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米・国務省人権報告書、日本のスポーツ界の体罰の問題にも注目

 米・国務省が毎年刊行している人権報告書の2020年版が発表されました(3月30日)。日本に関する部分(原文)は国務省のサイトから参照できます。

 昨年3月11日に2019年版報告書(日本に関する部分の日本語訳は在日米国大使館・領事館のサイトを参照)が発表された際、Facebookで次のように簡単にコメントしておきました。

 子どもの権利との関連では、例年どおり、とくに▽児童虐待(教員による子どもの性的虐待を含む)と▽子どもの性的搾取について焦点が当てられています。記述の内容は昨年版から大きく変わっていませんが、児童虐待に関する記述は昨年版よりも若干増えており、教員による子どもの性的虐待についても、「教員による子どもの性的虐待の報告が続いた。……」として独立のパラグラフで書かれるようになりました

 2020年版報告書では、子どもに対する虐待・暴力についての記述がさらに増え、新たにスポーツにおける体罰の問題が取り上げられています(日本語の taibatsu という言葉も紹介されています。以下、とりいそぎその部分だけ訳出しておきます。

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子どもに対する虐待:児童虐待の報告件数は引き続き増加した。NGOは、その原因の一部はCOVID-19〔新型コロナウイルス感染症〕にともなう自宅待機政策によるものであると指摘している。立法者は子どもに対する性犯罪および性暴力について懸念を表明した。公的データによれば、警察が2019年に捜査した児童虐待事件数は1,957件であり、前年から42パーセント増加している。そのうち1,629件が身体的暴力、243件が性的虐待、50件が心理的虐待、35件がネグレクトをともなうものであった。

教員による子どもの性的虐待が引き続き報告されている。文部科学省によると、子どもに対する性的非違行為(sexual misconduct)を理由として全国の地方教育委員会が懲戒処分とした公立学校の教員数は過去最高の280人であり(2018年4月~2019年3月)、前年から70パーセント増加した。同省は、懲戒処分を受けた教員の57パーセントを免職としている。法律上、免職とされた者の教員免許は失効するものの、3年を経過すれば再取得が可能である。9月には、保護者団体〔注/全国学校ハラスメント被害者連絡会〕が、子どもに対する性的非違行為で免職になった教員に対する教員免許の再発行を禁止する法改正を求め、およそ54,000筆の署名を同省に提出した。

「体罰」(taibatsu)として知られるスポーツにおける体罰は、長年の懸念となっている。6月には、ある報告書〔注/ヒューマン・ライツ・ウォッチによる報告書〕により、子どものアスリートに対する広範かつ組織的な体罰が詳細に明らかにされた。4月に制定〔注/施行〕された法律で体罰は禁止され、これはスポーツにおける虐待にも適用される。しかしNGOは、加害者にはこの法律を知らない者が多く、また団体スポーツにも適用される旨が明示的に定められていないことから、法律の実効性が損なわれていると主張している。加えて、政府およびスポーツ団体は法律の遵守を確保するための措置をとっておらず、また主張の提出は郵送またはファックス(子どもがこれらの手段を利用できるとは限らない)によって行なわなければならないという要件のため、虐待の通報が制限される可能性がある。

子どもはインターネットを通じた人権侵害の対象ともされた。人権侵害には、公共の場所にいる小学生の写真や動画を本人の同意なく公開することも含まれる。政府はサイト運営者に対してそのような画像の削除を要請し、多くは要請に応じたとされる。

 子どもの性的搾取に関する記述は2019年版から大きく変更されていませんが、「NGOは引き続き、予防のための取り組みが加害者向けではなく被害者向けに行なわれていることが多いという懸念を表明した」という指摘が加えられています。また、女性に対するセクシュアルハラスメントの項では、一般社団法人Colaboが運営するバスカフェを自民党議員らが視察した際に発生したセクシュアルハラスメント(一般社団法人Colaboによる抗議文〔PDF〕参照)についても、次のように書かれています。

4月には、自民党の衆議院議員らが10代の性的虐待サバイバー向けの施設を視察した。同グループのメンバーは、訪問中に性差別的な振舞いおよびハラスメントを行なったと非難された。これには、元文部科学大臣が未成年の少女の腰に手を当てたという訴えも含まれる。元文科相は後に「不快な思いをさせ」たことについて謝罪したものの、腰に手を当てた記憶はないとも付け加えた。安倍首相(当時)も、自民党総裁としての立場で元文科相に代わって謝罪した。

 他にもさまざまな問題が取り上げられていますが、日本に関する記述をとくに取り上げているのは、いまのところ朝日新聞ぐらいのようです。

★朝日新聞:日本の難民認定「プロセス厳格」 米、長期収容にも言及
https://www.asahi.com/articles/ASP303GXVP30UHBI005.html

 日本に関する部分の日本語訳は、そのうち在日米国大使館・領事館のサイト(主要報告書のページ)に掲載されると思います。(2021年5月14日追記掲載されました。サイトがリニューアルされ、「主要報告書のページ」はなくなったようです。)

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