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子ども時代に出合う本#20 小学生の読書 "You are what you read.”

 #19の記事を作成してから4カ月も経ってしまいました。この間、ずっと書きたいと思いながらも、次年度にむけて様々な仕事のご依頼をいただき、じっくりと時間をかけて記事を書く時間を作れずにおりました。
 昨年4月から補助教諭としてパート勤務している幼稚園が春休みに入り、日中時間に余裕ができました。今日は小学生時代に出合ってほしい本について書いていこうと思います。



You are what you read.

 ” You are what you read.” つまり、「あなたが読んだものであなたが出来ている」という言葉は、これまでも何度も聞いてきました。
 その大切さを再認識したのは、今年2月にDr.Junko Yokotaの講義を受けたことでした。

 食育などでは、「食べたものがあなたの身体を作っている」と言われ、それは誰もが納得する言葉だと思います。

 身体に食事として入れたものが、消化吸収されて私たちの身体を形作るすべての細胞へ行き渡っていくわけで、そこで吸収された栄養素が偏っていたり、病気を引き起こすものであれば、それは身体にマイナスの影響を及ぼすのです。

 栄養失調や貧血などただちに現れるものだけでなく、長い年月をかけて身体を蝕む生活習慣病のようなものにも繋がっていくのです。

 それと同様に、読んだものがその人の考え方や価値観を形成していくとしたら、やはり「何を読むか」ということはもっともっと大切にされなければならないと思うのです。

 Dr. Junko Yokotaの講座では、そこに「手渡すおとなの側の責任」ということを明確に指摘されました。子どもが幼ければ幼いほど、「何を読むか」「何を読んであげるか」「どんな本を手渡すか」に関しては、子ども自身で選ぶことはできないわけで、どんな本を一緒に選び、手渡すか、おとなの側が知識をもっていなければならいというわけです。

 先のブログにも記しましたが
「単に栄養素さえ足りていればよいのであれば、宇宙食とか栄養サプリメントや携帯食(C Rations:戦闘員の携帯食という表現だった)でいいのか?
あるいは飛行機の機内食のようなものなのか?」「そうした機能的には、栄養素が十分だと思うものと比較した時、美味しさや盛り付けなど見た目でも味わうことができる料理のほうが、またそうした観点を大切にすることが、子どもの心と魂のためには重要」
で、子どもに手渡す本に関しても、その本の質を吟味することが非常に重要になってくるのです。


第67回学校読書調査報告(全国SLA研究調査部)より

   全国学校図書館協議会(SLA)では、1954年より「学校読書調査」を継続して行っており、2022年6月に行われた調査で67回目になります。
   その概要が、SLAの公式サイトでも見ることができます。(詳細は雑誌「学校図書館2022年11月号」に掲載)


全国学校図書館協議会|調査・研究|「学校読書調査」の結果 (j-sla.or.jp)



 概要を書き出してみると・・・

調査時期:2022年6月第1・2週
調査対象:全国の小学生(4~6年生)・中学生(1~3年生)・高校生(1~3年生)の抽出調査
小学生:4733人 中学生:4552人 高校生:4806人
調査項目:
問1:5月1か月間に読んだ本の冊数
問2:5月1か月間に読んだ雑誌の冊数
問3:タブレットやパソコンなどを使った学習の際の意識
問4:電子書籍の読書経験
問5:今の学年になってから読んだ本の名まえ

 第67回調査の結果では、2022年5月1か月間の平均読書冊数は、小学生は13.2冊、中学生は4.7冊、高校生は1.6冊、不読者(5月1か月間に読んだ本が0冊の児童生徒)の割合は、小学生は6.4%、中学生は18.6%、高校生は51.1%となっています。


 冊数だけ見ていると、小学生は意外にたくさん読んでいるのね、と感じるかもしれません。でも読書はDr.Junko Yokotaのことばにあるように、量より質に注目する必要があります。そこでどんな本を読んでいるか、見てみると・・・

  小学校高学年がよく読んでいる本(男子)
  小4 1.科学漫画サバイバル 2.かいけつゾロリ
  小5 1.科学漫画サバイバル 2.学研まんがでわかるシリーズ
  小6 1.学研まんがでわかるシリーズ 2.空想科学読本
 小学校高学年がよく読んでいる本(女子)
  小4 1.学研まんがでわかるシリーズ 2.ふしぎ駄菓子屋銭天堂
  小5 1.学研まんがでわかるシリーズ 2.ふしぎ駄菓子屋銭天堂
  小6 1.ふしぎ駄菓子屋銭天堂 2.学研まんがでわかるシリーズ 

 ここに名前があがっている本がすごく質が悪いという意味ではないのです。それらは子どもたちの興味関心をうまく惹きつけるような作りで、絶大な人気があるのもわかります。でも4年生から6年生へと心も体も前思春期ともいえる多感な時期に、自分の生き方やもののとらえ方に深く影響を与えうる本に出合っていくことも大事ではないかと思うのです。

 この調査の考察として次のように書かれています。
「じっくり新聞を読む習慣や、本のページをワクワクしながらめくる時間は、無駄なものとして処理され、じっくりと物事に取り組む姿勢はなくなっていく一方だ。日常生活で優先させるものが変わってきているのは確かだ。
 学校現場では、児童生徒の実態に関してこのような意見が聞かれる。
○文字は読めても、文章が読めない。
○読むトレーニングが不足している。
○体験が少ない。タブレット端末を見て知ることはできても体験することはできない。
○本を読み慣れていないためか、描写や言語から登場人物の人柄や
心情を読み取るのが苦手である。
○激しく変化する音と映像の刺激がないと、物足りないと思う人が増えている。
 このような状況だからこそ、学校図書館にかかわる者として、読書の重要性を発信することが必要である。」
 「学校図書館2022年11月号」p21

 このまとめを読むと、子どもたちが本をじっくりと本を読む時間が取れていないこともわかります。報告からは、ファストブック「5分で読める~」といった名作の要約だけ抜き出した本が高学年から中高生に読まれているということがわかります。
 これから自分の生き方を考え、進路を模索していく時期にこうした本に出合ってじっくり考える時間をもてないとなると、どんな影響が出てしまうのでしょう。それを補うだけの家族以外のおとなや先輩たちとの出会いがあって、そこで学ぶことができるのなら、それでも良いのですが・・・

本との出合いが豊かな育ちへとつながること


  2月22日にJBBYのオンラインイベント、希望プロジェクト・学びの会「生きづらさをかかえた子どもに 本との出会いを―ブックリスト『あしたの本だな』をつくる―」があり、私もパネリストのひとりとして参加しました。

 その時のまとめをブログに記しています。


 「あしたの本だな」という本のリスト(JBBYのサイトでダウンロード可能→こちら)をなぜ作成したのか、どんな視点で選んだのか、という前半部分で、女子刑務所などでさまざまな支援活動もされてきた大塚敦子さんが、本に出合わずに育つ子どもたちへ、おとながどう手渡したいか、その願いが述べられています。

 ブログからそのまま引用します。
大塚さんは、少年院や少年鑑別所に来る子ども達は、学業のつまずき、いじめなどで、家にも学校にも居場所がない場合が多い。発達障害や知的障害などの生きづらさも抱えていることもある。親との死別、離別などの喪失体験も味わっていることもある。
 彼らは非常に限られた環境の中で育ってきていて、見ている世界がとても狭い。
 だから、本と出会うことを通して、自分はどんなものが好きなのか、どんなことをやってみたいのか、考えてみるきっかけができる。そして、自分自身について知り、これから先をどう生きていくのか選択肢が増えていくと仰いました。
 自分で本を選ぶことを通して、自分の世界を開拓することにつながる。未知のものへの好奇心が生まれ、視野が広がる。
 物語を読むことを通して、他者についての想像力が育まれる。そして自分は一人ではない、と思える。それは傷ついてきた子どもたちにとって、とても大きな力になっていく。
 本を通して他者の物語を体験することで、自分自身の物語も再構築できる可能性があることを話してくださいました。

 本に出合うことなく育ち、不幸にも少年犯罪を犯してしまった子たちが、本に出合うことで、自分が育ってきた狭い環境以外に世界があることを知り、また他者について学んでいく、その過程をずっと見つめてこられたからこその、説得力のあるお話でした。

 そのことは、これから育つ子どもたちにも当てはまるのです。もし、今豊かな本の世界に出合っていれば、狭い世界の中で自分を押し込めるのではなく、もっと広い世界を知ろうとし、また他者の立場にたつことのできる想像力を身に着けることができると、つまり豊かな育ちにつながっていくと逆説的に言えるでしょう。

 だからこそ、小学生になってからどんな本に出合えばいいのか、そこに親はどんな関与ができるのか、乳幼児の時のように直接的な関与ができない分、とても難しいのですが、考えていくことが大切だと思っています。

 これまでおすすめの絵本をたくさん紹介してきましたが、小学生になるとひとりひとりの興味関心も広がり、選書はとても難しくなってきます。それでも、こんなポイントがあるよ、ということを発信していけたらなあと思っています。

 また、そのことは次回詳しく書きますね。



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