見出し画像

2011年子どもおよび若者の権利(ウェールズ)法

 以下に掲載するのは、ウェールズ(英国)で2011年に制定・施行された「子どもおよび若者の権利(ウェールズ)法」の全訳です(第10条以下を有料にしていますが、技術的な条項であって内容の理解には支障ありませんので、サポートしてくださる方のみご購入ください)。日本で「子ども(の権利)基本法」について考えていくうえで、台湾の子どもの権利条約実施法(2014年)、スコットランド(英国)の国連・子どもの権利条約(編入)(スコットランド)法案(2021年)などとあわせて参考にすることができるかと思います。また、〈ウェールズ政府(英国)、子どもの権利アプローチを実践するための政府関係者向けマニュアルを作成〉をはじめ、マガジン〈ヨーロッパにおける子どもの権利関連の動向〉に掲載している関連記事もあわせてご参照ください。

2011年子どもおよび若者の権利(ウェールズ)法

原文:英語
日本語仮訳:平野裕二

国連・子どもの権利条約に掲げられた権利および義務のウェールズにおける実施の強化のための体制および当該強化に関係する体制の整備等を目的とするウェールズ国民議会の法律

 ウェールズ国民議会によって2011年1月18日に採択され、2011年3月16日に女王陛下の承認を受けた本法は、次の規定を定めるものである。

1 子どもの権利条約を正当に顧慮する義務

(1)2014年5月初日以降、ウェールズ諸大臣は、いかなる職務の遂行に際しても、次の条項に掲げられた要件を正当に顧慮しなければならない。
 (a)条約第1部。
 (b)武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択議定書第1条から第7条まで(第6条(2)を除く)。
 (c)子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書第1条から第10条まで。
(2)2012年5月初日から2014年4月末日まで、ウェールズ諸大臣は、(3)の規定に該当するいかなる決定を行なうにあたっても、条約第1部および選択議定書の要件を正当に顧慮しなければならない。
(3)決定は、当該決定が次のいずれかに関するものであるときは、本項に該当する。
 (a)制定法に含めることが提案される規定。
 (b)新たな政策の立案。
 (c)現行の政策の見直しまたは変更。
(4)本条に基づくウェールズ諸大臣の義務に対する本法での言及の適用期間は次のとおりである。
 (a)(2)の義務については、2012年5月初日から2014年4月末日まで。
 (b)(1)の義務については、2014年5月初日以降。
(5)本条は、首席大臣にもウェールズ諸大臣と同様に適用される(かつ、本条に基づく義務に対する本法でのいかなる言及も、そのように解釈されるものとする)。

2 子ども計画

(1)ウェールズ諸大臣は、第1条に基づく義務の遵守を確保する目的でとった諸措置またはとろうとする諸措置を掲げた計画(「子ども計画」 the children's scheme)を作成しなければならない。
(2)計画では、次のことを定めることができる。
 (a)ウェールズ諸大臣に対し、(第4条(1)に基づいて求められる報告書に加えて)計画の運用または計画で述べられている他のいずれかの事項に関する報告書の公表を求めること。
 (b)当該報告書または第4条(1)に基づく報告書に記載されなければならない事項を指定すること。
(3)計画には、ウェールズ諸大臣が適切と考えるその他の事項を記載することができる。
(4)ウェールズ諸大臣は、委員会が英国の報告書に基づいて条約第45条(d)上の提案または一般的勧告を行なってから6か月以内に、当該提案または勧告に照らして計画を改訂しまたは再作成するか否かを検討しなければならない。
(5)ウェールズ諸大臣は、いつでも計画を改訂しまたは再作成することができる。
(6)本条において――
 (a)「委員会」(the Committee)とは、条約第43条(1)に基づいて設置された子どもの権利委員会をいう。
 (b)「英国の報告書」(UK report)とは、条約第44条(1)(b)に基づいて英国が提出する報告書をいう。
 (c)条文(article)への言及は、条約の条文への言及である。

訳者注/原文では、本法の条文については section、条約の条文については article が用いられている。混乱を避けるため、日本語訳では後者について「条約第〇条」と表記する。

3 計画の作成および公表

(1)子ども計画の作成、再作成または改訂にあたり、ウェールズ諸大臣は次のものを顧慮しなければならない。
 (a)条約第44条(5)に基づく委員会の報告書または条約第45条(c)に基づく研究。
 (b)英国による条約または選択議定書の実施に関連して委員会が刊行した他の報告書、提案、一般的勧告その他の文書。
(2)子ども計画の作成、再作成または改訂にあたり、ウェールズ諸大臣は、関連性があると考える他のいかなる文書(委員会が発表したものか否かを問わない)または事柄も顧慮することができる。
(3)子ども計画の作成、再作成または改訂の前に、ウェールズ諸大臣は次のいずれかを公表しなければならない。
 (a)計画案。
 (b)計画の改訂を意図している場合、改訂案または改訂後の計画案。
(4)(3)の規定に基づいて公表される草案を作成するにあたり、ウェールズ諸大臣は次の者が草案の作成に関与することを確保しなければならない。
 (a)子どもおよび若者。
 (b)ウェールズ子どもコミッショナー。
 (c)ウェールズ諸大臣が適切と考えるその他の者または機関。
(5)子ども計画の作成、再作成または改訂の前に、ウェールズ諸大臣は、(3)の規定に基づいて公表された草案に関して次の者と協議しなければならない。
 (a)子どもおよび若者。
 (b)ウェールズ子どもコミッショナー。
 (c)ウェールズ諸大臣が適切と考えるその他の者または機関。
(6)ウェールズ諸大臣は、次のいずれかが議会に提出され、かつ議会の決議によって承認された場合でなければ、子ども計画の作成、再作成または改訂を行なってはならない。
 (a)計画案。
 (b)計画の改訂を意図している場合、改訂案または改訂後の計画案。
(7)ウェールズ諸大臣は、((6)(a)の規定にしたがい)2012年3月31日までに計画案を議会に提出しなければならない。
(8)ウェールズ諸大臣は、子ども計画を作成したときに、かつその再作成を行なった場合は常に、同計画を公表しなければならない。再作成することなく子ども計画を改訂したときは、改訂内容または改訂された計画のいずれかを適宜公表しなければならない。
(9)ウェールズ諸大臣は、(8)の規定に基づいて計画または改訂内容を公表するときは、当該計画または改訂内容の写しを議会に提出しなければならない。
(10)本条において――
 (a)「委員会」(the Committee)とは、条約第43条(1)に基づいて設置された子どもの権利委員会をいう。
 (b)条文(article)への言及は、条約の条文への言及である。

4 報告書

(1)ウェールズ諸大臣は、次の期日までに、諸大臣および首席大臣が第1条に基づく義務をどのように遵守してきたかに関する報告書を公表しなければならない。
 (a)2013年1月31日。
 (b)その後は、それぞれ5年の期間または子ども計画で定められた他の期間が終了する日。
(2)ウェールズ諸大臣は、第2条(2)(a)の規定により求められるその他の報告書を公表しなければならない。
(3)ウェールズ諸大臣は、(1)または(2)の規定に基づいて公表された各報告書の写しを議会に提出しなければならない。

5 条約に関する知識を促進する義務

 ウェールズ諸大臣は、公衆(子どもを含む)の間で条約および選択議定書に関する知識および理解を促進するための措置を適宜とらなければならない。

6 法律等の改正権限

(1)本条は、第4条(1)または(2)の規定に基づいて公表された報告書において、条約第1部および選択議定書に掲げられた権利および義務の実施を強化しまたは向上させるために制定法または勅令法を改正することが望ましい旨の結論が示された場合に、適用される。
(2)ウェールズ諸大臣は、命令により、当該報告書に照らして適切と考える形で当該制定法または勅令法の改正を行なうことができる。
(3)ただし、ウェールズ諸大臣は、命令により設けられる規定が当該時点で議会の立法権限内にある場合でなければ、(2)の規定に基づく命令を行なうことができない。
(4)ウェールズ諸大臣は、(2)の規定に基づく命令を行なう前に、適切と考える者または機関と協議しなければならない。

7 若者への適用

(1)ウェールズ諸大臣は、次の点について検討しなければならない。
 (a)条約第1部および選択議定書の要件が若者にとって関連性を有するか否か、ならびに、(関連性を有するときは)どの程度およびどのような改正によって関連性を有するか。
 (b)本法の規定を若者との関連で適用できるか否か、ならびに、(適用できるときは)どの程度およびどのような改正によって適用できるか。
(2)子ども計画(初回の作成時)には、(1)の規定に掲げられた事項についての協議に関するウェールズ諸大臣の提案書が含まれなければならない。
(3)ウェールズ諸大臣は、(1)の規定に掲げられた事項について協議する際、若者に関連する、諸大臣が適切と考える他のいかなる課題についても協議することができる。
(4)ウェールズ諸大臣は、(1)の規定に基づく結論の報告書を公表しなければならない。
(5)ウェールズ諸大臣は、(4)の規定に基づいて公表されたいかなる報告書についても、その写しを議会に提出しなければならない。
(6)ウェールズ諸大臣は、命令により、次のことをできる。
 (a)本法のいかなる規定についても、若者との関連で適用すること。
 (b)条約第1部および選択議定書の要件のいずれかを若者との関連で実施するために適切と考える、他の対応を行なうこと。
(7)(6)(a)の規定に基づく命令により、当該命令で適用される規定について、ウェールズ諸大臣が適切と考える修正を行なうことができる。
(8)ウェールズ諸大臣は、(6)の規定に基づく命令を行なう前に、次のことをしなければならない。
 (a)命令案を公表すること。
 (b)命令案について、適切と考える者または機関と協議すること。

8 子どもの権利条約

(1)本法において――
 (a)「条約」(the Convention)とは、1989年11月20日の総会決議44/25によって採択され、かつ署名、批准および加入のために開放された国際連合・子どもの権利条約をいう。
 (b)「選択議定書」(the Protocols)とは、第1条(1)(b)および(c)にいう選択議定書をいう。
(2)本法の附則において――
 (a)第1部には、条約第1部の条文を掲げる。
 (b)第2部には、第1条(1)(b)および(c)にいう選択議定書の条項を掲げる。
 (c)第3部には、英国が条約および選択議定書について行なった宣言の文言を掲げる。
(3)本法の適用上、条約および選択議定書は次の形で効力を有するものとして扱われる。
 (a)現時点で附則の第1部および第2部に掲げられているとおり。
 (b)ただし、現時点で附則の第3部に掲げられている宣言または留保にしたがうことを条件とする。
(4)(5)の規定は、英国が次のいずれかに署名しまたはその他の方法で同意を示した場合に適用される。
 (a)条約の改正または当該時点で附則に掲げられている選択議定書の改正。
 (b)条約の追加議定書。
 ただし、当該改正または議定書との関連で(7)に規定が適用されるときは、(5)の規定は適用されない。
(5)ウェールズ諸大臣は、次のものを反映させるため、命令により、本法の第1条(1)、第8条(1)、第8条(2)もしくは第8条(3)または附則を改正することができる。
 (a)当該改正または議定書。
 (b)当該改正または議定書について英国が行なった宣言または留保。
(6)(7)の規定は、英国が次のいずれかを批准した場合に適用される。
 (a)条約の改正または当該時点で附則に掲げられている選択議定書の改正。
 (b)条約の追加議定書。
(7)ウェールズ諸大臣は、次のものを反映させるため、命令により、本法の第1条(1)、第8条(1)、第8条(2)もしくは第8条(3)または附則を改正しなければならない。
 (a)当該改正または議定書。
 (b)当該改正または議定書について英国が行なった宣言または留保。
(8)ウェールズ諸大臣は、現時点で附則の第3部に掲げられている宣言または留保が修正されまたは撤回された場合、命令により、当該修正または撤回を反映させるために附則の第3部を改正しなければならない。

9 その他の解釈条項

 本法において――
「議会」(the Assembly; y Cynulliad)とは、ウェールズ国民議会をいう。
「子ども」(child; plentyn)とは、18歳に達していない者をいう。
「制定法」(enactment; deddfiad)とは、次のいずれかをいう。
 (i)英国議会制定法。
 (ii)国民議会制定法(Measure or Act)。
 (iii)1978年解釈法(c. 30)第21条(1)の意味における下位立法。
 (iv)国民議会制定法に基づいて制定される下位立法。
「若者」(young person; pobl ifanc)とは、18歳に達したものの25歳に達していないものをいう。

ここから先は

592字

¥ 300

noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。