事をご参照ください。

[社説]「児童虐待」付け焼刃の対応では「ジョンインの死」繰り返される http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/38748.html

虐待児童3万人…システムはなぜ作動しなかったのか
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/38747.html

 ソウル市では次のような取り組みも始まったそうなので、あわせて紹介しておきます。記事で紹介されているキャンペーンポスターには、〈いま、この瞬間、あなたの関心と勇気を待っている子どもがいます〉と書かれています。親対象のカードニュースでは、しつけのための体罰も児童虐待として処罰されうることが強調されているとのことです。

★ Wow! Korea:児童虐待は家庭の問題?…通報しない教職員は罰金500万ウォン=韓国
https://www.wowkorea.jp/news/korea/2020/1227/10282163.html


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