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コロナを乗り越える 教育イノベーション-KIBOW社会投資リサーチ①

教育現場は感染症予防と学びの両立というイノベーションが求められています。従前より教育におけるテクノロジーの活用は求められていましたが、新型コロナの影響でニーズが急増しています。そこで本記事では、新型コロナによって顕在化した教育課題と加速するイノベーション事例を紹介します。

社会課題とその構造 

世界銀行の報告書「新型コロナウィルス感染症拡大:教育への影響と政策対応」(2020年5月)によれば、新型コロナの拡大に関しては、学校の閉鎖と感染拡大抑止による経済の低迷という二つの影響が世界各地における教育の促進に大きな脅威となっています。

学校閉鎖は①学習の遅れ、学習機会の不平等の拡大、学校とのつながりの低下、②栄養状態の悪化、メンタルヘルスの悪化、虐待の増加など、また経済危機は教育業界における需要・供給の衰退をもたらし、③退学率の増加、親からの教育投資の減少、④政府による教育支出の減少、教育や授業の質の低下などの課題につながり、人的資本と福祉の確保に長期的な負担を与えると指摘しています。

しかし、新型コロナ拡大以前の状況に戻すのではなく、この危機を機会と捉え、より良い教育を提供していくためにイノベーションを加速していくべきと提案しています。

そこで、ここでは世界における教育イノベーション事例を4つ紹介します。

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イノベーション事例

1.教育に最適化された双方向オンラインソフトウェア
対象:対面での授業を行うことが難しい教師、学生

オンライン会議システムは教育に最適化されているでしょうか。
カナダのTOP HAT(トップ・ハット)は教育に最適化された双方向オンラインアソフトウェアです。教師はライブ授業をオンラインで提供することができます。教師は学生とスライドを共有することもでき、学生はチャットや質問を送ることもできます。

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さらに、授業でデジタル教科書を使用すること、アンケートやクイズを出題すること、学生の出席を確認すること、宿題を出すこと、授業を録画することもできます。

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また、オンラインで試験を行うことも可能で、ソフトウェアが自動で不正がないかを監督します。

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TOP HATは新型コロナ拡大を受けて、オンライン授業ソフトウェアを無料で提供しています。

2.学校向けメンタルヘルスケアサービス
対象:メンタル不調を抱える学生、親、教師

新型コロナの感染拡大によって、教育におけるメンタルヘルス課題も顕在化してきています。いじめ、児童虐待、自殺など教育におけるメンタルヘルス課題は多様化・深刻化していますが、専門医は不足しています。新型コロナの感染拡大を受けて、スクールカウンセラーの働きが制限され、社会不安が増大しています。

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Welcome to talk(ウェルカム・トゥ・トーク)の「オンライン健康相談」は学生・親・教師向けメンタルヘルスケアサービスです。教育機関に特化し、ICTを活用した国内初のメンタルヘルスケアを提供しています。いつでも・どこでも・気軽に・手軽にネット環境とスマホがあれば利用可能で、精神科医や心理士といった専門家からサポートを得ることができます。

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3.学生の中退を防止し、ウェルネス(健康)を改善するアプリ
対象:中退リスクを抱える学生

米国のEdsights(エドサイツ)はテキストメッセージチャットボット(人工知能を活用した自動会話プログラム)によって、学生の中退を防止し、ウェルネス(健康)の改善を行います。Edsightsは非認知データを収集し、AIによって分析し、問題を検知した場合には自動で必要な支援に繋ぐことができます。

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退学リスクの予測精度は89%で、就学維持率を12%向上させました。退学者が減ることで、学校は授業料を維持することができます。
学校が今まで入手することが難しかった、学生の帰属意識などの非認知データを大規模で継続的に得ることができ、学校はリアルタイムで実用的な洞察を得ることができます。

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4.教師のためのオンラインプラットフォーム
対象:悩みを抱える教師

新型コロナは学生だけでなく、教師にも影響を与えています。教育がテクノロジーによって進化する中、教師の役割も変化してきていますが、教師が重要な役割を果たすことは変わりません。

米国のTeachers Connect(ティーチャーズ・コネクト)は教師を中心とした教師のためのオンラインプラットフォームです。教師が質問を投稿すると、最適な回答やリソースを数時間以内に得ることができます。教師は匿名で質問を投稿することもできます。

Teachers Connectは、新型コロナ拡大を受け、Coronavirus Rx Edというウェビナーを提供し、教師がどのように対応すべきか情報提供しています。

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さらなる教育イノベーションに向けて

日本では教育現場におけるテクノロジー活用が驚くほど進んでいません。文科省が2020年4月に行った調査によれば、日本における同時双方向オンライン授業の実施率はわずか5%でした。また、OECD(経済協力開発機構)が同月に行った調査「新型コロナウイルス対策に関する、教育領域におけるフレームワーク」によれば、日本において「教師はデジタルを取り入れた授業の準備に十分な時間を確保している」と校長が判断した学校の割合はわずか10%程度で、OECD平均の60%程度を大きく下回り、最下位でした。日本における教員の多忙化解消やICTリテラシー向上は大きな課題となっています。

また、オンライン授業で学生の学習意欲をどう引き出し継続させていくか、教育的機能だけでなく福祉的機能をどう担保するか、座学だけでなく体育をどのように提供するかといった課題も指摘されています。

深い現場理解に基づいた教育におけるテクノロジーと人間の最適な共存の在り方が今まさに問われており、今後のさらなるイノベーションが期待されます。

執筆者:KIBOW社会投資 五十嵐 剛志(インベストメント・プロフェッショナル)

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