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マイナンバーカードと成績データのひも付けよりも先に考えるべきこと:子どもの権利の視点から検討する必要性

 文部科学省がマイナンバーカードと小中学生の成績データ等のひも付けを検討していることがわかり、波紋を呼んでいます。

1)FNNプライムオンライン:マイナカードに学校の「成績」 対象小中学生 2023年度にも
https://www.fnn.jp/articles/-/120549

2)ITmedia NEWS:マイナンバーカードで学校の成績が分かる? 文科省に詳細を聞いた
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2012/17/news097.html

 2)の記事によると、現段階での検討状況は次のような感じだそうです。

 ……文部科学省は、政府が全国民にマイナンバーカードが行き渡ると想定している2023年を目標に、マイナンバーカードと各学校が導入している「Google Classroom」や「Classi」といった教育支援ツールの学習者IDとのひも付けについて、21~22年度に検証するとしている。
 主に転校の際に学業成績や健康情報などの教育データを次の学校に伝える用途を想定。マイナンバーカードの電子証明書の仕組みを活用し、本人確認ができれば学習者IDをたどれるようにする。どのような教育データを伝達するかは今後検証を重ねる。現在はデータの伝達方法を考えている段階で、具体的な情報の扱い方などは未定。全ての子供を対象にするものではなく、希望する家庭や学校のみが使えるようにするとしている。
 文部科学省によると、転校時の学校間での学業成績や健康情報といった情報のやりとりは、今でも紙ベースで行われているという。ITmedia NEWSの取材に対し同省は「学習の進捗状況など、現状やりとりされている以上のデータを渡す意味があるのかは分からない」とし、「全データをひも付けるというより、全関係者がWin-Winになる仕組みを考えていく」と話した。

 第1に、基本的疑問として、この構想では、子どもの利益や教職員の負担軽減より、なかなか政府の思惑どおりに所持者が増えないマイナンバーカードの普及拡大を主たる目的にしているのではないかという懸念があります(運転免許証・健康保険証などとマイナンバーカードを一体化させる構想も報じられています)。すでに紙ベースで行なわれている情報のやりとりを電子化することで負担が減るとは限りませんし、電子化を進めるにしても、マイナンバーカードとひも付けること以外の選択肢も含めて検討することが必要でしょう。

 第2に、プライバシーや個人情報保護に対する子どもの権利が十分に考慮されていないのではないかという疑問があります。このような権利については国連・子どもの権利委員会の一般的意見25号(デジタル環境との関連における子どもの権利)草案でも詳しく触れられており、たとえば成績等のデータの共有については次のような言及があります(太字は平野;注は省略)。

74.処理されたデータは、適正手続上の保障を遵守しながら当該データを受領し、処理しかつ利用することについて法律に基づく指定を受けた公的機関および個人のみが、事案ごとにアクセスできることとされるべきである。定められた目的のために収集された子どもたちのデータは、いかなる場面においても保護され、当該目的のためにのみ用いられ、かつ明確に定められた保存期間にしたがわなければならない。ある場面で提供された情報を他の場面で利用することが子どもにとって正当な利益となり得る場合(たとえば学校と高等教育)、当該利用は透明であり、説明責任が確保され、かつ子ども、親または養育者の同意に適宜服するものでなければならない。


 欧州評議会デジタル環境における子どもの権利の尊重、保護および充足のためのガイドライン(2018年7月、閣僚委員会勧告CM/Rec(2018)7)でも次のように指摘されています(太字は平野)。とくに、パラ29で言及されているデータの最小限化の原則にはもっと注意を払う必要があるでしょう。

26.子どもたちは、デジタル環境での私生活および家族生活に対する権利を有している。これには、個人データの保護ならびに通信および私的なコミュニケーションの秘密の尊重が含まれる。
(中略)
29.個人データが子どもの利益になる形で処理される場合もあることを認識し、国は、子どもの個人データが、公正、合法的、正確かつ安全なやり方で、特定の目的のために、かつ、子どもおよび(または)その親、養育者もしくは法定代理人による自由な、明示的な、十分な情報に基づくかつ曖昧さの余地がない同意に基づいて、または法律によって定められた他の正当な根拠にしたがって、処理されることを確保するための措置をとるべきである。データの最小限化の原則を尊重することが求められる。すなわち、個人データの処理は、データ処理の目的との関連で過不足なく、関連性があり、かつ過度でない形で行なわれるべきである。
(中略)
31.国は、予定されているデータ処理によって子どもの権利に生じる可能性がある影響についての評価が実施されること、および、データ処理のやり方がこれらの権利への干渉につながるリスクを防止しまたは最小化する形で決定されることを確保するべきである。

 さらに欧州評議会は最近、「教育現場における子どものデータ保護」に関するガイドラインを採択しました(2020年11月20日)。

 このガイドラインは、個人データの自動処理に関わる個人の保護のための条約(欧州評議会第108号条約、1980年採択/2018年改正)諮問委員会がとりまとめたもので、個人データの処理に関する一般的原則を踏まえ、また「教育現場における子どもの権利の基本的原則」として▼子どもの最善の利益、▼子どもの発達しつつある能力、▼意見を聴かれる権利、▼差別の禁止に対する権利の4つを掲げたうえで、立法者・政策立案者、データ管理者、業界向けにそれぞれ勧告を行なっています。

 時間のあるときに日本語訳することも考えたいと思いますが、このような視点から教育現場における個人情報処理のあり方をあらためて考えることが先決であるように思います。

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