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国連事務総長、新型コロナと教育に関するポリシーブリーフを発表

 アントニオ・グテーレス国連事務総長は、8月4日、ポリシーブリーフ「COVID-19期以降の教育」Policy Brief: Education during COVID-19 and beyond)〔PDF〕を発表しました。発表にあたってのメッセージ(テキスト/動画)は以下から閲覧できます。
 
「教育とCOVID-19に関する政策概要」の発表に寄せるアントニオ・グテーレス国連事務総長ビデオ・メッセージ(ニューヨーク、2020年8月4日)(国連広報センター)

 事務総長は、パンデミック以前から「学習の危機」(a learning crisis)に直面していた人類がいまや「世代的な大惨事」(a generational catastrophe)に直面しているとの認識を示したうえで、以下の4つの行動を促しています。

(1)学校の再開
(2)財政関連の決定における教育の優先
(3)もっとも手を差し伸べにくい層をとくに対象とした取り組み
(4)教育のあり方の再構想

 以下、それぞれの項目について事務総長のメッセージを引用したあと、ポリシーブリーフで勧告されている措置(p.19以降)を箇条書きで紹介します。

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A.ウイルスの感染を抑え、学校再開に向けた丁寧な計画を進める

 第1に、学校を再開すること。
 COVID-19の感染が収束した地域では、生徒たちを学校や学習施設にできるだけ安全に戻すことを最優先課題としなければなりません。
 私たちは、各国政府によるこの複雑な取り組みを支援するための指針を発表しました。
 何よりも大切なことは、健康リスクと子どもの教育・保護に対するリスクのバランスをとるとともに、女性の就労に対する影響にも配慮することです。
 親や養育者、教員、若者との協議がきわめて重要です。

(勧告されている措置)
⇒ すべての人の安全を確保する
⇒ インクルーシブな学校再開に向けた計画を進める
⇒ すべての関係者の声に耳を傾ける
⇒ 保健コミュニティを含む主要なアクターとの調整を図る

※事務総長が触れている(学校再開のための)指針とは、ユニセフ・ユネスコ・世界食糧計画・世界銀行が4月末に発表した学校再開ガイドラインを主に指していると思われます。note〈学校再開のための教職員支援~国際教職員タスクフォースのガイダンス〉の末尾に掲載した関連資料も参照。

B.教育資金を守り、影響に備えた調整を図る

 第2に、財務に関する決定で教育を優先すること。
 コロナ危機が起きる前から、低・中所得国では教育資金が年間1.5兆ドル不足していました。
 この不足分は今、さらに大きくなっています。
 教育予算を守り、増額することが必要です。
 また、債務管理や経済対策から、グローバルな人道アピール、政府開発援助(ODA)に至るまで、国際的な連帯の取り組みの中心に教育を据えることが不可欠です。

(勧告されている措置)
⇒ 国内資源の動員を強化し、最優先事項としての教育への割当てを維持し、かつ非効率に対処する
⇒ 債務危機に対処するための国際的調整を強化する
⇒ 教育のための政府開発援助(ODA)を守る

C.公平かつ持続可能な開発のための教育制度のレジリエンスを強化する

 第3に、最も支援の手が届きにくい人々に焦点を置くこと。
 教育に対する取り組みでは、緊急事態や危機に直面している人々や、あらゆる種類の少数者、避難民や障害者など、取り残されるリスクが最も高い人々に手を差し伸べることを目指さなければなりません。
 女児と男児、そして女性と男性が抱える具体的な課題に配慮し、緊急にデジタル格差の解消を図るべきです。

(勧告されている措置)
⇒ 公平さとインクルージョンに焦点を当てる
⇒ 制度のあらゆる段階でリスク管理能力を強化する
⇒ 力強いリーダーシップと調整を確保する
⇒ 協議とコミュニケーションの仕組みを増進させる

D.教育のあり方を再構想し、教育・学習における前向きな変化を加速させる

 第4に、教育の未来は今ここで決まるということ。
 私たちには、教育について考え直す世代的な機会が訪れています。
 私たちは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて飛躍を遂げるきっかけとして、すべての人々に質の高い教育を提供する未来を見据えたシステムへと、一気に歩を進めることができます。
 これを達成するために、私たちはデジタル・リテラシーとインフラへの投資、学び方を学ぶという方向への進化、生涯学習の活性化、そして公式教育と非公式教育の連携強化を必要としています。
 また、教員とコミュニティーに対する持続的な支援を確保する一方で、柔軟な実施手段、デジタル技術、現代化されたカリキュラムを拡大する必要があります。
 世界が持続不可能なレベルの不平等に直面する中で、私たちはこれまでにも増して、平等をもたらす大きな力となる、教育を必要としています。
 私たちは今こそ、未来にふさわしい、包摂的で、強靭かつ質の高い教育制度を築くため、大胆な対策を講じなければなりません。

(勧告されている措置)
⇒ 学習面でのロスへの対応およびドロップアウトの防止に焦点を当てる(とくに、周縁化された集団について)
⇒ 就労可能性向上のためのスキルを身につけられるプログラムを提供する
⇒ 教職を支援し、教員のレディネスを支える
⇒ 教育に対する権利の定義を拡大し、コネクティビティ〔インターネットや情報通信技術へのアクセス等〕の権利を含める
⇒ コネクティビティを妨げる障壁を取り除く
⇒ 学習に関するデータとモニタリングを強化する
⇒ 各段階・諸態様の教育および訓練の接続と柔軟性を強化する

 なお、コネクティビティとの関連で、
「良質な教育は、教育学的空間の外で、また教員と児童生徒との人間的関係の外で構築されたコンテンツを通じて提供することはできない。また、民間企業が支配するデジタルプラットフォームに教育が依存することもできない」
 と指摘されている点には注意を促しておきたいと思います。この点は、教育に対する権利に関する国連特別報告者のクンブー・ボリー・バリー氏も、国連人権理事会(第44会期)に提出した報告書で強調していたところです。

 また、今回の勧告をまとめるにあたっては、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の有識者組織「教育の未来に関する国際委員会」が6月22日に発表した「COVID-19後の世界における教育:公的行動のための9つの意見」も参照されています。その要旨は日本語訳してあり、今回のポリシーブリーフで必ずしも十分に強調されていない論点(子ども参加や学校の社会的空間の保護など)についても提言されていますので、あわせてご参照ください。

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