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韓国国家人権委員会、高校の寮における外出制限や携帯電話等の使用制限・禁止について是正を勧告

 前回の投稿〈韓国国家人権委員会、芸能界で働く子どもの人権保障を強化するよう勧告〉で取り上げたもののほか、韓国国家人権委員会(以下「人権委」)が最近公表した子どもの人権関係の意見表明や勧告をいくつか紹介しておきます。なお、見出しに付している日付はプレスリリースの発表日です。

1.子どもを貶める表現の使用抑制について

아동 비하 표현에 관한 의견표명 - '요린이', '주린이' 등의 표현, 아동에 대한 부정적인 고정관념과 차별 조장할 수 있어 -(子どもを侮辱する表現についての意見表明-「ヨリニ」「チュリニ」などの表現は子どもに対する否定的な固定観念と差別を助長する可能性あり―;5月3日付)
https://www.humanrights.go.kr/site/program/board/basicboard/view?menuid=001004002001&pagesize=10&boardtypeid=24&boardid=7607929

 韓国語で子どもを意味する単語のひとつに「オリニ」(어린이)がありますが、最近、何かを始めたばかりの人やある活動の初心者のことを、その活動を表す単語の冒頭の文字に「~リニ」を付けて呼ぶことが流行っているようです(「ヨリニ」요린이 =料理の初心者、「チュリニ」주린이 =株式初心者、「トリニ」토린이 =TOEIC入門者など)。これが子どもに対する差別的な表現であるとして、人権委に申立てがありました。

 人権委は、このような表現の使用によって人権侵害の具体的な被害が発生したとは言いがたいとして申立て自体は却下したものの、このような表現は子どもに対するネガティブな固定観念を助長する可能性があるなどとして、意見表明を行なうことにしたものです。人権委は、
▽文化体育観光部長官に対し、公文書などで「~リニ」という表現を使わないようにするため積極的な広報・教育等の方策を講じること
▽放送通信審議委員会の委員長に対し、放送やインターネット等で「~リニ」という表現が使われないようモニタリングを強化するなどの適切な方策を講じること
 をそれぞれ促しました。

 韓国語のニュアンスまではわかりませんが、日本語で言えば「子どもの使い」「児戯に等しい」のような感じでしょうか。基本的には市民的議論に委ねるべき問題で、公文書等での使用抑制はともかく、インターネット等での使用をモニタリングすることまで提言するのが適切かどうかという疑問はあります。

2.COVID-19(新型コロナウイルス感染症)を理由とする高校学生寮での行動制限について

● 고등학교 기숙사생에 대한 과도한 외출 및 외박 제한 중지 등 권고(高校の学生寮について過度の外出・外泊制限の中止などの勧告;5月6日付)
https://www.humanrights.go.kr/site/program/board/basicboard/view?menuid=001004002001&pagesize=10&boardtypeid=24&boardid=7607936

 在校生のほとんど(約9割)が寮に入っている学校が、COVID-19感染防止を理由として生徒の意見を集約しないまま寮生の外出・外泊を制限したことについて、寮生が申立てを行なった事案です。

 学校側は、寮生の外出・外泊制限はCOVID-19の集団感染発生防止を目的とする必要最小限の措置だったと主張しましたが、人権委の子どもの権利委員会は次のように述べ、学校側が事前に生徒の意見を求めないまま外出制限・外泊禁止の措置をとったことは憲法第10条で保障された一般的な行動の自由の権利を侵害するものだと判断しました。

-寮生に認められた外出時間は平日30分、週末・祝日は1時間30分のみであり、自由な外部活動にかなりの制約を受けている。
-寮生の外泊は全面的に禁止され、家族と会うことができずにいる。
-在校生の約1割は寮生活をせず自宅から通学しているのに、寮生の外出・外泊だけを制限することでCOVID-19を効果的に予防できるかは疑問である。
-全国的なコロナ防疫措置水準に照らし、当該学校の寮生の外出制限および外泊全面禁止は過度な措置である。

 これを踏まえ、人権委は当該学校に対し、過度の外出・外泊制限を中止するとともに、再発防止対策をとることを勧告したものです。

3.高校寮内での携帯電話の所持・使用禁止について

● 고교 기숙사 내 휴대전화 소지·사용 전면금지는 통신의 자유 등 침해(高校寮内での携帯電話の所持・使用全面禁止は通信の自由などを侵害;5月11日付)
https://www.humanrights.go.kr/site/program/board/basicboard/view?menuid=001004002001&pagesize=10&boardtypeid=24&boardid=7607949

 全寮制高校の生徒が、
▽授業時間だけではなく寮で生活する時間にも個人の携帯電話の所持や使用が禁止されており、日曜日の一部時間帯にのみ例外的に許可されているにすぎないこと
▽寮内の指定されたWi-Fi区域以外の場所でノートパソコンやタブレットなどの電子機器を使用したら機器を1か月間没収されること
 などについて、過度の使用制限であって生徒の権利を侵害していると申し立てた事案です。

 学校側は次のように述べてこのような制限を正当化しました。
-指定された時間以外でも、学生が求めれば、担任教師の許可を受けて携帯電話を使用することができる。通話が必要な場合、校内に設置された公衆電話も使用可能である。
-電子機器については、Wi-Fi区域以外の場所での使用を認めると学業とは無関係な使用になる余地が多く、周辺の学生に騒音を誘発する可能性がある点などを考慮して禁止することにした。
-携帯電話や電子機器の使用制限は、生徒・教師・保護者を対象に行なった、寮生活規定に関する意見集約の結果を踏まえて実行しているものである。

 これに対する人権委の判断は次のとおりです。

○ 当該高校の生徒のほとんどは寮で生活しているため、家族など外部の者と通信する必要性が高い。しかし個人の携帯電話を使用できる時間は日曜日の6時間ほどにすぎず、その時間以外は担任教師に理由を説明しなければ使用できない。公衆電話を使用しても、希望する時間に日常的な通話をすることは困難である。他方、学校は、このような形で寮生の通信と私生活を制限しながら、それによる基本権の侵害を最小化できるような方策はとっていないと考えられる。
○ 現代社会では、電子機器は学習の手段として機能するだけでなく、個人の関心や趣味などに関する情報を得て、これを通じて適性を発達させたり幸福追求権を享受したりするためのツールでもある。したがって、電子機器の否定的効果だけをことさらに強調して所持・使用を全面禁止するのではなく、コミュニティ内での討論を通じて規律を定め、これを実践する過程を通じて、本人の欲望や行動を統制・管理できる力量を育むように教育することのほうが望ましい
○ 学校側は、このような制限は生徒・教師・保護者の意見集約結果を踏まえたものであると主張するが、このような手続的正当性は、憲法や国連・子どもの権利条約などで保障された生徒の権利保護のために必要な実質的正当性を担保するものではない

 これを踏まえ、人権委は、学校内で生徒による携帯電話および電子機器の所持・使用を制限する必要性が認められるとしても、寮生活でまでこれを全面的に制限することは、憲法第37条2項に定められた過剰な制限の禁止原則に反しており、憲法第10条で保障された一般的な行動の自由および第18条で保障された通信の自由などを侵害する行為であるとして、寮生活規定の改正を当該高校に対して勧告しました。

*        *

 なお学校内での生徒の自由に関する人権委の勧告については、〈韓国国家人権委員会、校則のあり方などについて複数の勧告を発表〉(2021年12月14日投稿)などもご参照ください。

また〈韓国国家人権委員会、「虞犯少年」規定の削除などを勧告〉(2021年12月13日投稿)に、人権委の勧告に対する法務部の対応を追記しておいたので、そちらも参照。

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