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COP28――子どもに関わる成果と課題

 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで2023年11月30日~12月13日に開催されたCOP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)については、年明けの〈世界の子どもの権利 in 2023――困難な時代の前進〉でも簡単に触れておきました。

 子どもに関わる成果については、ユニセフ(日本ユニセフ協会)〈COP28閉幕に伴い、ユニセフ声明 希望ある約束を行動に 気候資金の規模拡大が必要〉、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン〈世界の子どもたちの想いは各国のリーダーたちに届いたのか~COP28で示された気候変動対策のための合意文書とは~〉などのリリースがわかりやすいかと思います。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのリリースから抜粋します(太字は平野による)。

COP28で合意された成果文書では、以下の文言や内容が盛り込まれました。

子どもと専門家の対話を実施することが決定:成果文書のパラグラフ182において、今後、子どもと気候変動に関する専門家との対話を開催し、気候変動が子どもに与える不釣り合いな影響と、その解決策について議論することが明記されました。

成果文書の3つのパラグラフで子どもに関して言及:これらのパラグラフでは、気候変動における子どもの権利、気候変動に対する行動を成功させるための子どもの参加の必要性を認め、締約国に対し、子どもをエンパワーするような行動を実施するよう促しています。

締約国に対して「化石燃料からの脱却(transition away)」などを求めることに同意:この同意は正しい方向への一歩であると評価します。しかし、排出削減を公正に進めていくためには、さらに野心的な「化石燃料からの段階的廃止(phasing out)」を合意すべきだったと考えます。

 ここでいう成果文書とは、パリ協定14条に基づいて今回初めて実施されたグローバル・ストックテイク(世界全体としての実施状況の検討)の結果を踏まえてまとめられた、「第1回グローバル・ストックテイクの成果」(Outcome of the first global stocktake)と題する文書(改訂先行公開版PDF)のことを指します(ストックテイク stocktake はもともと「棚卸し」という意味で使われることが多い言葉です)。

 そのパラ182では次のように書かれています。

「182.〔締約国会議は〕また、実施に関する補助機関に対し、その第60会期において、気候変動が子どもに及ぼす不均衡な影響およびこの点に関わる関連の政策的解決策について議論するため、関連する国連機関、国際機関および非政府組織によるこの努力への関与を得ながら、子どもと気候変動に関する専門家対話(expert dialogue)を開催することも要請する」

 その他、次の3つのパラグラフで子どもへの言及があります。

● 前文第8段落:「気候変動が人類共通の関心事であり、締約国が、気候変動に対処するための行動をとる際に、人権、清浄、健康的かつ持続可能な環境に対する権利、健康についての権利、先住民族、地域コミュニティ、移民、子ども、障害のある人および脆弱な状況にある人々の権利ならびに開発の権利に関するそれぞれの締約国の義務、ならびに、ジェンダー平等、女性のエンパワーメントおよび世代間の衡平を尊重し、促進しかつ考慮すべきであることを確認し、」

● パラ9:「気候危機に対する持続可能かつ公正な解決策は、先住民族、地域コミュニティおよび地方政府、女性ならびに若者および子どもを含むすべてのステークホルダーによる意味のある有効な社会的対話および参加を踏まえたものでなければならないことを再確認し、……」

● パラ178:「また、締約国に対し、ジェンダーに敏感で、人権を全面的に尊重し、かつ若者および子どものエンパワーメントにつながる気候政策および気候行動を実施することも奨励する」

 一方、「専門家対話」で関与を得るべき対象として子ども・若者が明示されていない点も含め、関連のプロセスに子どもや若者を包摂・統合していこうとする姿勢は後退しているように思われます。昨年のCOP27で採択されたシャルム・エル・シェイク実施計画には、
「気候変動への対処および対応における変革の担い手としての子ども・若者の役割を認識し、締約国に対し、……気候政策および気候行動の立案・実施プロセスに子ども・若者を包摂するとともに、自国の代表団に若者の代表および交渉担当者を含めることを適宜検討するよう、奨励する」(パラ55)
 というパラグラフが含まれていたことを思えば、この点は残念です。

 COP28では12月8日に若者・子ども・スキル・教育デーも開催されており、これは歓迎すべき流れですが、より統合的・包摂的なアプローチが求められます。

 なお、COP28には国連・子どもの権利委員会アン・スケルトン委員長も参加していました。スケルトン委員長は、2023年12月11~12日にかけてジュネーブで国連欧州本部で開催された世界人権宣言採択75周年記念イベントにも出席し、委員会の一般的意見26号を中心に子どもの権利と環境について発言していますので、その内容を訳出しておきます(太字は平野による)。

 子どもの権利委員会は、子どもたちが、人権擁護者として、自分たち自身の権利だけではなく、それどころか私たち全員の権利を守るための闘いに勇気を持って立ち上がっていることに、深く感銘を受けてきました。子どもたちは、将来世代のためにさえ立ち上がっているのです。それはもちろん私たち全員の責任であり、将来世代のために環境を保全していかなければならないのですが、子どもたちはその責任を自らの肩に担おうとしています。

 そのことに示唆を受け、子どもの権利委員会は、とくに気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境についての一般的意見26号を発表しました。そこでは、子どもたちの権利が気候変動によってどのように不均衡な影響を受けているかをある程度明らかにするとともに、子どもたちには清浄、健康的かつ持続可能な環境に対する権利があることも明確にしています。この権利は、すでに196か国が批准した子どもの権利条約に根ざしたものなのです。

 一般的意見では、国の義務についてもある程度詳しく述べています。これには、緩和・適応のための子どもに特化した措置が含まれますし、気候資金や損失・損害に関する同様の措置さえも含まれます。

 私たちは各国に行動を起こしてほしいと思いますし、この詳細な文書をしっかりと活用して自国の計画、予算策定、立法、プログラムに根づかせてほしいと思います。とくに、子どもの権利委員会は、環境関連の意思決定における子どもの権利影響評価を当たり前のこと(the order of the day)にするよう提案しています。

 一般的意見では、各国に対し、権利侵害に対する救済を提供し得るしくみに子どもたちが関与できるよう、子どもたちが司法にアクセスするための経路を提供することも奨励しています。このようなしくみとしては、子どもたちからの環境関連の苦情申立てを受理することのできる子ども中心の国内人権機関も考えられますが、各国は、子どもが裁判手続を主導する際の障壁を取り除くこと、戦略的訴訟に参加したいと考える子どもの原告適格についての規則を修正することも、検討するべきです。実際、世界の多くの地域でこのような対応がとられています。

 数日前、私はCOP28に出席していて、フランシスコその他の子ども活動家のみなさんといっしょにパネルディスカッションに参加しました。その場で子どもたちの声がどのように聴かれているかを目にすることができて、よかったと思います。この場にもたくさんの子どもたちがいますし、子どものことが議題に上っています。

 けれども子どもの権利委員会は、「未来サミット」のための準備において子どもたちが不可視化されていること、「子どもの権利の主流化」に関する国連事務総長のガイダンスノートにもかかわらず子どもたちが主流化されていないことを、非常に懸念しています。私たちがこのことを懸念するのは、子どもたちは私たちのなかでもっとも長く生きる存在であり、将来世代に近い存在でもあるからです。したがって、「未来のための協定」に向けた準備に子どもたちを包摂することは絶対に不可欠であり、私たちは各国に、そのための議題の中心に子どもたちを位置づけるよう促します。

 スケルトン委員長が最後に触れている国連未来サミットについては委員会としての声明(PDF)も出されていますので、〈世界人権宣言採択75年――「子どもたちの人権ビジョン」〉の末尾に採録したFacebookポストを参照してください。

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