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GLOBIS男性育休経験者座談会vol.3 自分を豊かにする時間 組織や社会に大きなメリット

子どもを授かるというライフイベントに際し、多様な側面で重要だといえる「男性育休」。一方、「休みづらい」という日本組織の空気が足を引っ張っている可能性も見えてきました。今後、どのような一歩を踏み出す必要があるのでしょうか? 連載最後で考えてみます。

「家族のための休暇」は「自分のため」でもあった

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齋藤:家族に対してということ以外に、取得してのメリットや、ご自身の変化はありましたか?

佐々木
:自分の時間が取れたのが良かったですね。普段読めないような本を読めたり、テレビを見たり、それが学びにもなりますしね。また、普段会わない友達と会うことができて、それが副業に繋がったこともありました。普段ずっと仕事をしているとできないようなことができて、人生がより彩り豊かになったのは確かです。

齋藤
:黒木さんはどうですか?

黒木
:佐々木さんと同じように、自分の時間はすごく取れたかな。趣味のテニスに通ったり、新しい勉強をする時間が取れて有意義でした。同時に、現在32歳ですが、この先エンジニアとして、技術的な方向か、事業的な方向か、マネジメントか……を考える年齢であり、子どもが生まれたという節目もあって、自分のキャリアをどんな方向に振るのか、あらためて考え直す時間でもありました。

育休は大変、ということだけが強調されがちですが、間違いなく休暇の側面もある。夫婦でとる前提ですが、2人で育休を取得すれば、ちゃんと使える時間はある、と伝えていきたいです。

齋藤:もちろんパートナーが専業主婦の場合でも男性育休は取れますし、2人で子育てをすることで、女性も同じように自分の時間を取れるというメリットがあります。ただ、「そんなに休めるなら仕事できるよね」と周りに思われてしまったり、逆に仕事が気になってしまう人もいるかもしれないですね。

黒木:仕事をしていないと不安なこともあると思うので、例えば1時間だけリモートで話をする時間をつくってもいいかもしれません。最終手段としてそういう選択肢はあるかな。それで不安が解消されて育休を取れる、ということに繋がるなら、それでもいいと思います。

齋藤:そうですよね。まったく遮断される方が不安、という方は、半育休という制度があったり、Slackなりメッセンジャーなりの連絡手段は確保できるといいかな、と。

スベン
:日本で社会人になったら、自分の時間が結構取られますよね。もちろん好きな仕事だから、別にいいですけど。ただ、育休を通して「自分の好きなこと」をあらためて認識できたのは良かったです。私は子どもの時からゲームが好きで、妻が入院した時点で毎回新しいゲームを買うんです。育休中にそれを終わらせる。

黒木:私もゲームしていました(笑)。

スベン:一緒ですね(笑)。また、料理も好きなので、終日マリネするような時間のかかる料理をしたり、久々に友達に会ったり。みんな社会人になって、子どももいると会う機会が減ってきていましたから。

たとえば、2020年はコロナでみんなワークアットホームだったので、ランチ中に友達の家に行ったりしました。少しルール違反かもしれませんが、結構自由に動くことができて本当に良かった。

私は、グロービスに入社する前に約5ヵ月間、失業して家にいたことがあるんですね。その時もいろんな本を読んだり、勉強したり、自由に使える時間があって。失業者だったけど、本当に嬉しかったな。だから今回も、「そこまで働く必要があるのか?」と感じましたね。

齋藤
:確かに。パートナーと役割分担や時間の使い方など相談し合った上で、自分の時間を過ごせるメリットをしっかり打ち出したいですよね。日本は働きすぎで生産性が低いと言われることもありますが、ここは育休だけではなく、日本の社会課題として捉える必要がありますね。

スベン
:その点、グロービスのサバティカルはいいですよね。今度は入社10年以上になるので、1カ月間もらえます。世界中旅行するとか、普段できないことをやってみたいです。

齋藤
:「離れる」って大事ですよね。日本だとまだ「休む=前線離脱」みたいなイメージを持たれるけれども、実は見聞を深めることができる時間。

スベン
:そうですね。とはいっても、テクノロジーのせいで、完全に仕事から離れられない。休んでいても社内には24時間(以内に返信する)ルールがあるから。「この2週間だけは連絡取らないで」というのを伝えたいです(笑)。

「できない」を「できる」に変えるアクションを

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齋藤:男性の育休取得促進や、もっと幸せな働き方をするためにはどうしたらいいでしょうか。

黒木
:まずは周知ですね。2022年に男性育休の通知義務化が始まりますよね。そもそも法律で定められていると再認識するとともに、給付金を含めた制度のしくみを知ることで、私は安心できました。会社側からも、取ることを推奨するという動きがもっと必要だと思います。

また、女性は自分の体のことなので伝えると思いますが、男性は自分の妻が妊娠したことをあまり周知しない。安定期に入るまでは言いづらいのもあると思いますが、言いやすくして、それを知った会社は「育休を取りましょう」と推奨するのは必要かな、と思います。

スベン
:そもそも「なぜ休暇があるのか」、その大事さを理解してほしいです。ベルギーでは、有給などの制度は仕事中に人が死んだから作られたものです。ずっと残業をすると精神的にも体力的にも落ちるから。

あとは義務化、ですね。有給もちゃんと取らないと。日本社会では上司の行動を見て従いますが、リーダーたちが取らないと下の人も取れなくなります。「2週間取って」という言葉だけでなくて、評価に含むなど全社的にチェックすれば、もっと休みが取りやすくなると思います。

ちなみに、リモートワークもそうでした。人事部門はすごく努力して制度を導入しているのに、現場での活用は1日か2日。「うちのチームには合わないよ」と。でも結局、コロナの影響で、みんなちゃんと出来ている。本当は可能ですよ。空気の問題。

齋藤
:育休はともすると「権利の主張」みたいに取られてしまいますが、育休取得が個人や組織の、ひいては社会のメリットに繋がることを周知することが必要ですよね。

佐々木
:手っ取り早くできそうなのは、千葉県の熊谷知事がされている取ることが前提で、取らない場合に「何で取らないんですか」と理由を書かせる。それによって、日数は短い場合もあるようですけれど、ほぼ取るようになるそうです。

あとは、ドキュメント化とかナレッジ共有とか、テクノロジーで改善できるところはたくさんあると思っています。属人化をさせないしくみ作りですね。テクノロジーだって、ただ導入すればいいということではなくて、使い方も大事です。

たとえば、Slackの使い方にしても、クローズドなチャンネルやダイレクトメッセージが多くなりすぎるのは考えものです。なるべくオープンで使えば、それだけで業務の共有やナレッジ化につながります。そういうのも改善どころです。

齋藤:今後、介護問題も発生しますし、中長期的に属人化させないというのは大切な課題ですね。最後に、今後育休を取りたいと思う方々に向けてのメッセージをお願いします。

黒木:育休は、2人で取ることで、よりよい時間になります。お母さん一人だけで取ると大変なことも多くなるので、ぜひ2人で楽しんでほしい。周りの人もそれを勧めてほしいですね。

齋藤: 2人で乗り越えることで、出産をきっかけに妻から夫への愛情が減っていく「産後クライシス」や「産後うつ」のような社会問題も改善できると思います。

佐々木:今までのコメントと重複しますが、プライスレスな経験ができて人生が豊かになります。子どもとの時間が増えるというのもそうですし、自分と向き合える時間が増える。やった方がお得というか、やらない理由はない。

スベン:あくまで自分の選択になりますが、育休をとった男性で後悔している人をほとんど知らない。本当にメリットばかりです。あと、赤ちゃんはその小さい時間が一瞬。この前生まれた3人目も、もう新生児じゃないですからね。この瞬間は人生の中でも本当に大事な時間なので、家族として過ごしてほしいです。

齋藤:余談になりますけれども、男性育休でインタビューした卒業生から、「子育てに関わると、パワハラとかセクハラがなくなるのでは」と仰った方がいました。

赤ちゃんの成長を間近で見ることで、ヒトがこんな風に育っていくんだな、とか、これくらいの手間と時間をかけて育児をするんだな、と分かると、人間に対する尊厳とか家事育児に関わる全ての人への尊重の気持ちも芽生るのでは、と。

ジェンダーギャップ指数の世界ランキングも低迷している日本ですが、男女区別なくしっかり家事育児に関わることで解消されていく課題も大きいのでは、というのが個人的な思いです。

みなさん、かなり本音の話をしてくださり、ありがとうございました。グロービスも社会も、変わる道筋になれば幸いです。