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小学5年。⑧ [退院]

退院の日が決まった。
入院して2週間が経とうとしていた。

退院する日の朝。
いつも通り自分で朝食をワゴンまで取りに行き、いつも通り食べた。
相変わらずお粥は苦手で一口も食べられなかったが、おかずとお味噌汁は食べ、食器をワゴンへ返した。

退院日だが、いつも通りひとりだった。
母は、お昼頃に来ると看護師さんから聞いた。

食器を返して少しすると、酷い目眩がしてきた。
吐き気もしてきたのでトイレにある洗面器を病室へ持ってきたところで吐いた。
吐いたことで吐き気は少し落ち着いたが、今度は酷い頭痛がしてきた。

どうしよう、このままだと退院出来ないかも。

早く退院したかったわけではない。
退屈ではあったが、早く帰りたいとは思わなかった。
でも、なぜか退院が延びるのは良くないと思った。
廊下に看護師さんがいないのを確認してトイレへ行き、洗面器の中のものをトイレに流した。
そして、洗面器も綺麗に洗って戻した。

看護師さんが朝の巡回に来た時、食事はちゃんと食べたし体調もいいと嘘をついた。
目眩と頭痛がしていたので顔も青ざめていたかも知れないが、2ヶ月も療養生活が続いているので気付かれずに済んだようだ。
その後の医師の回診も、気付かれるかと心配だったが退院の許可が出た。

母は、看護師さんから聞いた通り、昼過ぎに来た。
回診の時に医師から話があるからと看護師は言ったそうだが、仕事だから昼にしか来れないと言ったそうだ。
もし何かあれば、本人に伝えておいてくださいとまで。
看護師さんは、お昼を過ぎるなら昼ご飯が出ることを伝えたが、お昼は要らないと母は言ったらしい。
お昼少し前に病室へ来た看護師さんが、2人で母を待っている間に話してくれた。

母が来たので、看護師さんは退院の話をした。
担当の医師も手が空いたのか直接伝えたかったのか、看護師さんが退院の手続きの話をしている時に来た。
医師は、退院後の生活で気をつける事をひと通り母に伝えると病室を出ていった。
看護師は、身支度をし終えた部屋を見回し最終確認をしてから出ていった。

母は、どれだけ人を振り回すのだろうと呆れてしまう。
だが、それも目眩と頭痛でどうでも良くなっていた。

2週間ぶりの自宅。
目眩は治っていたが、頭痛が酷かったので直ぐに布団に横になった。
母にも、朝の目眩と嘔吐、頭痛のことは話さなかった。

横になり天井の木目や目覚まし時計の形などを見ると、そのどれもが少し歪に見えた。

医師からの指示は、次の通りだった。
食事は、特に油を控えること。
朝食がトーストならマーガリンは絶対に駄目。
出来るなら、ご飯と味噌汁がいいとのこと。
退院後1週間は自宅療養で安静にすること。
その後受診して検査をし、問題がなければ登校可。
医師の指示が出るまで運動は禁止。

朝食のトーストは、マーガリンからジャムになった。
私が、パンじゃなくてご飯がいいと言うと、
「ご飯にしたらおかずが要るでしょ!」
あっさりと却下された。
母も疲れているのだと気付かず、かなりしつこくご飯を主張したが、やっぱりダメだった。

パンは苦手だった。

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