見出し画像

【G1@Clubhouse㊿】アメリカ政治と社会2021

3月19日22:00 ~23:00に行われたG1@Clubhouse㊿の内容のポイントをご紹介します。*本記事は2021/3/20に公開した知見録の記事を転載しています。

テーマと出演者

テーマ:「アメリカ政治と社会2021」

出演者:久米隼人(厚生労働省)、成田悠輔(イェール大学助教授/半熟仮想)、上田倫生(グローバル大手トランザクション・アドバイザリー)、徐東輝(弁護士)、堀義人

発言のポイント

※上記出演者のご了解を得たうえで、記録、公開しています。

1) トランプ政権からバイデン政権へ。注目すべき変化

・トランプがキャンセルしていたオバマによる大統領令の多くを元に戻す形で、バイデン政権は再び環境規制を設けたりしている。また、外交では中国を念頭に人権対応で本腰を入れてきた。この辺は大きな変化だ。ただ、変わっていないと感じる部分もある。トランプ政権の貿易戦争や排他主義といったトーン自体は変わったが、現場をよくよく見ると前政権で中国に課していた関税はそのまま。CFIUS(対米外国投資委員会)による海外からの投資に対するスクリーニング強化についても、特に変えるとの発表はない。メッセージとしては多国間主義を出しつつ、実はかなり保護主義的というか、内向きの点が残っていると感じる。

・コロナに関する一番の変化は科学に基づいた施策だ。今までは「俺たちはウイルスなんかに負けない」なんて言って、トランプが集会でマスクを投げていたりしていた。しかし3月後半までの累計感染者は3,000万人で、死者は54万人。第1次・第2次大戦とベトナム戦争の総戦死者数すら超える。バイデン政権は「これではいけない」と。マスクが感染予防策になることを前面に打ち出しつつ、今はワクチン接種も進めている。

・個人的には“キャラ問題”に興味がある。現代の複雑な社会では、政治家が経済やビジネスのすべてを理解して適切な判断を下すことは期待できない。そこで大統領が果たすべき役割は「いい感じのキャラ」を提供することだと思っている。人間の器とか、退屈させない感じとか。ここ20年のアメリカ大統領たちは、そうしたキャラが一貫して最高レベルだった。それに比べるとバイデンはすごくつまらない。「長年にわたる上院議員としてのバランス感覚と経験値」みたいな、熟練の政治職人おじいちゃんといった感じだ。

2) バイデン政権下のコロナ対応

・明確なメッセージを出して、うまくいっていると思う。ワクチンについても「100日で1億人に打つ」と言ったことを今日(3月19日現在)にも達成する状況だ。数も億回分を確保し、安心感につながる対策を矢継ぎ早に打っている。また、前政権で足りなかった弱者への配慮という点でも、タスクフォースをつくり、たとえば黒人やラテンアメリカの人が多い地域では特別なワクチン接種場をつくるために補正予算を投じたりしている。

今、アメリカで「ワクチンを摂取したくない」と思っているグループは2つある。1つは「ウイルスなんかには負けない」という方々。共和党のなかでも3割ぐらい。あとは黒人やラテンアメリカ系の方々だ。ただ、今後はそうした方々への対策も講じることでワクチン摂取への理解は深まると思う。つい先日は、トランプもどこかのニュースで、「自分もワクチンを打った。皆さんもしっかり打ったほうがいい」といった話をしていた。

・トランプ政権にも素晴らしかった点はある。ワクチンの開発とデリバリーについて「オペレーション・ワープ・スピード」という前代未聞のプロジェクトを立ち上げた点だ。そこで、モデルナやアストラゼネカなどにそれぞれ1,000億規模のお金を提供していて、それを受けたところが1年足らずでワクチンを開発して市場へ供給していった。去年春の段階で目利きをして、国の研究機関も使って治験をしっかり行っていった成果だ。これはアメリカの真髄というか、アメリカでしかできなかったこと。この流れはバイデン政権も引き継いている。

・変異株については政府も強い懸念を示している。感染スピードが従来株より早く、特にイギリス株は死亡率が1.6倍とのデータも出ている。ただ、その対策としてモデルナは新しいワクチンを開発しており、すでにその治験もはじまった。また、ファイザーのワクチンはイギリス株・ブラジル株・南ア株にも一定の効果があるとの研究決結果が出ているので、対策は現在の継続になると思う。

3) 今後のアメリカ政治・社会を考えるうえで重要なポイント

・中長期視点では人種や人口の構成が鍵になると考えている。今後も続くであろう人口増のなかで、今までマイノリティだった非白人やヒスパニックの人々がマジョリティになっていくという変化がある。それによって社会も大きく変わるのではないか。アメリカでは世代や人種によって考え方が大きく異なる。消費行動ひとつとっても、たとえば若い世代ほど、多少高価格でも出どころがきちんとしているものを選ぶ傾向が強かったりする。そうしたマインドが政治にも表れていくことで、短期的には分極化が進むことはあっても、中長期的にはポジティブに見ている。

・今のアメリカ社会は2つの軸で4つに分けられると思う。「多様性を認めるか保守か」という旧来型の軸を横軸にとると、縦軸は「金持ち対策か貧しい人々への対策か」。そのうえで4象限を見てみると、「保守で金持ち対策」は旧来型の共和党支持層だ。一方、トランプは「保守で貧しい人々」に支持されていた。バイデンはそこにどこまで食い込めるのか。また、「多様性を支持するお金持ち」は民主党支持が多いが、今は「多様性を支持する貧しい人々」という、サンダース支持者に代表されるスーパーレフティな人々が増えている。今後はこの4つの理解を得ながらでないと物事を進められなくなる恐れがあり、バイデン政権は大変難しい舵取りを担うことになる。

・今、民主党は上院でも下院でも多数派だから中間選挙まではやりたいことができるように思えるが、実はそんなことはない。上院は50:50だし、そのなかで急進左派的意見が出てくれば民主党内でも分断が生まれる可能性はある。共和党内も穏健保守とトランプ支持者で分断しているし、その意味では、「今後は二大政党制自体が続くのか」という問いも出てくると思う。

・個人的には、二大政党制は続くと思う。共和党と民主党でそれぞれシンクタンクもアカデミアも完全に形ができている。そこで第3極が出てくるためには相当なパワーが必要だ。西海岸から新興ビジネス勢力のようなものが出てくる可能性はあるが、しばらくは二大政党制のままではないか。

・一番の問題は、アメリカだけでなく世界全体で民主主義的価値観や体制が“クソゲー化”している点だと思う。ここ10年ぐらいはソーシャルメディアと政治の絡みで「もう民主主義はやばい」と、多くの人が言っていた。その意味で2020年は民主主義の“オワコン化”に向けてトドメの一撃になった年でもあると感じる。2020年の経済成長率を見ると民主主義的な体制の国ほど成長率が落ちているし、コロナによる死者数も増えている。「経済を取るのか、人の命を取るのか」いった話はよく聞くが、民主主義国家はどちらも完全に失敗した。

・民主主義は、歴史的にはすごく稀な政治体制。ここ200年ぐらいは世界的な流れだったが、今はそれに対するバックラッシュが起きていると感じる。「民主主義の200年」がそろそろ終わるのかどうかが、今は一番のイシューだと思う。

・民主主義的価値観が重要という前提すら、長い目で見るとあやしい。それが大事かと聞かれたら「大事です」と答えるが、本当にそれほど気にしているのか。たとえば中国の人々に、今検閲されているニュースメディアに容易にアクセスできるチャンネルを与えるという実験を行った人がいる。結果は、チャンネルを与えても特にアクセスせず、行動や幸福度にも変化はなかった。慣れてしまえば「住めば都」の面もあるのだと思う。

・個人のレベルでは慣れてしまう可能性はあると思う。ただ、権限が集約されることで政治が腐敗して自由を押さえつけ、マイノリティの弾圧等に至るといった歴史は3000年続いている。その意味では、やはり民主主義的価値観や表現の自由は保障されるべきではないかと思う。ただ、もしかすると、そう考えるのは現在の価値観に毒されているからかもしれない。

・民主主義の価値観をどのように考えるかという話と、それを制度としてどう担保するかは分けて考えるのが良いと思う。そのうえで後者に関しては、アメリカに限らず、各国がいろいろな制度について考え直す時期に来ているように思う。特にアメリカは選挙人制度等が機能しなくなってきた側面があるのかな、と。

・人類が民主主義を選んだのは、プロセスの正当性(レジティマシー)と結果の妥当性(バリディティー)の両面を踏まえたうえで「やっぱりプロセスが重要だよね」と考えたからではないか。人々の選択結果がどうなるのか。実はよく分からない。そして、GDP成長率やコロナの死者数は結果の妥当性という点で、今回は民主主義国に疑問符が生じたのだと思う。ただ、そんななかでも人々が選んだというレジティマシー自体は完璧に担保されている。権威主義国家、あるいは権威主義的な国家は、政権交代にあたって常に血が流れてきた。だから平和裏に変えましょうというのは、民主主義のレジティマシーとして素晴らしい点だと思う。ただ、結果をもっと重視しなければいけない時期に来ているというのは、2020年は特に強く感じられることだった。

・これから何によって制度や体制の良し悪しを測るかという話が前面に出てくると思う。その点、1990年代からの20~30年はテクノロジーと情報の時代であり、政治体制やイデオロギーの重要性は社会にとってそれほど大きくなかった。でも、今後はそれが逆転するのだろうと感じている。イデオロギーや思想や環境が前面に出て、テクノロジーがそれを支える側に回る。コロナによる2020年の変化は、そうした時代の変化に向けた触媒になるのではないかという予感がする。