無題

もうこのまま死なせてください


不意に入院患者のおばあちゃんが訴えた
昨日のおむつ交換の時
私は他の患者の対応中だった
もう一人のスタッフが、おむつ交換をしている時に伝えてきた言葉
とっさにそのスタッフは「そんな事言わないのーそんな悲しいこと言わないでー」と言っていた
スタッフは励まそうとして言っていたのだ
その患者は理由を言うことなくただただ死にたいと口にしていた


患者の思いに寄り添えているだろうか



今日の朝
別の患者の食事の準備をしている時
その患者はゆっくりと口を動かし始めた
「たくさんちりょうするのがつらい…もういきたい」
どこにいきたいのか尋ねると右手の人差し指で上を指す
天国に行きたいと言う


私は励ましの言葉を生み出せない


そっかつらいよね…苦しいことたくさんあるもんね…

もうこの人生に思い残すことはないんですか?
率直に聞いてみたくなった


「たくさんある…おもいのこすことだらけ」


長らく透析を受け療養中の患者だ
糖尿病で血糖コントロールがうまくいかず数ヶ月前に左足の膝下を切断した
傷口がなかなかきれいにならず毎日消毒している
その足に痛みは感じないそうだ
週3回の透析以外毎日ベット上で寝ては起き寝ては起きの繰り返し
テレビはあるものの本人が楽しそうにしていることはない
食事も自力で食べられることもあれば介助が必要なときも多いし、美味しくないとほとんど食べないこともある
さらに最近ではよく湿性咳嗽があり、うまく自分で痰を吐き出せていないためチューブによる吸引が必要だ
彼はそれに苦痛を感じている
だけど吸引しないと痰による窒息の危険もある
やりたくないと言われてもやらなければならない処置だ
いつも申し訳ないと思いながら行っている

高齢者の療養には患者の苦痛が避けられないことが多くある
吸引はもちろんのこと、経管栄養は常に管が鼻に入っている状態、月に1度交換する必要がある
点滴や注射は痛い
高齢者は血管が弱くもろく固く末梢点滴ができなくなることが多い
その時に出てくるのが皮下点滴、筋肉注射
500ミリリットルの点滴を皮下にする
インフルエンザワクチンが皮下注射だが、あのちょっとの量でも痛いのに500ミリリットル点滴することが多い
時々2倍の量を行うこともある
熱が出ると抗生物質を筋肉注射する
毎日2回だ
(ちなみにコロナワクチンが筋肉注射)
どこに筋肉があるのかというほどやせ細った患者もいるというのに
つまんでも皮下脂肪がつまめないほどやせ細った患者もいるというのに

私の仕事は患者へ苦痛を与えることばかりだ

こんなことしていい死に方はしないだろうな、と自虐的に考えたりすることもある



思い残すことがいっぱいあるけれど、もう死んでしまいたい
でも死ねない


私は患者の胸に手を当てゆっくりとさすった
言葉が出てこない
ゆっくりゆっくり胸をさすっていると


「ありがとう」


申し訳ない、何もできなくて



いつかどこかのタイミングでこういった患者のエピソードを残そうと思ってはいたけれど、さすがに昨日今日と立て続けに同じような言葉を聞いてしまってどうしても今日ここに残しておきたくて書いた


もし今生きるのが辛くて自ら命を終わらせようとしている人がいたら
その選択ができて実行できるあなたは幸せな人だと言いたい
死にたくても死ねない人がいるのだから
死にたくても生きる続けるしかない人もいるのだから



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