マンボジャンボ・ストリート
パパ・ヤマダザキの殺風景なオフィスに携帯ドリルの鋭い音が響いた。
チャドがドリルを金庫の鍵穴に突っ込んでいく。
俺はそれを横目で軽く見ると、部屋の外に注意を戻した。
今のところ、誰かが来る気配はない。
ビル全体が不自然なほどに静まり返っている。
俺は無意識のうちに、左手首に巻かれたビーズと紙切れの連なりを見た。
道士タン・マサラ謹製。呪術から身を隠すための護符。仲介役クワン・ポー提供。
これを身につけていれば、パパ・ヤマダザキが俺達の侵入に気付くことはない、らしい。
ヘルズ・キッチンの呪術王から盗みを働くというのに、こんなゴミみたいな代物に命を預けなければならない。
やはり世の中は、どうかしている。
俺はクワン・ポーが念を押すように言った言葉を思い出した。
『いいか、くれぐれも護符を壊すな。壊した瞬間、お前達の脳みそはシチューだ』
俺は悪い考えを追い出そうと、こめかみを軽く指でマッサージした。
「開いたぞ!」
チャドが興奮した声で叫んだのは、その時だった。
同時に、鈍い金属音をたてながら、金庫がゆっくりと開いた。
「すごいぞ、一財産なんてもんじゃない」
チャドは溜息をつくように言った。
チャドの背中ごしに、金庫につまった、たくさんの革袋が俺にも見えた。
パパ・ヤマダザキの全財産の80%が、宝石の形であの袋に詰められているという話だ。
チャドは金庫の中に両手を突っ込んで革袋をつかみ、脇に置いたカバンへ次々と入れていった。
「おい、お前も手伝えよ。さっさと終わらせちまおう」
チャドが振り向いて俺に言った。
俺は「ああ、そうだな」と言って、金庫に向かって歩こうとした。
「あー、行かないほうがいいわよ」
突然、横の方から女の声がした。
俺は声のした方に右手のS&Wを向けた。
褐色の肌をしたラテン系と思しき女が、そこにいた。
「お前、一体どこから入ってきた」
〈続く〉
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