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米・国務省、2021年版人権報告書を発表――無国籍、痴漢、レイシャル・プロファイリングなどについて新たに記述

 米・国務省が毎年刊行している人権報告書の2021年版が発表されました(4月12日)。日本に関する部分(原文)はこちらから参照できます。

 昨年の報告書在日米国大使館・領事館のサイトに掲載されている日本語訳も参照)で、日本語の taibatsu という言葉も用いながら新たに取り上げられていたスポーツにおける体罰の問題は、2021年版では言及されていません。また、教員による子どもの性的虐待については、
「文部科学省の官吏によると、教員による子どもの性的虐待の報告は、主として公衆の意識の高まりおよびこれらの教員の懲戒解雇を理由として、50%以上減少した」
 と書かれています。

 子どもとの関連ではこのほか、出入国在留管理庁(入管庁)が2021年7月に発表した、子どもが無国籍のままとなっている理由に関する初の調査結果について、次のように言及されています。

 入管庁は、7月、無国籍児に関する初の調査を実施した。6月の時点で国内にいた4歳未満の無国籍児は217人であった。法相は、7月、国籍を立証する資料が不足していること、母国の当局による公的対応が必要であることが、これらの子どもの無国籍につながっていると発表した。法務省はまた、国内の無国籍児に関する公的かつ包括的なデータは存在しないことも認めた。
 2月には、ガーナ国籍の両親のもとに日本で生まれた子どもが、与党・自由民主党(LDP)の勉強会で、日本で生まれたのに事実上無国籍となっていることについて発言した。法相も、「この国で生まれた子どもの権利の基盤がそれ〔国籍がないこと〕で失われているなら問題だ」と認めた。

 セクシュアルハラスメントとの関連では痴漢に関する記述も充実しており、障害のある女性を狙った痴漢・ストーカー問題について詳しく取り上げられたほか、日本若者協議会のジェンダー委員会が行なった痴漢対策要求キャンペーンについても次のように記述されています。

 8月には、主に高校生・大学生から構成されるユース団体のジェンダー委員会が「NoMoreChikan」と題するオンライン署名キャンペーンを実施し、痴漢防止のために政府がより根本的かつ真剣な対応をとるよう要求した。同グループは、8月末に開いた記者会見で、政府に対し、痴漢についての詳しい調査を行なうこと、学校での啓発・教育を充実させること(被害を受けたときにどう対応すべきかについて生徒に教えることを含む)、加害者向けの矯正プログラムを設けることを求めた。同グループが集めた2万7,000筆以上の署名は、要請文とともに、9月に文部科学省、各政党および東京都議会に提出された。

 また、逮捕・拘禁に関する箇所では恣意的逮捕(Arbitrary Arrest)の項目が新たに立てられ、レイシャル・プロファイリングについての記述が追加されています。

恣意的逮捕:レイシャル・プロファイリングが疑われる事案で外国人が警察による職質問の対象とされているという、複数の信頼できる報告があった。対象者はその場に留まらされ、質問され、所持品検査をされた。黒人が、そのように考える理由はなかったにもかかわらず、薬物を所持しているのではないかと非難された事案も複数ある。対象者が、衆人環視のなか、靴を脱ぎ、ベルトなどの身につけているものをとるよう要求される事案もあった。
 6月にあるイスラム教徒の女性が報告したところによれば、警察は、日本人男性が自分と3歳の娘に暴言を吐くままに任せた。男性はその娘が自分の息子を蹴ったと主張したが、女性はこれを否定している。女性は、子どもとともに90分間その場〔公園〕に留まらされたあと警察署に連れていかれ、警察官5人が立会うなか狭い部屋で3時間の事情聴取を受けたうえに、娘と離れ離れにされてさらに尋問されたという。母親によれば、警察から、自分の名前・住所・電話番号を許可なく男性に伝えられた。その後、男性は女性と娘の写真を「殺人未遂犯」というキャプションつきでソーシャルメディアにアップした。

 2段落目で取り上げられている事件については、たとえば次の記事を参照してください。
-ハフポスト日本版〈「日本語しゃべれねえのか」ムスリム母子に違法聴取か「同意なく住所を漏らされた」と訴え。警視庁は回答せず
-Dialogue for People〈「日本語しゃべれねえのか?」警察の対応から浮き彫りになるレイシズムの根深さ―弁護士・西山温子さんインタビュー

 その後、女性は損害賠償を求めて東京都を提訴しています

 日本に関する部分の日本語訳は、そのうち在日米国大使館・領事館のサイトに掲載される見込みです(5月17日追記掲載されました)。

【追記】(4月16日)
 女性差別との関連で、ファミリーマートの惣菜シリーズ「お母さん食堂」の名称変更を求めて高校生が行なった署名についても簡単に取り上げられていたので、追記しておきます。記述内容は次のとおりです。

 3人の高校生が、大手コンビニに対して調理済み食品シリーズの名称を「お母さん食堂」から変更するよう求める署名で7500筆以上を集めた。高校生らは、この名称は妻の仕事が料理と家事だということを暗に示していてジェンダーバイアスをはらんでおり、社会的バイアスを強める可能性があると主張した。

 この件については、Business Insider〈ファミマ「お母さん食堂」の名前変えたいと女子高校生が署名活動、「料理するのは母親だけですか?」〉などを参照。なお、ファミリーマートはその後、シリーズ名を「ファミマル」に変更しています。

 また、昨年版には朝鮮学校に関する記述はありませんでしたが、2021年版では、第6部:差別および社会的人権侵害(Discrimination and Societal Abuses)に新たに設けられた〈制度的な人種的・民族的暴力および差別〉(Systemic Racial or Ethnic Violence and Discirmination)の項で、次のように書かれています。

 埼玉の朝鮮幼稚園の子どもたちが、園児や就学前施設職員にフェイスマスクを配布する行政の取り組みから除外されたとの報告があった。
 7月には最高裁が、朝鮮学校に対しても授業料補助を行なうよう政府に義務づけることを求めた訴訟で、請求を棄却した。朝鮮学校は在日朝鮮人に教育を提供しているが、日本政府はこれらの学校を承認していない。朝鮮学校64校を除き、すべての私立高校は政府から授業料補助金を受け取っている。都道府県がこれらの学校を承認し、独自に補助金を提供することは可能である。

 なお、マスクの件はさいたま市で起きた出来事ですが、さいたま市はその後、批判を受けて除外方針を撤回しました。毎日新聞〈マスクが配られた朝鮮学校幼稚園が浴びた「ヘイトの嵐」 そして…〉など参照。

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