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国連・子どもの権利委員会:子どもの権利条約第5条(親の指示・指導)に関する声明

国連・子どもの権利委員会の第94会期が終了:スケルトン委員長、個人通報議定書の批准をあらためて呼びかけ〉の本文に追記しておきましたが、国連・子どもの権利委員会は、子どもの権利条約第5条(子どもの発達しつつある能力を踏まえた親の指示・指導)についての声明PDF)を採択しました。同声明(2023年10月11日付)が12日の夕方(日本時間)に公表されたので、以下、全訳を掲載します。

 前掲追記で推測しておいたとおり、今回の声明は、とくに「子どもの発達しつつある能力」(evolving capacities)との関連で委員会がこれまでに表明してきた見解を整理したものになっています。とくに、
〈親(および他の者)は、子ども中心の方法で、対話することおよび模範を示すことを通じ、……自己の権利を行使する乳幼児の能力を増進させるようなやり方で「指示および指導」を与えるよう、奨励されるべきである〉(乳幼児期における子どもの権利の実施についての一般的意見7号、パラ17;今回の声明のパラ9)
〈子ども自身の知識、経験および理解力が高まるにつれて、親、法定保護者または子どもに責任を負うその他の者は、指示および指導を、子ども自身の気づきを促すための注意喚起およびその他の形態の助言に、そしてやがては対等な立場の意見交換に、変えていかなければならない。このような転換は、子どもの発達の固定された時点で生じるのではなく、子どもが自分の意見を表明するよう奨励されるなかで着実に進行していくものである〉(意見を聴かれる子どもの権利についての一般的意見12号、パラ84;今回の声明のパラ11)
 などの指摘がポイントになるかと思います。

【追記】(10月14日)
 委員会が今回このような声明を発表したのは、来年(2024年)が国際家族年(1994年)30周年であることとも関連しているのではないかと思います。


2023年10月11日

子どもの権利条約第5条に関する
子どもの権利委員会の声明

第5条
 締約国は、親、または適用可能な場合には地方的慣習で定められている拡大家族もしくは共同体の構成員、法定保護者もしくは子どもに法的な責任を負う他の者が、この条約において認められる権利を子どもが行使するにあたって、子どもの発達しつつある能力と一致する方法で適当な指示および指導を与える責任、権利および義務を尊重する。
国際教育法研究会訳を平野が一部修正)

声明の目的

1.この声明の目的は、子どもの権利条約(条約)第5条に掲げられた親の指導および子どもの発達しつつある能力の概念について明らかにすることである。この声明はさらに、条約前文で述べられている「社会の基礎的集団として、ならびにそのすべての構成員とくに子どもの成長および福祉のための自然的環境として」の家族の重要性に照らし、第5条が、子どもの権利と、親の責任、権利および義務ならびに子どもの権利を確保する国の義務とのバランスをどのようにとっているかについて説明しようとするものでもある。

2.家族は条約の起草時にはすでに国際法で保護されていた[1]ものの、条約は――とくに第5条を通じて――新しい、画期的な要素をもたらした。家族が国の不当な干渉から保護されるのみならず、子どもが、親または子どもに法的な責任を負う者から適当な支持および指導を受ける権利と、親が十分な保護を提供しない場合に国から直接の保護を受ける権利[2]の両方を持つことになったのである。

第5条のホリスティックな理解

3.第5条の要素のひとつだけを取り出して他の要素を無視しまたはないがしろにする解釈――たとえば、「この条約において認められる権利を〔子どもが〕行使する」際の「適当な指示および指導」に同時に言及せずに親の権利を強調すること――は、いかなるものであれ、同条の正確かつホリスティックな理解に反することになろう。

権利の保有者としての子ども

4.子どもの権利委員会は、1989年に条約を採択したことを通じて締約国から表明された、子どもをその親とは別に権利の保有者として承認するという法的コミットメントを想起する。

5.委員会は、第5条で次のことが確認されていることをあらためて指摘する。すなわち、すべての子どもは年齢にかかわらず権利を有しており、かつ、子どもは、成長し、発達し、成熟し、かつ自分の家族を越えて社会の輪を広げていくにつれて、それらの権利の行使においていっそうの責任、主体性(agency)および自律性(autonomy)を享受する資格を持つようになっていくということである。子どもの発達しつつある能力が、子どもの生活に関して指示および指導を与える大人によって認識・尊重されなければならない[3]。

「適当な」指示および指導を受ける子どもの権利

6.子どもは、その権利を行使するにあたり、親による適当な指示および指導を受けるべきである。また、親が子どもの権利を十分に保護しない場合または場合により子どもの権利を侵害する場合には、国による直接の保護も提供されるべきである[4]。国はまた、子どもに対して適当な指示および指導を行なう親、拡大家族、法定保護者および共同体の構成員の能力構築を図る責任も負う[5]。

7.委員会は、子どもを指導する親の責任、権利および義務は絶対的なものではなく、むしろ権利の保有者としての子どもの地位によってその限界が定められることに留意する。親による指示および指導の提供は、子どもの権利を尊重・確保するやり方で実行されなければならない。子どもの養育および発達についての親または法定保護者の第一次的責任を強調する条約第18条では、「子どもの最善の利益が、親または法定保護者の基本的関心となる」とされている。

8.親は、子どもに適当な指示および指導を与える際、子どもの意見を考慮するべきである。子どもが成長・成熟するにつれて子どもの意見がいっそう重視されるべきであり、親は、自己の権利の行使に子どもの発達しつつある能力を反映させるために指導および指示のあり方を修正するよう求められる[6]。子どもの意見を引き出して聴くことは、指示および指導を与える際および子どもの最善の利益を評価・決定する際の双方における要件である[7]。

権利行使を可能にする原則としての発達しつつある能力

9.委員会は、親によって与えられる指示および指導が、子どもが調和のとれた形で可能なかぎり最大限に発達することを目的とするべきであり、かつ子どもが自己の権利を徐々に行使できるようにするべきであることをあらためて指摘する[8]。親は、子ども中心の方法で、対話することおよび模範を示すことを通じ、自己の権利を行使する子ども(低年齢の子どもを含む)の能力を増進させるようなやり方で指示および指導を与えるよう、奨励されるべきである[9]。

10.委員会は、子どもの発達しつつある能力の概念が、親から独立した権利の保有者としての子どもの地位の承認にとって中心的重要性を有しており、家族による恣意的な管理からの子どもの保護に寄与することを再確認する[10]。この概念は、子どもが独立して自己の権利を行使するのに十分な成熟度および能力水準に達したときは、親による指示および指導の必要性は減少することを確認するものである[11]。子どもは、力を獲得していくにつれて、自己に影響を与える事柄の規制に関してますます高い水準の責任を負う資格を有するようになる[12]。発達しつつある能力は、権利行使を可能にする積極的な原則としてとらえられるべきであって、子どもの自律および自己表現を制約するとともに、子どもの相対的無能力に訴えることによってしばしば正当化される、権威主義的慣行の言い訳としてとらえられるべきではない[13]。

11.委員会は、子どもに与える支援および指導の水準を継続的に修正していく親の責任の重要性を想起する。このような修正においては、子どもの関心および望みならびに自律的な意思決定能力ならびに最善の利益の理解力が考慮されるべきである[14]。子どもの知識、経験および理解が増すのにしたがい、親、法定保護者または子どもに責任を負う他の者は、指示および指導を注意喚起および助言に、そしてその後は対等な立場での意見交換に、変化させていかなければならない。このような変化は、子どもの発達におけるいずれかの固定された時点で生じるのではなく、子どもが意見表明を奨励されるなかで着実に進行していくことになろう。それにつれて、子どもの意見がいっそう重視されるようになるべきである[15]。

全体としての、かつ条約の趣旨および目的に一致する、第5条の解釈

12.委員会は、第5条が常に全体として、かつ条約の趣旨および目的ならびに子どもが権利の保有者である旨の条約による確認と一致する形で解釈されなければならないことを、あらためて指摘する[16]。ここでも、「適当な」指示および指導の解釈は条約全体と一致していなければならず、暴力的な、または他の残虐なもしくは品位を傷つける形態のしつけが正当化される余地はない[17]。したがって、親が条約に基づく子どもの権利に反するやり方で自己の責任、義務または権利を行使する場合、国の義務は、親の責任、権利および義務を支援することから、子どもの権利を保護しまたは養護する義務にいっそう焦点を当てることへと転換される。

13.委員会は、18歳未満のすべての個人は子どもであって、条約に掲げられたすべての権利を享受する資格が例外なくあることを、あらためて指摘する。さらに、家族における平等についての女性および女児の権利は国際人権法で認められてきた[18]。したがって、「家族の保護」[19]も文化または宗教の参照も、女児に対して全面的かつ平等な人権を否定する法律、政策または――児童婚、女性性器切除もしくは国籍・監護権関連の差別のような――慣行を正当化するために用いることはできない[20]。親の指示および指導においては、女児を含む子どもがいかなる形態の差別からも自由に自己の権利を行使できるようにすることが目指されるべきである。親の指示および指導が差別を促進することになる場合、国は、指示および指導を与える親の権利を尊重する必要はない。



[1] UDHR〔世界人権宣言〕第16条(3);ICCPR〔自由権規約〕第23条;CESCR〔社会権規約〕第10条。

[2] CRC〔子どもの権利委員会〕、一般的意見20号〔思春期における子どもの権利の実施〕、パラ19。

[3] CRC、一般的意見20号〔思春期における子どもの権利の実施〕、パラ42‐43;CRC、一般的意見15号〔到達可能な最高水準の健康を享受する子どもの権利〕、パラ31;CRC、一般的意見8号〔体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰から保護される子どもの権利〕、パラ47;CRC、一般的意見7号〔乳幼児期における子どもの権利の実施〕、パラ5;CRC、一般的意見4号〔子どもの権利条約の文脈における思春期の健康と発達〕、パラ7。

[4] 子どもの権利条約第19条。CRC、一般的意見8号〔体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰から保護される子どもの権利〕、パラ13;CRC、一般的意見20号〔思春期における子どもの権利の実施〕、パラ19。(CRC、一般的意見21号〔路上の状況にある子ども〕、パラ35)

[5] CRC、一般的意見21号〔路上の状況にある子ども〕、パラ35。

[6] CRC、一般的意見4号〔子どもの権利条約の文脈における思春期の健康と発達〕、パラ7;CRC、一般的意見7号〔乳幼児期における子どもの権利の実施〕、パラ17;CRC、一般的意見12号〔意見を聴かれる子どもの権利〕、パラ84および85。

[7] CRC、一般的意見14号〔自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(第3条第1項)〕、パラ44。

[8] CRC、一般的意見12号〔意見を聴かれる子どもの権利〕、パラ91。

[9] CRC、一般的意見7号〔乳幼児期における子どもの権利の実施〕、パラ17。

[10] 子どもの権利条約の準備作業(Travaux Preparatoires)で述べられているように、「家族を国から保護する際、子どもに対する恣意的支配権が家族に与えられてはならない。家族に対して与えられる国からのいかなる保護も、家族内での子どもの保護との平等なバランスが図られなければならない」(E/CN.4/1987/25: para. 106 and Legislative History, Vol. 1, 35)。

[11] CRC、一般的意見7号〔乳幼児期における子どもの権利の実施〕、パラ17。CRC、一般的意見20号〔思春期における子どもの権利の実施〕、パラ20も参照。

[12] CRC、一般的意見12号〔意見を聴かれる子どもの権利〕、パラ85。

[13] CRC、一般的意見7号〔乳幼児期における子どもの権利の実施〕、パラ17。

[14] CRC、一般的意見7号〔乳幼児期における子どもの権利の実施〕、パラ17。

[15] CRC、一般的意見12号〔意見を聴かれる子どもの権利〕、パラ84;CRC、一般的意見14号〔自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利(第3条第1項)〕、パラ44。

[16] 条約法に関するウィーン条約第31条1項。

[17] CRC、一般的意見8号〔体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰から保護される子どもの権利〕、パラ28。

[18] 女性差別撤廃条約第16条。

[19] A/HRC/Res/29/22.

[20] ウィーン宣言および行動計画、パラ5。

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