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天使のルール変更

真美は息子の正二のベッドの横でウトウトとしていた時、トントンと後ろから肩をたたかれました。看護師さんが来たのかと思って顔をあげると、そこにはリクルートスーツを着た美人でグラマーな女性と鬼の様な顔をした体格がレスラーみたいな男が立っていました。「ひぇ~!」と声を出すと、「静かにしないと息子が起きるわよ。私天使、こいつは悪魔、よろしくね。あなたに届け物を持ってきたの。本当は昨日持ってくるつもりだったけど、他の奴が拾っちゃってさ、あなたには今日になっちゃった。はいこれ、エクスチェンジ・ノートって言うの。」 「エクスチェンジ・ノート?何ですかそれ。」 「うん、説明するからよく聞いて。人間にはそれぞれ寿命ってあるよね、その寿命を入れ替えちゃうの。ほら昔寿命のろうそくってあったでしょう?あれの現代版なんだけど、まあ例えば明日死ぬ人にあと50年生きられる人の寿命と入れ替えちゃうとかできるわけ。どうすごいでしょう?これ私が神様に言って作ってもらったの。」 「はあ、と言うことはですよ、例えば私の残された寿命をこの子にあげるって出来るんですか?」 「そりゃあ簡単よ。」 「そうですか、じゃあ私の寿命をこの子にあげてください。」 「それはどうなの?あなたが死んだあとこの子はどうするの?残された子供が可哀そうって思わない?」 「はあ、でもこの子あと少しで死ぬかもしれないって言われているんですけど。すいませんけど、私の寿命ってあとどれくらいあるんですか?それにこの子の寿命も、天使さんならそれぐらい分かるでしょう?」 「まあね、簡単よ、ちょっと待ってね調べてあげる。」と天使はポケットからスマホを出して液晶を触って調べてくれました。
「え~とね、あなたは長生きするわね、今が32才でしょう、95才まで生きるって。それで息子さんはね、あら可哀そう、あと3か月だって。それも可愛そうね。」 「私この子を亡くしてからもそんなに生きるんですか?」 「うん、そうなってるね、どうする?」 「あのうすいませんけど、私の寿命を半分だけでもこの子に譲るってできないんですか?」 「え!半分か?そう言うやり方もあるんだなあ、そこまで考えてなかったわ。ごめん、ちょっと神様に確認してみるわ。明日また来るから。」 「あのう、そのスマホですぐ確認できないんですか?」 「ダメよ!そんな人の寿命を変えたりするようなことは、ちゃんと神様の前で説明してからでないと。そんなに勝手に決められないんだから、私達天使でも。だから一度神様と直談判してそれからルール変更をしないといけないのよ。分かった?」 「はあ、じゃあ明日また来てくれるんですか?」 「ま、天使って結構忙しいからさ、明日の夜にまた来るわ。じゃあね、悪魔、帰るぞ!」と二人の姿が消えてしまいました。
気が付いた時もう朝になっていて、「ママ、ママ、僕、喉が渇いた。」 「正二、今すぐ持ってくるわ、待っていて。」さっきのはあれは夢なのかしら。天使とか悪魔とかいるわけないよね。と思いました。

その日の夜、ベッドのわきでウトウト寝ていると、昨日のようにまた肩をトントンとたたかれ、顔をあげると昨日の女性と男性が今日は医者と看護師の格好で立っていました。 
「よ、お疲れ、神様に聞いて来たよ。そうしたら自分の寿命を分けてあげるときはそれでいいんじゃないかって。だからあなたが息子に自分の残された寿命を分け与えてもいいってさ。よかったじゃん。」 「私、あと残りが63年でしょう?それを半分にするとして31.5才ずつですか?」 「ちょっと待って、何か月とかは面倒だから切よくして、32と31とか。」 「はあ、じゃあ私の方が少しでも先に死にたいから、この子に32年ほど分けてもらえます?」 「うん、それはいけるよ。よしきまった。このノートに上に息子さんの名前、下にあなたの名前、それぞれにこれから生きていく寿命を書いて。」 「はい、上に息子の名前、木村正二、32年、下に私、木村真美、31年と。これでいいですか?」 「うん、それでいいよ、それからねその紙をおでこに当てて念じるの、この子の顔を思い浮かべながら。いい?」 「はい。」一生懸命念じました。
「よし、もういいよ、それ貰っていくから。神様にそれを渡して承認してもらわないと。え~と、それからね、あなたは死んだときこれで天国へ行けるわ、だって子供のために寿命を縮めちゃったんだから。あとは息子よ、息子がぐれたりしないようにしないと、死んだときにこの悪魔が地獄へ連れて行っちゃうからね。そうしたら死んだあと天国で一緒に暮らせなくなるよ。だから生きている間にしっかり教育して間違った道に進まないように育てていってね。分かった?」 「はい、充分気を付けます。」 「明日の朝、目が覚めた時にはもうそうなっているからね。息子ビックリするくらい健康になっているから、安心して。私これからこいつとデート、羨ましいでしょう?」 「あ、いや、あんまり悪魔さんとは付き合いたくないんで。」 「そう?こいつ良いもの持っていてさ、そりゃあ凄いんだよ、気を失うぐらい逝かせてくれるよ、あなたもどう?一度してみる?」 「あ、いやあ、主人でいいです。」 「そう?結構楽しいのに。まあいいや、行くよ、悪魔、ほらぐずぐずしないで!じゃあね、バイバイ。」と二人の姿が消えて行きました。

夜が明けて気が付いた時、息子の正二はグッスリ眠っていました。「あれはやっぱり夢よね。あんな天使がいるわけないわよね。大体タメ口で話してくるし、着ているものだって天使らしくないし、羽も頭のリングもなかったわ。夢に決まっているわよ。」と思った時、思い切り頭をハンマーでたたかれたような衝撃がありました。
「うぅ~、なに今のは。」と思って息子の正二の寝顔を見ると、一瞬体がこわばって痙攣を起こしたようになってからす~っと力を抜いたようでした。「え!どうしたの?正二、大丈夫かしら?」と体を触ると、「う、うん、ママ、ママ、僕に何かした?」 「どうしたの?何もしていないよ。」 「どうしてだろう、胸が苦しくないし呼吸も凄く楽だよ。いつものように心臓が締め付けられるような感覚もないし、どうして?凄く体が楽なんだけど。」 「え!ちょっと待って、先生を呼んでくる!」
真美は慌ててナースステーションに行き看護師に先生を呼ぶように頼みました。医者が来て聴診器を当てると、「え?え?」と首をかしげながら、「心音が正常です。」ちょっと精密検査をしてみましょう。」と一日がかりで体中を調べると、「息子さんは全て正常です、すこぶる健康な体です。昨日までのあの心臓はどこへ行ったんでしょう?さっぱり分かりません。もう退院しても大丈夫です。」 「え~!本当ですか?」 「本当です、すべてにわたって健康体です。明日にでも退院してください。」 「は、はい。」真美はぼろぼろ涙を流して喜びました。
「やっぱりあれは本当の天使と悪魔だったんだ。これから30年間違いのないように育てていかないと、天国で一緒に暮らしていけなくなるわ。よし!がんばろう!」と決意しました。

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