ギリシャの子どもオンブズパーソン:「日本子どもフォーラム」(11月20日)より
11月20日に開催されたオンラインイベント「日本子どもフォーラム~子どもの権利を基盤とした子ども施策の実現に向けて~」(主催:日本財団/共催:日本ユニセフ協会)の報告がアップされました(12月2日)。
★日本ユニセフ協会:こども庁、子ども基本法、子どもコミッショナー~子ども施策に子どもの権利の視点を 11月20日開催 オンラインイベント報告
https://www.unicef.or.jp/event/report/20211120/
動画もあわせて公開されています。
とりあえず、基調講演2「子どもコミッショナー/オンブズパーソンがいればできること」に登壇したブルース・アダムソンさん(スコットランド子ども・若者コミッショナー)とセオニ・コフォニコラコウさん(子どもオンブズパーソン欧州ネットワーク(ENOC)会長/ギリシャ子どもの権利オンブズパーソン)のお話を聴いてみました(動画の55分あたりから)。
スコットランド子ども・若者コミッショナーについてはこれまでいろいろ取り上げてきたので、記事の後半に関連リンクを載せておきます。また、お2人がともに言及している国連・子どもの権利委員会の一般的意見2号(子どもの権利の促進および保護における独立した国内人権機関の役割、2002年)については私の日本語訳を参照してください。
1.ギリシャ子どもの権利オンブズパーソン(子どもの権利担当副オンブズマン)
以下、私の補足を加えつつ、ギリシャ子ども権利オンブズパーソンの概要を紹介します。
ギリシャ子どもの権利オンブズパーソンは、正確には、国家オンブズマンにおいて子どもの権利に関わる問題を担当する副オンブズマンです。2003年の法律により、国家オンブズマンの任務に子どもの権利が加えられました。国家オンブズマンは現在では2001年憲法に法的根拠を持っていますので、高い独立性が保障されています。子どもの権利のほか、▽人権、▽社会的保護、▽生活の質、▽国家・市民関係、▽平等な取扱いを担当する副オンブズマンが置かれています。
ギリシャ子どもの権利オンブズパーソンの主な任務としてセオニさんが挙げていたのは、▽苦情の処理、▽査察、▽アドボカシー介入(政策・立法等に関わる勧告・提言など)、▽促進、▽条約の遵守および進展に関する報告書の刊行の5つでした。
他の国の子どもオンブズパーソン/コミッショナーのなかには苦情処理(個別救済)の権限を持たない機関も少なくありませんが、ギリシャの場合、本来的に公的機関等に対する苦情を処理することを主な任務とする国家オンブズマンの1部局なので、個別救済も行なっているようです。苦情申立ては、子どもの権利侵害の事実を知った場合、誰でも行なうことができます。もちろん子ども自身も申立てを行なうことができ、電子メールや子ども専用ホットラインで連絡することも可能です。
オンブズパーソンは、調査を行なった後、調停(mediation)を行なったり、必要なときは検察官に付託したりすることによって対応します。セオニさんによれば、オンブズパーソンは罰則を科すことはできませんが、調停や介入の成功率は非常に高いとのことです。また、前述のとおり、施設などへの査察を行なう権限も与えられています。
地方の出先機関は設けられていませんので、市民社会組織も参加する「移動の状況にある(移住者である)子どものためのネットワーク」(27機関が参加)と「脱施設化と代替的養護のためのネットワーク」(14機関が参加)の2つのネットワークも活用しながら取り組みを進めているとのことです。
促進(普及啓発)活動としては、学校訪問を定期的・組織的に実施している点が、子どもたちや教員にオンブズパーソンの存在と役割を知らせるうえでも、子どもたちから直接話を聴くうえでも、重要な取り組みであると感じました。専門家を対象とする研修、ソーシャルメディアでの周知、アートを通じた促進活動なども行なっているとのことです。
子どもオンブズパーソンの活動についてアドバイスを受けるために「若者評議会」も設置されています。アドバイザーを務めた若者は、その後、子どもの権利やオンブズパーソンの存在について広く知らせるうえでも重要な役割を担ってくれているとのことです。
また、エビデンスに基づくアドボカシーと良質な勧告を行なえるようにするため、公的機関等に必要なデータを求める権限も、オンブズパーソンには与えられています。
包括的な国内人権機関(国家人権委員会など)を設けたうえで子どもの権利を専門に担当する役職を設けるというやり方は他の国にも例があり(たとえば南アフリカやオーストラリア)、日本でも選択肢のひとつとして考える必要があるでしょう。
2.スコットランド子ども・若者コミッショナー
スコットランド子ども・若者コミッショナーのブルース・アダムソンさんが触れていた主な活動や動向については、以下の投稿等をご覧ください。あわせて日本財団ジャーナル〈「子どもの権利」どう守る?スコットランド「子ども若者コミッショナー」ブルース・アダムソンさんに問う〉なども参照。
-教育現場における拘束・隔離についての調査(Facebook)
-体罰禁止法の制定(note)
-刑事責任年齢のさらなる引き上げ(12歳→14歳以上;Facebook)
-人権擁護者としての子ども(Facebook)
-COVID-19パンデミック下における子どもの権利保障(note)
-国連人権機関との協力:国連・拷問禁止委員会の報告書審査プロセスへの子ども参加の支援/極度の貧困と人権に関する国連特別報告者が英国を訪問した際の子どもとの会見の調整(後者の訪問についてFacebookへの投稿を参照)
-国連・子どもの権利条約編入法案(note)
-EU子どもの権利戦略/EU「子ども保障」制度案(note;EU子どもの権利戦略については現在翻訳中)
また、スコットランドで実施された、子どもの養護制度のあり方に関する独立検証プロジェクト(2020年2月に報告書を発表)については、こちらのサイトを参照。ブルースさんは、検証の過程で取り上げられた人権上の課題として▽国内法への国連・子どもの権利条約の編入、▽子ども・若者を対象とする人権教育、▽職員が権利基盤アプローチをとるようにするための支援、▽アドボカシーと法的助言、▽権利を基盤とする査察および規制の5つを挙げていましたが、日本でも子どもの権利基盤アプローチをさらに浸透させていく必要があります。
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