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鋼の鉄砲玉

 桜の季節も終わろうかという、穏やかな昼下がり。指定暴力団魔獄組まごくぐみ本部ビルの扉を、一人の男が開いた。
 年の頃は二十代半ば、取り立てて目立つところのない、ごく普通の男に見えた。

 一階の事務所では組員が六人、やることも無く、たむろしていたが、そこから一人の組員が応対に出た。ニキビ跡の残る、チンピラ上がりと思しき若い組員だった。

「何か、御用ですか?」
 言葉遣いは丁寧だが、目は笑っていない。

 男は、組員の目を真っ向から見て、静かに言った。

「「鉄砲玉」刃金清四郎はがねせいしろう。魔獄組組長、魔獄惨蔵の首を貰いに来た」

 その言葉に、事務所の空気が一変した。

 「哲男ぉ!そこ、どけぇ!」

 怒声とともに、一人のヤクザの顎がガクンッと大きく下がった。そして、ゴオッという音とともに喉奥から巨大な炎の塊が吐き出される。

 哲男、すなわち応対に出たヤクザに身を躱す暇はなかった。刃金清四郎を名乗る男と共に炎に包まれ、甲高い絶望の悲鳴をあげた。

 一千度の炎に包まれた鉄砲玉を前に、それでもヤクザ達は緊張を解かなかった。
 相手は「鉄砲玉」だ。
 組員の内、二人の体が、たちまち剛毛に覆われ、牙と爪が大きく伸びた。
 残った二人は奥から米軍払い下げのレーザーライフルを引っ張り出す。

 炎の中の影と化した刃金清四郎の体が、わずかに動いた。

 それを見た二人のヤクザが、言葉にならない叫びを上げながら青い高出力レーザーを発射する。
 しかし、二条のレーザーはむなしく空を切った。
 それと同時に、獣化した組員二人が大きく吹き飛び、奥にある上階への扉が音を立てて開いた。

 鉄砲玉が常人の目には映らぬ超スピードで駆け出したことを本能的に察知した獣化組員が咄嗟に飛びかかったが、反撃を受けた。それが分かったのは、全てが終わった後の事だった。

 組員達が呆然とする中、本部ビル全体に警報が鳴り響いた。

【続く】


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