五十嵐さん3

社会的インパクト投資への挑戦 #人生を変える学び 五十嵐剛志 vol.3

――体が動かなくなったことをきっかけに監査法人からNPOのCFOになった五十嵐さんは、「可能性を信じる」を軸に生き方を変えようと決意します。

人の心が動いてお金が動いていることが分かる

武井 :そのセミナーで感銘を受けたあと、どうされたんですか。どうやってTeach For Japanで働くことになったのでしょう?

五十嵐:講演を聞いた後に、掃除でも何でもやるつもりで「何か自分にできることはありませんか」って(Teach For Japan代表の)松田さんに言いに行きました。でも、そのとき松田さんが「五十嵐さんの好きなことや得意なことは何ですか」って聞いてくれたんです。

会計なら得意だと言ったら、「ちょうど困ってるから手伝ってくれないか」って言われて。人たらしですよね、多分何て答えてもそう言ってくれたんだと思います。実際に財務諸表とか会計システムを見たらめちゃくちゃで。これは貢献できると思って、そこからはのめり込みました

武井 :心からTeach For Japanにコミットできたのは、なぜでしょう?

五十嵐:ビジョンに共感しているのが大前提ですけど、それプラス、手触り感があって。Teach For Japanの場合、事業規模1億円ぐらいしかないんです。

武井 :今まで五十嵐さんがお仕事で扱われていたメガバンクとはけた違いに小さいですね。

五十嵐:これはよくする話なんですけど、例えば、東北事業部からホッカイロの経費申請が来たんですね、1,500円くらい。一応CFOとして、1円たりとも寄付は無駄にしたくない、という思いがあったので使用目的を聞いたんです。合理性とは別の次元で全部ちゃんと理解したいっていう思いがあったので。

そしたら東北事業部の人が「チラシを配りたくて」っていうんですよ。そうか、寒いもんね、と思ったら、「チラシにくっつけて渡したいんです」っていうふうにいわれて。

僕はそれを聞いてすごい感動したというか。すごく寒いよね、だからホッカイロ買うんだな、って思ったんですけど、さらにその先を行く答えが返ってきたので。そのための1,500円なんだ、というのがリアルに想像できたし、意味があるお金だと自分も感じることができたので、喜んで承認したんです。

それはお金を使うときもそうですし、寄付を集めるときもそうなんです。寄付者説明会を開いたときに「自分も実はすごく恵まれない境遇で貧しかったんだけど、今は何とかやっていくことができている。教育の大切さをものすごく感じている。だから今でも裕福ではないんだけど、月1万円寄付させてください」。そう言ってくださる方もいて、そのときにいただいた1万円は、全然今まで見てたのと違うんですよ。

武井 :どう違ったのですか。

五十嵐:人の心が動いてお金が動いているっていうことが分かる。

武井 :価値の交換に関わっているお金だということが分かるということですね。

五十嵐:はい、それまで経験のなかったことだったので新鮮でした。

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NPOが抱える構造的問題を解決する

武井 :副業じゃなくて、専任されるようになったのは何かきっかけがありますか?

五十嵐:副業では埒が明かないなと。会計はTeach For Japanだけの課題じゃなくてNPOというセクターが抱える構造的な課題だと考えて、それを解決したいと思ったのがきっかけです。

武井 :どういう構造的な課題が見えてきたのでしょう。

五十嵐:最初はお金がないことが課題だと思っていたんですけど、そうではなくて「お金が集まらないのはどういう構造だからなのか」を考え始めました。

調べてみると日本のNPOはどうも信頼されてないらしいということが分かりました。もっと調べてみると、その原因は、お金を何に使ったのかという情報開示が足りないから。つまりアカウンタビリティ(説明責任)ができてない。その構造が問題なら、解決できるかもしれないと考えました。

武井 :なるほど、それでご自身でNPO法人「Accountability for Change」を立ち上げられるわけですね。仲間はどうやって募ったんですか。

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五十嵐:同じように会計士でNPOでプロボノ*をやっている人と意気投合して。でも2人だけじゃ足りないからどんどん増やそうと。そのために自分たちが持っている知識、経験、スキル、マインドセットを研修にして若手会計士に届けることを始めたんです。

*プロボノ……専門スキルを持っている人がそのスキルを無償提供するボランティア活動全般。

武井 :若手会計士を教育する活動にもなるのでしょうか。

五十嵐:その側面もあります。ソーシャルセクター*の健全な発展に寄与するのが第1の目的なんですけど、それだけだと人がついてこない。モヤモヤしてる若手会計士に「あなたの成長にもつながりますよ」ということを伝えたら刺さったという感じです。

*ソーシャルセクター……社会課題の解決を第一とする組織のこと。

武井 :ああ、私もNPOと一般社団を持ってるので会計士の必要性はすごくわかります。この活動は続いていますか。

五十嵐:今は代表を継いで別の人にやってもらってます。

武井 :そのNPOの活動から今度は、最初に話のあった社会的インパクト投資にいくわけですけね。お話を伺っていて、お伺いしたいことが出てきたのですが。五十嵐さんにとっては社会貢献のいいところは何でしょうか。

五十嵐:なかなか難しい質問ですね。

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