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欧州評議会:デジタル環境と子どもに関する政策ガイダンス

 国連NGO/NPO法人 子どもの権利条約総合研究所/東洋大学 福祉社会開発研究センター共催のオンライン公開シンポジウムICT(情報通信技術)と子どもの権利―韓国・台湾・日本の取り組みで、「デジタル環境と子どもの権利をめぐる国際的動向―国連・子どもの権利委員会の議論を中心として―」と題する基調報告を担当しました(12月6日)。報告の内容は『子どもの権利研究』32号(子どもの権利条約総合研究所刊、2021年春刊行予定)に掲載されます。

 国連・子どもの権利委員会の一般的意見25号(デジタル環境との関連における子どもの権利)草案概要の紹介がメインですが(草案の日本語訳=有料記事=はこちらを参照)、関連の国際的動向のひとつとして、欧州評議会の閣僚委員会勧告デジタル環境における子どもの権利の尊重、保護および充足のためのガイドライン(2018年7月、CM/Rec(2018)7)にも言及しておきました。

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 ガイドラインの日本語訳はすでに作成済みで、いずれしかるべき形で公開されるはずですので、その際にはあらためてお知らせします(追記:サイトに掲載しました)。ガイドラインの構成は次のとおりです。国連・子どもの権利委員会の一般的意見25号草案と同様に、子どもの権利条約の一般原則とあわせて「子どもの発達しつつある能力」(条約第5条)が基本的な原則・権利に位置づけられています。

● 基本的な原則および権利:子どもの最善の利益/子どもの発達しつつある能力/差別の禁止/意見を聴かれる権利/その他の関係者の関与を求める義務
● 運用上の原則および措置:デジタル環境へのアクセス/表現および情報の自由に対する権利/参加、遊ぶ権利および集会・結社の権利/プライバシーおよびデータ保護/教育に対する権利(メディアリテラシー・情報リテラシー・デジタルシティズンシップ教育を含むデジタルリテラシーの発達の促進など)/保護および安全に対する権利/救済措置
● 国内的枠組み:法的枠組み/政策上および制度上の枠組み/国内レベルでの協力および調整
● 国際的な協力および調整

 これに関連して、欧州評議会は「デジタル環境における子どものエンパワーメント、保護および支援に関する政策ガイダンス」Policy guidance on empowering, protecting and supporting children in the digital environment、2018年11月)も作成しています。子どもの権利条約を指針的枠組みとして活用しながら、▼デジタル環境における子どもの権利のさまざまな側面の概観、▼欧州評議会の関連文書のマッピング、▼欧州評議会加盟国による取り組みの紹介、▼課題の分析と提言などを行なったものです。

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「子どもの権利とデジタル環境」を概観するセクションでは、「デジタル環境にもっとも関連する国連・子どもの権利条約の条項」を表にまとめ、条約の一般原則と3Ps(スリーピーズ:Provision, Protection and Participation)の重要性を指摘したうえで、とくに次のような課題を取り上げています。

● アクセスと差別の禁止
● 表現・情報の自由
● 結社、集会および参加
● プライバシーとデータ保護
● 教育とリテラシー
● 搾取からの保護
● 効果的な救済措置と検証

「表1:デジタル環境にもっとも関連する国連・子どもの権利条約の条項」(p.10)の内容も紹介しておきます。デジタル環境と子どもに関わる問題は、こうしたさまざまな権利を踏まえて考えていく必要があります。

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条件整備(Provision)※左の列
第4条(権利の実施に関する国の責任)/第5条(親の指導)/第8条(アイデンティティの保全)/第17条a-d(社会的・文化的利益がある情報および資料のマスメディアによる提供)/第18条(親の責任・国の援助)/第23条2項・3項(障害のある子ども:特別なケアおよび援助)/第28条(教育に対する権利)/第29条(教育の目的)/第30条(マイノリティ・先住民族の子ども)
保護(Protection) ※中央の列
第16条(プライバシーに対する権利)/第17条e(有害な資料からの保護)/第19条(あらゆる形態の暴力からの保護)/第32条(児童労働・経済的搾取)/第34条(性的搾取)/第35条(誘拐・売買・取引)/第36条(その他の形態の搾取)/第37条(拷問または他の残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは処罰)
参加(Participation)※右の列
第13条(表現の自由)/第14条(思想・良心・宗教の自由)/第15条(結社の自由)/第17条柱書(メディアへのアクセス)/第23条1項(障害のある子ども:コミュニティへの参加)/第31条1項(余暇・遊び・文化:文化的生活および芸術への参加)

 提言としては、3Psの各領域ごとに次のような対応の必要性が指摘されています(選択的要約)。

条件整備
● デジタルエクスクルージョン(排除)を克服するための政策の維持・拡大/すべての子ども(たとえば障害のある子ども、マイノリティ集団の子ども、難民・避難民である子ども、学校が手を差し伸べられないまたは親による支援を受けられない可能性があるその他の脆弱な状況に置かれた集団の子ども)のニーズに対応できる柔軟な政策
● 子ども・若者が良質な情報によりよい形でアクセスできるようにするための施策(とくに、メンタルヘルス・セクシュアルヘルスを含む健康、セクシュアリティおよびアイデンティティ、市民的権利、コミュニティのリソース、デジタル環境における子どものエンパワーメント・支援・保護についてのあらゆる政策・方針についての情報)
● オンラインの安全に限定されない、人権(表現・情報の自由を含む)の視点を踏まえたメディアリテラシー政策
● デジタルリテラシープログラムの定期的評価・検証
● 自分が有している人権についての子どもたちの意識啓発

保護
● オンラインにおける子どもの保護のための十分な資源配分
● 子どもを「加害者」として不適切に犯罪化・処罰しないこと/子どもがデジタル環境で責任ある行動をとれるようにするための教育的取り組み
● 差別から子どもを保護することと同時に、デジタル環境で差別的に行動しないように子どものエンパワーメントと支援を図ることの重要性(単なるコンテンツの消費者ではなく、コンテンツの制作者・頒布者としての子どもの役割の認知)
● 子ども・若者が性的搾取のリスクから身を守れるようにすることに対する教育的アプローチ/関連の情報提供にメディアが関与することの奨励

参加
● 「保護」だけではなく参加権にも注目する必要性
● 参加の保護的機能を強調することの重要性(デジタル環境における子ども・若者の真のエンパワーメント、支援および保護は参加を通じてのみ可能となる)/保護のための政策の立案・実施・検証に子ども・若者が積極的にかつ意味のある形で参加することおよびそのための仕組み等を発展させていくことの必要性(必要に応じて子ども・若者が匿名で意見表明・通報できるようにすることを含む)

 さらに、「諸権利のバランス」として、次のような指摘も行なわれています。

● 子どもの最善の利益を判断するにあたり、子どもたちと協議するために最大限の努力を払う必要性(「最善の利益」概念が純粋に保護主義的なやり方で解釈されないことの確保)
● 年齢制限を課す場合に、エビデンスに基づいた明確な正当化事由を示すことの重要性
● 自分だけではなく他人のプライバシーその他の権利も尊重することを奨励するための取り組み

 子どもの発達しつつある能力を踏まえつつ、デジタル環境と子どもをめぐるさまざまな懸念と子どもの権利とのバランスをとっていくことの必要性は、国連・子どもの権利委員会の一般的意見25号草案でも随所で強調されています。その際に鍵となるのは、やはり当事者である子どもたちの意見を聴いていくことです。

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