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「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン(案)」へのパブリックコメント

【追記】(2024年3月22日)
 パブリックコメントも踏まえた最終版が、概要版や資料集とともに発表されました(こちらのページを参照)。私の意見もいくつか反映されているようです。

 ひとつ前の投稿の冒頭でも述べたとおり、こども家庭庁が本日(3月6日)午後5時まで「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン(案)~こども・若者の声を聴く取組のはじめ方~」についてのパブリックコメントを実施中です。

 このガイドライン(案)は、各府省庁や地方自治体の職員を対象とするもので、意見反映プロセスを(a)企画する、(b)事前に準備する、(c)意見を聴く、(d)意見を反映する、(e)フィードバックするという5段階に分け、国連・子どもの権利委員会の一般的意見12号(意見を聴かれる子どもの権利、2009年)なども踏まえながら、各段階での取り組みの進め方や配慮事項などを詳しく説明しています。

「声を聴かれにくいこども・若者の意見反映」に1章が割かれている(第3章)のも、重要な点です。事例もいろいろ紹介されており、全体としてはよくできているのではないでしょうか。こども基本法11条に基づいてこども施策に子ども・若者の声を反映させていくための取り組みを実質的・効果的なものにしていく、大きな一歩となることを期待します。

 いくつか修正したほうがよいと思われる点があったため、次のような意見を送りました(一部、字数の関係から意見では書かなかった内容も含まれています)。参考になれば幸いです。

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1)FAQ〈どのようなこどもに政策について意見を聴けばいいですか?〉(p.6)は、コラムの見出しと内容が対応していないので、見出しを〈どの年齢層のこどもに意見を聴けばいいですか?〉などと修正したほうがよいと思います。

2)p.6およびp.7で、子どもたちの意見を「翻訳」する(本質的なニーズをくみ取る)ことの必要性が指摘されています。趣旨はわかりますが、そこには大人による一方的・恣意的解釈のおそれが生じることも否定できません。「翻訳」という言葉は用いず、
「おとなによる一方的・恣意的解釈にならないように十分配慮し、可能であれば意見を提出したこどもの真意をあらためて確認しながら、こどもから出された意見に示されている本質的ニーズをくみ取って具体化を図っていく」
などとすることを提案します。

3)〈2. こども基本法上の「こども施策」とは?〉(p.8)で、▽こども施策には「こどもや子育て家庭に関連する幅広い施策が含まれ」ること、▽「あらゆる部署の施策は、こども・若者が当事者になり得ると考えられ」ることを指摘しているのは重要です。本文2段落目の「こども・若者の今と将来の生活に影響を与える政策や計画、施策、事業」を「こども・若者の今と将来の生活に【直接・間接に】影響を与える政策や計画、施策、事業」に修正する(【 】内を追加)と、さらによいと思います

4)第2章の1〈こども・若者の意見を聴く場面や方法〉では、「継続的な方法」のひとつに「こども・若者がモニター登録し、様々なテーマで対話やアンケートを実施」というものが挙げられていますが、それだけではなく、別途「→常設のしくみ」といった項目を設け、
「こども・若者が首長などに対していつでも意見を提出できるしくみの設置」
「国会や地方議会に対する請願・陳情のやり方の周知」

などを挙げておくべきかと思います。前者の例としては、川崎市(神奈川県)〈子ども・若者の“声”募集箱~君のつぶやきをきかせて~〉、大阪市(大阪府)〈「こども・若者の声」を募集します〉などがあります(こうした手法の必要性は、p.31に掲載されている子ども・若者の声でも多数指摘されています)。後者については、子ども・若者からの請願・陳情を処理する際、議会事務局や議員にもガイドラインに沿った配慮が求められることを強調しておくことが必要です。

 意見には含めませんでしたが、世田谷区(東京都)も〈子ども・若者の声とともにつくるページ〉を設けており、昨年(2023年)後半、〈せたがや子ども・若者の声ポスト(インターネットアンケート)〉を実施していました。その結果(PDF)が公表されていますが、そこでも、区に意見を伝える手段として「タブレットやパソコンを使った方法」がもっとも多く挙げられています(80件・78%)。

5)「こども・若者の意見表明をサポートする人材や役割」として、大学生や同じ経験をもつユース等、こども・若者と近い目線・価値観で意見の表明を支える「サポーター」が挙げられています(p.20)。また、ファシリテーターを確保する方法として「大学生等、こどもと年齢が近い一般の方に依頼する」を挙げている自治体も一定の割合で存在します(p.21)。
 年齢が近い(あるいは同世代である)ことは子ども・若者の意見表明を支援するうえで有効な要素になり得ますが、同時に、年齢が近い(あるいは同世代である)だけでファシリテーター/サポーターとして適格であるとは限りませんので、きちんとしたトレーニングやスーパビジョンの必要性を指摘しておくことが重要です。また、ファシリテーター/サポーター自身も「こども・若者」に該当する年齢である場合、参加者(意見を表明する子ども・若者)との境界があいまいになってしまう可能性もありますので、その点への注意喚起も必要でしょう。

6)FAQ〈Q 聴いた意見は全て反映しなければいけませんか?〉への回答(p.41)のなかで「こども・若者にとって一番良いことは何かを考えること」とあるのは子どもの最善の利益の原則を念頭に置いたものと考えられますが、このような表現では、子どもの権利条約の一般原則およびこども基本法の基本理念である同原則の説明としては不十分です。きちんと「子どもの最善の利益」という表現を用い、
「可能なかぎりこどもの利益を追求してこども・若者の意見を施策に反映するよう努めるとともに、他に考慮しなければならないことのためにこども・若者の意見を全面的に反映させることができない場合には、その理由と結論に至る考え方を説明し、対話する過程をつくることです」
といった説明にすることが求められます。あわせて、国連・子どもの権利委員会の一般的意見14号(自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(第3条第1項)、2013年)にも言及しておくのがよいでしょう。

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 送付した意見の内容は以上のとおりです。子どもの最善の利益の原則に関わる最後の点については、こども家庭庁自体の理解が依然として不十分ですので、もう少ししっかり考えてもらう必要があります。こども基本法施行に関するこども家庭庁長官の自治体向け通知へのコメントで、次のように指摘しておいたとおりです。

……子どもの意見と異なる結論が導かれる可能性があるのは「こどもにとって最善とは言い難いと認められる場合」に限定されません。子ども(たち)の意見のとおりにするのが子ども(たち)にとって最善であっても、その他の利益(関係する大人や機関の利益、社会や国の利益など)を優先させる決定が行なわれることもあります(予算配分などはその典型でしょう)。必要なのは、そうした現実をしっかりと見据え、可能なかぎり子どもの利益を追求するよう努めるとともに、子どもの利益を犠牲にして他の利益を優先させる場合にはその合理的理由をきちんと説明することです。子どもの最善の利益の原則は、「こどもにとって最も善いことは何か」を考慮するという口当たりのよい表現で説明しきれるものではありません。国連・子どもの権利委員会の一般的意見14号(自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(第3条第1項)、2013年)も参照。

 また、ひとつ前の投稿では末尾に〈より幅広い「意思決定プロセスへの」参加という視点を持つことも重要だと感じます〉と書いておきましたが、これは今後の課題として、今回の意見には含めませんでした。noteのマガジン〈子どもの意見表明・参加〉で紹介しているさまざまな資料も参考にしながら、引き続き考えていきたいと思います。

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