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OECD、新型コロナ禍と若者に関する新たな報告書を発表

 OECD(経済協力開発機構)は、3月17日、若者を対象とする各国のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策を検証した報告書『若者への対応:政府はどのように若者を復興の中心に位置づけられるか』Delivering for youth How governments can put young people at the centre of the recovery)を発表しました。

 この報告書は、若者(15~29歳)が主導する72か国の151団体(OECD加盟国38か国中36か国の100団体を含む)から出された意見を踏まえたものです。2020年6月に発表された報告書『若者と新型コロナウイルス感染症: 対策、復興と危機対応能力』をアップデートするものとも位置づけられています。

 以下、まとめにあたる主要な政策メッセージ(Key policy messages)を訳出しておきます。太字は原文ママです(ウェブ版PDF版では強調されている箇所が異なりますが、ここではウェブ版報告書に依拠します)。

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● 若者団体がもっとも懸念しているのはCOVID-19がメンタルヘルスに及ぼす影響であり、次いで教育・雇用関連の成果への影響、家族関係・友人関係への影響および個人の自由の制限である。
● OECD加盟国の若者団体の半数以上は、パンデミック緩和のための科学的エビデンスの活用のあり方(53%)やパンデミックに関する市民へのリスクコミュニケーションのあり方(54%)について、メンバーが政府の対応に満足していることを明らかにしている。
● 他方、調査対象とされたOECD加盟国の若者団体は、COVID-19危機中の若者への公共サービスの提供のあり方については、政府の対応についてやや不満を持っていた。このことは、スポーツ・文化・余暇(63%)、教育(60%)、住居(56%)、雇用(56%)の分野で顕著であり、程度はやや下がるものの、保健(46%)、交通・移動(36%)、司法(33%)の分野でも同様であった。
● 若者団体は、COVID-19危機が若者のウェルビーイングに及ぼす直接の影響以外に、より幅広い社会的影響についても懸念を表明している。OECD加盟国の若者団体がもっとも憂慮しているのは、危機が若者の権利に及ぼす影響(72%)、年齢層間の不平等(69%)、ディスインフォメーションの拡散(67%)、人種差別(61%)および政治的分極化(56%)である。59%が、この危機によって政府の関心が気候変動への対処に向かなくなるのではないかと憂慮している。45%は高齢者のウェルビーイングについて懸念を表明しており、31%は公的債務のことが心配だと述べている。
● OECD加盟国の若者団体は、対応・復興のための措置を形づくる機会を若者が持っていないことに懸念を表明している。ロックダウン・外出禁止措置を採択する際に政府が若者の意見を考慮したと感じているのは、15%にすぎなかった。半数以上が、金銭的支援制度(56%)やインフラ投資対応(54%)に若者の意見が組みこまれていないと考えている。
● OECD加盟国の若者団体の3つに1つ(38%)は、COVID-19危機が始まってから政府に対するメンバーの信頼感が低下したと推定しており、高まったと報告しているのは16&にすぎない。同様に、民主的プロセスに対するメンバーの満足感が同じ期間に低下したと述べる団体は31%で、高まったと報告しているのはわずか15%である。
● 比較可能な国家的対応・復興計画が定められているOECD加盟国32か国中29か国で、若者を対象とする具体的な政策、プログラムまたはその他のコミットメントが計画に含まれており、そのうち10か国はそのプロセスで若者とどのように協議したかについても述べている。
● 比較可能な国家的対応・復興計画が定められているOECD加盟国32か国中24か国で、脆弱な状況に置かれている若者を支援するための措置が設けられている。
● 調査対象とされたOECD加盟国の若者団体のほぼすべてが、たとえば(オンライン)ワークショップの開催や広報キャンペーンの実施(不利な状況に置かれたグループ向けのものを含む)などを通じてCOVID-19の影響の緩和に貢献してきた一方、対応・復興計画を定めているOECD加盟国のうち、復興措置の実施に若者がどのように関与できるかを説明しているのは3分の1に満たない。

 若者を対象とする公正、包摂的かつレジリエントな復興の実施をよりよく確保するために、政府はさまざまな公共統治アプローチを検討することができる。これには次のようなものが含まれる。

● 関連するすべての部門全体で――具体的な部門別政策と、適切な行政段階における統合的な若者戦略の双方を通じて――若者を支援することに対する統合的アプローチを採用し、危機が若者に及ぼす影響についての公務員の意識啓発および部門横断的な協力のための機構づくりを図る。
● 政策的優先課題の特定、政策・サービス・(支援)プログラムの立案、公共資源の配分を含む対応・復興措置に、すべての年齢層の視点を組みこむ
● 法律、諸戦略および十分な資源を配分されたプログラムを通じて意味のあるボランティアサービスとユースワークを促進することにより、社会的結束の構築および復興のための取り組みの実施に、若者と若者団体の関与を得る。
● 年齢ならびに若者が関連する他のすべてのアイデンティティおよびそれらの組み合わせ(社会経済的地位および居住地、ジェンダー、人種・民族、先住民族性、移住者としての地位ならびに能力(障害)に関わる地位を含む)によって細分化されたデータおよびエビデンスの収集・活用・共有を向上させることにより、さまざまな年齢層に危機が及ぼす長期的影響を評価・予測する。
● 上記の勧告にのっとって若者を対象とする公正、包摂的かつレジリエントな復興を進めていく政策立案者の制度的・行政的・技術的能力およびスキルを構築していく
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 報告書には、国家的なCOVID-19対応・復興計画で若者へのコミットメントがどの程度位置づけられているかを示した一覧表も掲載されていますが(p.24)、日本は、(1)エビデンスに基づいている(若者への影響にとくに焦点を当てたパンデミックの年齢別影響に関する統計情報が計画に記載されている)、(2)参加(提案されている復興措置の立案に際して若者団体または若者と協議した旨、計画で明示的に述べられている)、(3)若者へのコミットメントに対する予算配分(4)部門横断型(さまざまな政府部門全体を通じ、雇用・教育以外の具体的な若者向けコミットメントが記載されている)のいずれについても「NO」という、残念な結果になっています。

 COVID-19と若者をめぐるOECDの政策対応については、The power of youth: The driving force for change after COVID-19 も参照してください。

 そのほか、〈新型コロナ禍と若者の人権をめぐる国連人権理事会決議(2021年10月)〉なども参照。また、4月19~20日には国連経済社会理事会のユースフォーラム(ECOSOC Youth Forum 2022)がオンラインで開催されますが、そこでも「COVID-19からのよりよい復興と2030アジェンダの全面的実施の前進」(Building back better from COVID-19 while advancing the full implementation of the 2030 Agenda)がテーマとされています。

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