使用者の賃金二重払い

賃金仮払い仮処分により毎月の給与の支払いを受けたのち、解雇無効確認訴訟において労働者が勝訴した場合、解雇日から判決確定日までの間の賃金請求も認められる。賃金の二重払いを強いられることになる。

賃金仮払い仮処分により支払っているという抗弁は認められない。最高裁は、「仮処分債権者の仮払金支払義務も当該仮処分手続内における訴訟上のものとして仮に形成されるにとどまり、その執行によって実体法上の賃金請求権が直ちに消滅するものでもない。」と判示している。 昭和63年3月15日 最高裁判所第三小法廷(裁判所HP)

また賃金仮払いは口頭弁論終結後の事情ではないため、判決に基づく強制執行に対する請求異議の訴えは起こせない。

使用者としては、労働者に対して仮払い分について不当利得返還請求ができるのみ。しかし、労働者が使い切っていたら回収できる可能性は少ない。

仮処分により事実上の履行状態が作り出されてもこれを抗弁として扱わないとするのは他のケースでもある。
建物仮明渡しの仮処分の事案で「仮処分の執行により仮の履行状態が作り出されたとしても、裁判所はかかる事実を斟酌しないで本案の請求の当否を判断すべきである。 」 昭和35年2月4日 最高裁判所第一小法廷 (裁判所HP)
建物仮明渡し後に建物を取り壊した事案において、「事実状態の変動が当該仮処分執行の一部をなすとみられるなど特段の事情があるときは、本訴において斟酌できない。」 昭和54年4月17日 最高裁判所第三小法廷(裁判所HP)

仮処分はあくまで本訴で結論を出すまでに本訴が無意味にならないようにするための「仮のもの」。本訴で勝つために仮処分したのに、仮処分をしたことで敗訴、となるのはおかしいということ。

なお、請求異議の訴えにおいて、強制執行をすることが例外的に権利濫用となる場合もあるとした判例があります。 昭和37年5月24日最高裁判所第一小法廷(裁判所HPより)

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