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アイルランドのNGO連合、政府の子ども施策に関する「通信簿」を発表

 先日の投稿で紹介したアイルランド子どもオンブズマン事務所とその若者助言委員会(Youth Advisory Panel: YAP)の報告書 "Pieces of Us - What's Next?" には、付録(Appendix)として、報告書で取り上げられた6つのテーマに関する国連・子どもの権利委員会の勧告の要約も収録されています。必要があってその日本語訳を作成しましたので、上記投稿にも追記として掲載しておきました(有料エリアへの掲載になります)。

 一方、アイルランドの子どもの権利関連団体の連合体であるアイルランド子どもの権利連盟(Ireland Children's Rights Alliance)は、2月7日、『レポートカード2024』Report Card 2024)と題する報告書を発表しました。

 この報告書は、2020年6月に発足した連立政権を構成する共和党(フィアナ・フォイル)、 統一アイルランド党(フィナ・ゲール) および緑の党が同年10月末に発表した総合政策文書「政権プログラム:私たちが共有する未来」Programme for Government: Our Shared Future)の実施状況を、子どもの権利の視点から分析して採点したものです。今回が4回目の報告書で、2023年の取り組みが対象とされています。

 レポートカードでは、「私たちが共有する未来」に掲げられたさまざまな施策(コミットメント)のなかから、(a)18歳未満の子どもに直接影響するもの、(b)文言が明確で測定可能なもの、(c)アイルランド子どもの権利連盟またはその構成団体が掲げる戦略的目標のいずれかに関連するもの、(d)達成されれば、アイルランドで育つ子どもたちの生活の質の向上につながる相当の可能性を持つものという基準をもとに16の施策を選び出し(p.10)、その実施状況を次の6段階で採点しています(p.11)。

A:優(Excellent;子どもたちの生活に真に変化をもたらしている)
B:良(Good effort;子どもたちにとって肯定的な結果が生じている)
C:可(Satisfactory attempt;満足できる試みが行なわれているものの、子どもたちにとってはまだ十分ではない)
D:かろうじて合格(Barely acceptable performance;子どもたちへの肯定的影響がほとんどまたはまったく生じていない)
E:受入れ不可(Unacceptable;対応の方向が間違っており、子どもたちへの肯定的影響がまったく生じていない)
F:落第(Fail;子どもたちのウェルビーイングを損なうような対応をしている)
N/A:採点不能(Not applicable;政府の施策が曖昧であるため)

 今回(2024年)の採点結果は次のとおりです(p.11)。2023年のレポートカード(2022年が対象)の結果もあわせて記載してあります。

  • 保育制度の改革

  • 中央機関「アイルランド保育庁」(Childcare Ireland)の設置

  • 教科書無償化パイロット事業の開始

  • 授業短縮日に関する全国的モニタリングの導入

  • 特別な教育ニーズを有するすべての子どもが適切な形で学校に在籍できることを確保する

  • トラベラーおよびロマの子どもを対象とする教育包摂パイロット事業の独立評価を実施する

  • 成人精神科病棟への子どもの入院措置を終わらせる

  • 子どもの食料貧困に対処する

  • 公衆衛生肥満対策法を導入する

  • ホームレス世帯数を減らす

  • 「国家若者ホームレス戦略」を策定する

  • ダイレクトプロビジョン〔庇護希望者の収容〕制度を終わらせ、非営利住居保障モデルに転換する

  • 長期にわたって在留資格を得られていない人々およびその子どもを対象とする新たな正規化経路を創設する

  • ハラスメントおよび有害通信法を制定する〔平野注/2020年に Harassment, Harmful Communications and Related Offences Act として成立〕

  • オンラインセーフティおよびメディア規制法を制定し、オンラインセーフティ・コミッショナーを創設する

  • 家庭裁判所法を制定し、新たな家庭裁判所庁舎を建設する

 採点結果を見ると、多くの分野で重要な(またはそれなりの)進展が見られる一方、トラベラー/ロマの子ども、精神医療の対象とされる子ども、ホームレス世帯、庇護希望者など脆弱な状況に置かれている子どもに関しては、必ずしも十分な対応がとられていないことがわかります。公衆衛生肥満対策法(Public Health Obesity Act)についても、子ども向けの飲食品広告規制が関わってくることもあってか、ほとんど動きが内容です。

『レポートカード2024』は全263ページという大部なもので、上記の各項目について、国連・子どもの権利条約に基づくアイルランドの国際法上の義務、国連・子どもの権利委員会が行なった関連の勧告などを振り返ったうえで、詳細な分析を行なっています。たとえば保育制度の改革については、(a)質の面での成果、(b)不平等、(c)スタッフの維持(リテンション)、(d)親の負担という4つの分野を取り上げ、今後政府がとるべき対応についての提言を掲げています。

 こども基本法が策定され、こども大綱も策定されたいま、日本でもこうした取り組みを参考にすることができそうです。

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