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幼い子どもの参加:保育者向けのガイド(スコットランド)

 スコットランド(英国)政府が2023年3月22日に発表した乳幼児の声:ベストプラクティス・ガイドラインと乳幼児への誓いについては、すでに何度か紹介してきました(チェックリストおよび実践例に関する投稿も参照)。

 スコットランドではこれ以前から乳幼児の参加に関するガイドがいくつか作成されていますので、そのひとつを紹介します。スコットランド・チャイルドマインディング協会(Scottish Childminding Association: SCMA)が2016年に発表した『子ども主導の参加:チャイルドマインダーのガイド』(Child-Led Participation: A Childminders Guide [PDF])で、アイルランドの子ども・若者参加支援機関「ハブナノーグ」のサイト(Toolkit & Guidelines のページ)などに掲載されているものです(あわせてアクティビティ・リーフレットも作成されているようですが、ネット上には見当たりませんでした)。

 SCMAがスコットランド子ども・若者コミッショナーおよびスターリング大学と共同で作成したこの保育者向けのガイドは、スコットランド子ども・若者コミッショナーが2013年に作成した「参加のための7つの黄金律」(Seven Golden Rules of Participation)を元にしています。以下、各項目について簡単に紹介します。


1.私の権利を理解して(Understand my rights)

 国連・子どもの権利条約に掲げられたさまざまな権利をホリスティックに――全体の、そして各部分の相互依存性の重要性を重視しながら――理解することの必要性を指摘するとともに、とくに12条(子どもの意見の尊重)に焦点を当てることが促されています。同時に、31条(休息・余暇・遊び・レクリエーション等に対する権利)への注意も喚起されています。

 あわせて、スコットランド政府が2006年から本格実施を開始し、2014年子ども・若者(スコットランド)法にもその主要な要素が盛りこまれたGIRFEC(Getting it right for every child:すべての子どもに正しい対応を)アプローチも参照されており、そこに掲げられた8つのウェルビーイング指標を踏まえた実践も提案されています。

GIRFECに掲げられた8つのウェルビーイング指標
(1)安全である
(2)健康的である
(3)達成のための支援を受けている(Achieving)
(4)愛情のある環境で生活できている(Nurtured)
(5)活動的である
(6)尊重されている(自己に影響を与える意思決定における意見表明・参加)
(7)責任ある役割を果たしている(Responsible)
(8)包摂されている

2.関わる機会(A chance to be involved)

 条約12条に焦点を当てた項目です。国連・子どもの権利委員会の見解も踏まえ、▽すべての子どもに自分の意見を自由に表明する権利があり、赤ちゃんや幼児も常に自分の気持ち、望み、考え方を常に伝達していること、▽決定に影響を与えたり決定を行なったりする「用意」が整ったと言える年齢または段階は定められておらず、個々の子どもの「発達しつつある能力」を考慮しなければならないことなどが説明されています(「発達しつつある能力」の概念については、国連・子どもの権利委員会が2023年10月11日付で発表した声明の、とくにパラ9~11も参照)。

 たとえば次のような例が挙げられています。ここでも、月齢/年齢はひとつの目安として示されているものでしょう。

● 0~18か月の子どもは、食べるもの、着るもの、誰といっしょにいたいか、何で遊びたいかについての決定に参加できる。
● 18か月~3歳の子どもは、何をどのぐらい食べるか、何を着るか、どんな活動をするか、誰と遊ぶ/時間を過ごすか、早期学習グループ(early years group)が設けられている場合にはどのグループにいつ参加するかについての決定に参加できる。
● 3~5歳の子どもは、食べるもの、着るもの、活動、人々、参加するグループ、周辺環境、新しい備品の購入、メニュー、1日のルーティン、問題・紛争の解決、自分自身および他の子どものケア、規則、境界についての決定に参加できる。

 同時に、▽12条は子どもに意見表明や決定への参加を要求するものではないこと、▽子どもがある時点で参加しないことを選んだ場合、その後の段階であらためて参加する機会が与えられるべきであることも指摘されています。

3.忘れないで-それは私が選ぶこと(Remember - it's my choice)

 選択肢を提供することが子どもの権利アプローチを確保するために必要な第1歩であることを強調しつつ、選択の質こそがもっとも大切であると指摘しています。中途半端で表面的な選択肢は条約およびGIRFECの要件を満たすものではなく、保育者は、子どもの決定を誘導しようとすることなく、提供される機会について十分な説明を行なわなければなりません。どのような可能性があるのかが完全に明らかにされれば、子どもは決める力を持つことができます。

 この項では遊ぶ権利についても触れられており、遊ぶ権利にとって中心的重要性を有するのは、子どもが、大人から管理されることなく、自分なりの活動やゲームを自由につくり出せなければならないという原則であると述べられています。換言すれば、遊ぶ権利は、自分自身の意見を表明する子どもの権利を通じて行使されるということです。

4.私を尊重して(Value me)

 この項では、子どもの声に耳を傾けて応答すること(Listening and Responding)に焦点が当てられています。子どもの声に耳を傾けるための手法にはさまざまなもの――たとえば観察、会話、パペットやカメラの利用など――があるとして、次のようなやり方が例示されています。

-個々の子どもに、何が楽しかったか、誰と遊んだか、何が好き/嫌いだったか、どう感じたか、どうしたかった/してほしかったかに関する、焦点を絞った質問をすること。
-担当者(key person)を中心とする少人数のグループで子どもたちに意見を求めること。
-子どもが自分たちに言ったことや、子どもが他の子どもに言ったことを書きとめること。
-子どもが他の子どもや大人とどのように交流しているか観察すること。
-子どもの遊び、関与や参加の度合いおよびスキーマを観察すること。
-子どものボディーランゲージ、反応および気分を観察すること。
-身ぶり、絵、記号、写真、キーワード、連続的出来事を伝えるためのピクチャーボードなど、低年齢の子どもとコミュニケーションするためのさまざまな方法を活用すること。
-子どもが描いた(切り抜いた)絵や子どもが撮った写真について話すよう、子どもに求めること。
-言いたいことを何でも録音するためのボイスレコーダーを子どもが使えるようにすること。

「耳を傾けること」とはどういうことかについても、次のように説明されています(具体的な説明は省略)。

● 耳を傾けることは生き方(a way of life)である。
● 耳を傾けることは継続的プロセスである。
● よく知っている大人に耳を傾けてもらえること。
● 耳を傾けるためには、子どもから学ぶことが要求される。
● 子ども、保育者および親の声に耳を傾けるということ。
● 幼い子どもに耳を傾けることは、傾聴の文化
(a listening culture)の一部である。
● 耳を傾けることと帰属感。

5.私を支えて(Support me)

 子どもが意見を自由に表明するためには次のものが必要であることが指摘されています。

● 関連性があり、適切で、子どもが理解できる形式および水準で提供される情報
● 子どもが意見を発展させ、はっきりと自信を持って述べられるようにするための時間、励ましおよび支援を提供される「スペース」
● 批判や処罰を恐れることなく意見を模索・表明するための安全性。子どもたちは、たとえ大人の意見に異議申立てをすることになっても懸念や意見を表明できるということに、確信が持てるべきである。

 追加的なニーズを有する乳幼児の保育のために必要な支援として、次のことも例示されています。

● 子どもを知っており、理解し、時間をかけて関わり、子どもが言いたいこと・やりたいことに我慢強く耳を傾ける、ひとりの主担当チャイルドマインダー。
● 子どもが強いきずなと友情を育んでいくことのできる少人数の子ども。
● まわりにあるものを何でも遊びのために使ったり、走ったり、登ったり、ジャンプしたりして遊べること。
● 安全でよく知った環境である、チャイルドマインダーの自宅と庭。
● 子どもが人々、家々、木々および動物を認識することのできる、地元の環境、店舗、遊び場、公園などへの訪問。
● 子どもがより多くの子どもたちおよび大人と会うことのできるプレイグループへの定期的訪問。

6.いっしょに取り組んで(Work together)

 この項では、真の子ども参加が子どもと保育者にもたらす利益や成果について説明されています。

7.終わりにしないで(Keep in touch)

 親およびケア監査機関(Care Inspectorate)との協働について述べられています。

 このガイドで述べられていることには、とくに 4.私を尊重して で説明されている「耳を傾けること」の意味も含め、乳幼児に限らず通用するものが多いと思います。幼いころから子どもの声にきちんと耳を傾けることを通じ、「傾聴の文化」を発展・定着させていきたいものです。

【追記】(2024年1月3日)
幼い子どもたちと相談するためのツールキット(スコットランド)〉も参照。


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