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紐づけ

2020年頃から〇ナンバーカードを作って銀行口座を紐づけするとポイントがもらえるらしい、ということが世間で大騒ぎになった時期がありましたよね。それでみんな慌てて〇ナンバーカードを作って、銀行口座を紐づけしたりしましたよね。
これからお話しするのはその後のもう少し時代が進んだ頃のお話です。

あるおばあちゃんの家に銀行協会?から電話がかかり、「おばあちゃんの銀行口座が不正な操作をされていることが分かりました。これから銀行の係の者が家にお伺いしますので、カードと通帳、印鑑を用意して待っておいてください。」と言われ、「は?どこの銀行?」 「〇△銀行です。」 「あ、そ、じゃあ、用意して待っておくから、どなたが来るの?」 「はい、井上と言うものが取りき行きます。」 「井上さんね、待っていますから。」 「はいよろしくお願いします。」
それからしばらくして、ピンポ~ンとインターフォンが鳴り、「すいません、〇△銀行から来ました、井上ですが。」 「はいはい、井上さんね。ちょっと待ってね。今開けるから。その前に身分証を見せてくれる?」 「はいどうぞ。」男はインターフォンのカメラに向かってカードを見せました。
「それとあんたマスクも取って、顔が分からないわ。」 「は、はい。」男はしぶしぶマスクを取りカメラに向きました。
ガチャ、と鍵を開けて、「どうぞ、中に入って。はいこれ用意しておいたわよ、キャッシュカードと通帳、それとこれが印鑑よ。見て頂戴。」 「はいはい、拝見します。」 「今日は暑いわね、今麦茶を入れてあげるから待っていなさい。」とおばあちゃんはそこを離れ台所へ行き冷たい麦茶を入れてあげました。
「あ、ありがとうございます、これカードの入った封筒と通帳印鑑です、問題はなかったようなのでお返ししておきますね、それと暗証番号は大丈夫ですか?」 「ああ、暗証番号?面倒くさいし忘れたら困るから、9876にしてるんだよ。」 「なるほどね、じゃあそろそろ失礼します。」 「そう、もう少し話していかない?私一人で寂しいからさ、話し相手になっておくれよ。」 「あ、いや、他にもたくさんお伺いしないとだめなお家がありまして、どうもお忙しい所お邪魔しました。」 「そう?せっかくお近づきになったのに残念だね、また話し相手になってね。」 「は、はい、いつでもお伺いします。」と男は慌てた様子で家を後にしました。

それからしばらくしてその男は少し離れたコンビニのATMで、今だまし取ってきたキャッシュカードでお金をおろそうとカードを差し込み暗証番号を押しました。
液晶には「ただいま手続き中です、しばらくお待ちください。」と表示され、なかなかそれ以上進みません。「どうしたんだ?暗証番号も間違いないはずなのに、あの婆さんから聞いた番号だぜ。もう一度初めからやり直すか?」とカードを抜き取りまた初めからしてみました。
しかしまた、「ただいま手続き中です、しばらくお待ちください。」と表示されそれ以上進みません。「くそ!おかしいなあ、どうしたんだ?ATMの故障か?」としばらくして、「君、一緒に来てくれるかね?」と屈強な男二人に両腕を抱えられ身動きできなくされてしまいました。「え!え~!ど、どうしてですか?」 「うん、君は詐欺未遂だね、現行犯逮捕。さ、行こうかね。」 「ど、どうしてですか?」 「あ、君知らないの?そのカードは〇ナンバーカードに紐づけされているから本人以外がアクセスすると通報されるんだ。それぐらいはニュースを見ておけよ。」 「はあ、知りませんでした。」 「じゃ、行こうか?」

いろいろ取り調べを受け刑事さんは最後に、「あ、それとなあ、もう一ついいことを教えておいてやるよ、この頃の老人は、デジタルに凄く詳しくてな、スマホはもちろんインターフォンも全てネットにつながっていてな、録画はもちろん、そのまま警察に通報されていたんだ。
それとこれは余談だが、大体今の老人は金銭にはしっかりしているから、「〇ナンバーカードに紐づけされた銀行は国に管理されているから嫌だ」ってほかの銀行に預けているらしいよ。おまけに最近はネットですべて決済するから現金なんて持たないってよ。スマホ一つで終わらせるってさ。
時代は変わったんだなあ、苦労しているから老人の方が我々よりしっかりしているぞ。ま、お前もいい勉強になっただろう?今度娑婆に出てきたら、老人を騙すよりまともに働け。そうでないと今度は老人に逆に騙されて大変な目にあうぞ。」 「は、はあ。」 「それとな、あのおばあちゃん、身寄りがないらしくて、お前に伝えておいてくれって、「もし娑婆に出てきてまともに働く気があるんなら働くところぐらいはいくらでも紹介してあげる。」って。分かったか?」 「は、はあ。」男は泣きそうになっていました。

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