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アイルランド子どもオンブズマン事務所、国連・子どもの権利委員会に2つのレポートを提出

 アイルランドの子どもオンブズマン事務所(OCO)は、国連・子どもの権利委員会による同国の定期報告書審査に向け、政府から独立の立場で同委員会に提出した2つの報告書を公開しました(9月7日)。

★ Ombudsman for Children's Office submits two major reports to UN Committee on the Rights of the Child
https://www.oco.ie/news/ombudsman-for-childrens-office-submits-two-major-reports-to-un-committee-on-the-rights-of-the-child/

 ひとつはOCOとしての報告書(PDF)、もうひとつはOCOとその若者助言委員会(Youth Advisory Panel)が中心となって子どもたちの声をとりまとめた「子どもレポート」(PDF)です。

 OCOの報告書は全65ページで、冒頭で「新たな進展」として3つの問題を取り上げたのち、委員会の定期報告書ガイドラインにしたがい、対処されるべき問題を分野ごとに挙げています。論点ごとに現状の簡潔な説明と国への勧告を掲載するというスタイルです。取り上げられている問題は次の43項目です(〔 〕内は平野による補足です)。

I.新たな進展(3項目)
 -条約およびその選択議定書に実施に関連する進展〔子どもの売買・児童買春・児童ポルノに関する選択議定書の未批准〕/COVID-19の文脈における子どもの権利の保護〔COVID-19については〈新型コロナと子どもたち:アイルランド子どもオンブズマンによる調査結果〉も参照〕/ウクライナからアイルランドにやってくる子ども
II.条約およびその選択議定書に基づく権利
A.一般的実施措置
(6項目)
 -立法/包括的な政策、戦略および調整/資源配分/データ収集/普及、意識啓発および研修/独立の監視
B.一般原則(4項目)
 -差別の禁止/子どもの最善の利益/生命、生存および発達に対する権利/子どもの意見の尊重
C.市民的権利および自由(4項目)
 -出生登録と国籍/アイデンティティに対する権利/思想、良心および宗教の自由/適切な情報へのアクセス
D.子どもに対する暴力(4項目)
 -児童虐待・ネグレクト/ドメスティックバイオレンス/学校における子ども間のいじめ/ジェンダー承認〔トランスジェンダーである人が国から自己の希望するジェンダーの承認証明を受ける手続〕
E.家庭環境および代替的養護(5項目)
 -家庭裁判所/保育/代替的養護を受けている子ども/国外で養護されている子ども/アフターケア
F.障害のある子ども(4項目)
 -障害のある子どもの権利の実施/家庭環境における障害のある子どものケア/障害のある子どものためのアセスメントおよびサービス/乳幼児期教育およびインクルーシブ教育へのアクセス
G.基礎保健および福祉(5項目)
 -健康および保健サービス/思春期の健康/メンタルヘルス/子どもの貧困/住居およびホームレス状態
H.教育、余暇および文化的活動(2項目)
 -教育/余暇および文化的活動
I.特別な保護措置(5項目)
 -子どもの庇護希望者・難民のための居住施設および支援/脆弱性評価/子どもの移住者に関する法的枠組み/トラベラーおよびロマの子ども/子ども司法の運営
J.武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書(1項目)
 -国防軍の行動のアカウンタビリティ

 子どもレポートには "Pieces of Us"(私たちのピース)というタイトルが付されています。パズルを社会、パズルのピースを1人ひとりの子どもに見立て、すべての子どもが社会でぴったりの居場所を見つけられるようにするにはどうすればよいか考えよう、という思いが込められているそうです(レポートのpp.2-3に掲載されている次のイラストを参照)。

 子どもレポートは、オンラインアンケートフォーカスグループ・ディスカッションを通じて集められた子どもたちの声をもとに作成されました。オンラインアンケートの設問は(a)アイルランドで子どもでいることのよい点、(b)アイルランドで子どもでいることのそれほどよくない点、(c)アイルランドの子どもたちの生活をよりよいものにするために必要なことの3つを尋ねるもので、5,515人の子どもたちから回答があったとのことです。

 フォーカスグループ・ディスカッションでは、(a)教育、(b)子ども支援サービス、(c)平等と差別禁止、(d)コミュニティと余暇、(e)子どもたちの声、(f)特別な保護を必要とする子どもという6つのテーマについて議論が行なわれ、200人以上の子どもたちが23のフォーカスグループに参加しました。

 子どもレポートでは、オンラインアンケートに寄せられた子どもたちの回答が12歳未満/12歳以上の年齢別に、またフォーカスグループ・ディスカッションで出された子どもたちの声が上記のテーマ別に、それぞれ整理されて紹介されています。たとえば、教育に関するフォーカスグループ・ディスカッションで浮上した論点として挙げられているのは、次の9項目です。

-教育と学校
-国の試験
-COVID-19が教育に及ぼした影響
-学校におけるメンタルヘルス支援
-いじめ
-教科の内容と授業
-教科におけるジェンダーステレオタイプ
-オルタナティブ教育
-障害のある子ども

 子どもレポートは全170ページという大部なもので、子どもたちが描いたイラストや手書きのメッセージも豊富に掲載されています。委員会への情報提供というだけではなく、子どもの権利条約の実施のあり方をアイルランド国内で考えていくうえでも貴重な資料になっていると言えます。

 国連・子どもの権利委員会によるアイルランドの報告書審査は第92会期(2023年1月~2月)に行なわれる予定です。今回の報告書が第5回・第6回統合定期報告書となります(簡略報告手続にしたがい、委員会が事前に作成した質問事項への文書回答が報告書として扱われています)。前回の総括所見(2016年)の日本語訳は私のサイトを参照(それ以前の総括所見の日本語訳にもリンクしています)。

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