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アイルランド子どもオンブズマン事務所、国連・子どもの権利委員会の勧告のフォローアップに関する子どもたちの声をまとめた報告書を発表

 アイルランド子どもオンブズマン事務所(OCO)が設けている若者助言委員会(Youth Advisory Panel: YAP)が中心となり、"Pieces of Us" と題する子どもレポートをとりまとめて国連・子どもの権利委員会に提出したことについて、以前の投稿で紹介しました。

 国連・子どもの権利委員会は2023年1月にアイルランドの第5回・第6回統合定期報告書を審査し、総括所見(CRC/C/IRL/CO/5-6)を採択しています。アイルランドが緊急の措置をとる分野として委員会が挙げたのは、▽差別の禁止、▽暴力、▽メンタルヘルス、▽生活水準、▽教育、▽子ども司法の6つです(総括所見パラ4)。

 委員会の勧告をどのようにフォローアップしていくかについて子どもたちとともに考えるため、OCOの参加・権利教育部とYAPは、委員会の勧告のフォローアップなどについて話し合う Pieces of Us - What's Next? 会議を開催しました(2023年7月21日、ダブリンにあるスタジアム「クロークパーク」にて)。国連・子どもの権利委員会のフィリップ・ジャフェ委員(スイス)も出席したこの会議には、全国から130人以上の子ども(12~17歳)が参加したとのことです。

 子どもたちは、「ワールドカフェ」と題された分科会で12のテーブルに分かれ、6つのテーマについて、YAPがそれぞれ2つずつ用意した設問を踏まえて話し合いを行ないました。そこで出された子どもたちの声をとりまとめた報告書 "Pieces of Us - What’s Next?" が2月8日に発表されたので、その概要を紹介しておきます。子どもたち自身の声やグラフィックが豊富にあしらわれた、137ページの報告書です。

 用意された6つのテーマは、次の目次にあるとおりです。国連・子どもの権利委員会の勧告を網羅的にカバーするものではありませんが、委員会の関心事の多くが取り上げられています。


 以下、各テーマについて用意された設問と、子どもたちから出された提案の項目を紹介します。議論の様子を3テーマごとにまとめたグラフィックの画像もあわせて掲載しておきます(各テーマごとにもグラレコが作成されています)。

■ 教育

設問1:すべての子ども――障害のある子ども、トラベラーやロマの子ども、不利な立場に置かれている子ども、移住者である子どもを含む――がよい教育を受けられるようにするために、政府や学校には何ができる?
-カリキュラム改革
-教師のトレーニング
-(特別な教育上のニーズを有する子どもへの)支援サービスの強化
-アクセシブルな(バリアのない)施設への投資

設問2:修了証明書(Leaving Certificate)制度がどんなふうに変わったらよいと思う?
-試験・成績評価改革
-オルタナティブ教育ルートの推進

■ 子どもを支援するサービス

設問1:政府に、どんなふうに子どものメンタルヘルス上のニーズに対応し、サービスを提供してほしい?
-サービスを受けられるようになるまでの待機期間を短縮する
-スタッフの人数とトレーニングを増やす
-サービスを受けられるようになる年齢を引き下げる
-学校にメンタルヘルスサポートを持ちこむ

設問2:政府が優先的に改善しなければならないその他の保健・社会サービスは何?
-トランスジェンダー向けの保健ケアサービス

■ 平等と差別禁止

設問1:教師や生徒が学校で行なう人種差別その他のあらゆる形態の差別を防止するために、どんな対応をとってほしい?
-教師のトレーニングの改善
-カリキュラムの変更
-より幅広い学校環境の変更

設問2:より幅広く、社会における人種差別その他の差別と闘ううえでは、どんなことが役に立つ? 誰がそのような対応をとるべき?
-自分たち以外の文化・宗教の理解と称揚
-統合のための機会の増加

■ コミュニティ・遊び・余暇

設問1:すべての子どもが安全な余暇、遊び、文化・芸術活動にアクセスできるようにするために、政府には何ができる?
-資金の増額
-公共交通機関の改善
-子ども向け施設の増設
-村落部への投資
-若者向けサービス・活動の推進
-安全措置の向上
-警察官のトレーニングの改善(とくにティーンエイジャーへの対応に関して)

設問2:どうすれば、安全なコミュニティスペース・施設の場所や設計について子どもたちが意見を表明できるようになる?
-協議の機会を増やす
-子どもたちの意見を聴ける方法を増やす

■ 意見表明

設問1:どうすれば、政府は家庭・学校・社会における子ども参加を向上させられる?
-若者および若者主導団体向けの資金を増額する
-投票年齢を(18歳から)引き下げる
-学校を基盤とする変革(公民・政治教育の増加、意見表明のための教育、児童生徒組織の強化、参加型若者グループの推進など)
-子どもたちとの意味のある協議

設問2:子ども参加に関するトレーニングを受けるべきなのはどんな専門家? トレーニングは誰がやるべき?
-教師や進路相談員
-メンタルヘルス関連の専門家

■ 特別な保護を必要とする子どもたち

設問1:弱い立場に置かれた子どもたち(養護を受けている子ども、障害のある子ども、庇護を求めている子ども、トラベラーやロマの子ども、拘禁中の子どもまたは司法制度の対象とされている子どもなど)のニーズを満たすために政府がやるべき、もっとも重要なことは何?
-住居の保障
-移住者・庇護希望者である子どもおよび保護者をともなわずに入国した未成年者のための、言語面・法律面の支援
-障害のある子どもへの支援

設問2:どうすれば、このような子どもたちの声に耳が傾けられるようにできる?
-ユースサービスへの投資を拡大する
-周縁化されたグループの描き方を肯定的なものにする

【追記】(2024年2月24日)
 報告書 "Pieces of Us - What's Next?" には、付録(Appendix)として、上記の6つのテーマに関する国連・子どもの権利委員会の勧告の要約も収録されています。以下、その日本語訳を追加で掲載しておきます。

アイルランドの第5回・第6回統合定期報告書に関する委員会の総括所見についてはそのうち日本語訳を作成・公開しようと思っていることもあり、以下の要旨は有料とさせていただきます。アイルランドに関して委員会が過去に採択してきた総括所見の日本語訳は、こちらのページおよびそこに掲載しているリンクをご参照ください。

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