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新型コロナ禍が子どもたちに及ぼした影響:欧州諸国の子どもオンブズパーソンによる「子どもの権利影響評価」(CRIA)

 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミックが子どもたちに及ぼしている影響の調査や評価に関して各国の子どもオンブズパーソン/コミッショナーが果たしてきた役割について、これまでにも何度か紹介してきました。

1)〈スコットランド子ども・若者コミッショナー、新型コロナ対策の影響に関する独自評価の結果を踏まえて「子どもの権利上の緊急事態」を憂慮
2)〈イングランドの子どもコミッショナーが新型コロナと子どもに関する提言を発表
3)〈新型コロナと子ども――オーストラリアの「キッズ・ヘルプライン」に寄せられた声
4)〈英国の4つの子どもコミッショナーによる新型コロナ関連のオルタナティブレポート
5)〈欧州諸国の子どもオンブズパーソンによる新型コロナ関連の取り組み
6)〈新型コロナと子どもの権利――ニュージーランド子どもコミッショナーの取り組み
7)〈新型コロナと子どもたち:アイルランド子どもオンブズマンによる調査結果〉(2022年7月14日追加)

 5)の記事で紹介したENOC(子どもオンブズパーソン欧州ネットワーク)はさらに、ユニセフ(国連児童基金)欧州・中央アジア地域事務所と協力して、COVID-19に関連する各国の措置が子どもの権利に及ぼした影響についての調査も実施しています。

 この調査は、CRIA(子どもの権利影響評価)の実施方法を発展させる取り組みの一環として、13か国(アルバニア、ブルガリア、キプロス、ジョージア、ギリシャ、アイルランド、キルギス、モルドバ、モンテネグロ、セルビア、オランダ、タジキスタン、ウズベキスタン)の子どもオンブズパーソン事務所が参加して行なわれたものです。国別報告書に加え、今年4月に発表された総合報告書(Sythesis Report)などの関連資料は、こちらのページの中ほど(ENOC/UNICEF Initiative on Impact Assessment of Covid-19 State Measures on Children's Rights)に掲載されています。

 調査の結果わかったのは次のようなことです(前掲ページに掲載された Snapshot on the Findings より)。日本についても同様のことが言えるのではないかと思います。

 13件のCRIAで得られた知見から確認されたのは、〔COVID-19の〕封じ込め措置が、子どもたちのことをほとんど考慮せずに策定されたことである。それどころか、全般的に、子どもたちはその他の集団と区別されていなかった。子どもたちのことが考慮された場合、または措置が子どもたちに直接関わるものであった場合でも、子どもたちはしばしば均質的な集団として扱われ、異なる集団の子どもたちに措置がどのように適用されるべきかについての差異化は行なわれなかった。若干の希望の光も見えるとはいえ、関連措置は子どもたちの権利(とくに教育に対する権利、到達可能な最高水準の健康に対する権利、あらゆる形態の暴力から保護される権利ならびに遊ぶ権利およびレクリエーション活動を楽しむ権利)に主として否定的な影響を及ぼしていた。

 その結果、「関連措置の実施により、すでに存在する子どもの権利侵害や社会的不平等がいっそう可視化されただけではない。これらの侵害や不平等は、さらに根深いものとなった」とされます(報告書p.15)。

 6月1日には報告書のローンチ(発表)イベントがオンラインで開催され、私も視聴しました。

 たとえば教育に対する権利(報告書pp.34-37)との関連では、次のような否定的影響があったと報告されています。

- オンライン学習からの一部の生徒の排除
- 学校・教員から提供される支援の不平等さ
- 親による支援への依存
- ソーシャルワーカーおよび支援ネットワークにアクセスできないことに起因する。暴力事案の報告数の低下
- メンタルヘルス関連の問題の増加

 他方、次のような肯定的影響も見られました。

- 教育プロセスへの親の積極的関与
- デジタルコンピテンシーの向上
- 自立的学習
- コンピューター機器/インターネットへの接続状況の改善
- 一部の子どもの、学習プロセスへの関与の向上

 調査結果を踏まえた各国の子どもオンブズパーソン/コミッショナーの勧告を集約する形で、子どもの権利への影響がとくに顕著だったいくつかの分野について、次のような勧告または知見が提示されています(報告書pp.48-51)。

● 教育に対する権利:学校閉鎖のような措置は最後の手段としてのみとられるべきであり、まずはその他の選択肢を模索するべきである。また、オンライン学習によって既存の不平等が悪化しないことも確保するべきである。
● 到達可能な最高水準の健康に対する権利:多くのCRIAで、さまざまなCOVID-19関連措置が子どもの健康(とくにメンタルヘルス)に及ぼしてきた影響について強調されていた。子どもが利用できるメンタルヘルスサービスの不足はほとんどの国でパンデミック以前から問題になっており、パンデミックの過程でいっそう可視化されている。
● あらゆる形態の暴力から保護される権利:子どもを暴力から保護するために設けられているサービスおよびプログラムの維持または強化を確保するとともに、暴力への対応および暴力に関する意識啓発のための追加的な枠組みとキャンペーンを創設するべきである。
● 遊ぶ権利およびレクリエーション活動に参加する権利:遊びやレクリエーション活動は子どものウェルビーイングと発達にとって不可欠である。遊びその他のレクリエーション活動に影響を及ぼすCOVID-19関連措置は、遊ぶ権利のみならずその他の権利(到達可能な最高水準の健康に対する権利など)にも影響を与えた。
● 家庭環境・代替的養護に関連する子どもの権利:代替的養護下にある子どもは、孤立しているためにCOVID-19関連措置の影響を不均衡に受けていた。また、移住によって取り残された子どもは必ずしも明確な法的地位を有しておらず、中央アジア諸国からは、このような子どもたちを対象とする後見手続の改善を求めた。
● 法律に抵触した子どもの権利:少年収容施設の子どもはCOVID-19関連措置の影響を不均衡に受けており、家族および施設外の友人との接触を長期間奪われて孤立していた。子どもを少年収容施設から釈放するとともに、釈放されない子どもに対しては家族との定期的接触を維持する手段を提供するべきである。
● 社会サービスその他の家族支援サービスにアクセスする権利:COVID-19関連措置(とくに移動の自由の制限)によって必須社会サービスへのアクセスが妨げられた。一部の子どもはこれらの制限によってとくに影響を受けた(障害のある子ども、移住によって取り残された子ども、これらのサービスに依存しているその他の脆弱な状況に置かれた子ども)。

 ENOCのサイトにはCOVID-19パンデミックと子どもの権利に関する特設ページも設けられており、各国の子どもオンブズパーソン/コミッショナーの取り組みに関する資料も掲載されています。まだ紹介していないものについて、そのうち取り上げるかもしれません。

 なお、ローンチイベントには国連・子どもの権利委員会の大谷美紀子委員長も参加し、「子ども影響事前評価・事後評価の必要性」について指摘した委員会の一般的意見5号(子どもの権利条約の実施に関する一般的措置、2003年、パラ45-47)にも言及しながらENOCによる今回の取り組みを歓迎するとともに、CRIAに常に子ども参加の要素を含める必要性を強調していました。

注/委員会がCRIAに言及した一般的意見としては、他に一般的意見14号(自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利、2013年)のパラ99、一般的意見16号(企業セクターが子どもの権利に与える影響に関わる国の義務について、2013年)のパラ78~81など参照。

 ウェールズ(英国)におけるCRIAの実施プロセスについて、〈ウェールズ政府(英国)、子どもの権利アプローチを実践するための政府関係者向けマニュアルを作成〉も参照。

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