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社会的インパクト投資への挑戦 #人生を変える学び 五十嵐剛志 vol.5(最終回)

――人生では時に痛みを伴う経験をしますが、それを自分らしく生きるための学びに変えていける人には、どのような学びが起こり、そしてどんな強さを持っているのでしょうか。最終回は、五十嵐さんの強さについて武井さんが言及します。

日本の課題を考える

武井 :もう少しでインタビューも終わりですが、内閣府でも働いていらっしゃったのですよね。きっかけは何だったんでしょう。

五十嵐: 専門職採用でソーシャルセクターでの勤務経験がある公認会計士を公募していたんです。

武井 :まさに五十嵐さんですね。どのような仕事内容でしたか。

五十嵐:社会課題解決のための革新的ファイナンスに関する調査研究が主でした。欧米における社会的課題を解決するためのファイナンス手法を調査して、我が国でどういう風にそれを適用、普及させていくのかを報告書として出すと。

武井 :何か良い手法は見つかりましたか。

五十嵐:社会的インパクト投資を含め、手法は無限にあって、どれが我が国に適しているかはやってみないと分からないという結論でした。イギリスやアメリカを訪問したときに逆に聞かれたのが「日本の社会課題は何なんですか」「アメリカやイギリスよりいいじゃないですか」と。むしろ日本を目指したいぐらいの感じで聞かれちゃって。

武井 :たしかに健康保険の状況などを見るとそう見えるかもしれません。

五十嵐:自分はというか、我が国はというか、そもそも何を解決したいのか、よく分かってないのかもしれないっていう宿題を実は持って帰っちゃったんです。

武井 :今、日本で解決すべきことだと思うことはありますか。

五十嵐:日本の何が最も優先して解決すべき社会課題かは正直分からないし、それをどうやって特定するかもまだ分からないです。でも、みんなが解決したい課題が解決すべき社会課題なのかっていうと違うんじゃないかと。

それは国がやればいいっていうのもあるんですよ。民間がやる必要ないって。民間は、国ができてないことをやらないと意味がないので、制度の狭間に落ちている課題や、民間だからこそできることって何なのかっていうのは、多数決では生まれないはずなので。

武井 :その通りだと思います。内閣府の仕事を終えたあと、なぜグロービスに来ようと思ったんですか。

五十嵐:現実的な理由としては、任期の2年間を終えて留学か転職か考えていたところ、お声がけいただいたっていう感じです。その中でもグロービスにした理由は、堀さん(グロービス代表取締役)の本とかでもよく書かれている「可能性を信じる」に強く共感して。

あと、KIBOW社会投資のミッションである「社会課題を解決する起業家とともに事業を創造し社会を変革する」、そこにも自分のミッションとの重なりを感じてます。でも、実は何よりKIBOW社会投資で働いている山中(礼二)さん(KIBOW社会投資ディレクター)のことが大好きで、山中さんと働きたいというのが決め手です。

武井 :そして、社会的インパクト投資の実務を始められて、その指標は、まだ経済的インパクトに寄っていそうだから、社会的インパクト投資そのものの形を変えてかなきゃいけないんじゃないかなという課題をもってる。そういう感じでしょうか。

五十嵐:そうですね。

武井:それによって冒頭の夢としておっしゃっていた社会的インパクト投資のベストプラクティスをつくって発信したい、と。素敵ですね。今後をとても楽しみにしています。ありがとうございました。

【武井涼子インタビュー後記】

武井さん4

五十嵐さんの強さとは
体が動かなくなるまで頑張れるというのは、逆に言うとそこまで五十嵐さんが真剣に仕事に打ち込める方だということですね。不幸中の幸いだったのは、体が壊れた時に頭はクリアで心も元気で考えることができたこと。体が壊れるほど頑張れる、知力、体力があって、それで休職した時に時間があって人生の来し方行く末を考えられたのは大きかったのではないでしょうか。

人というのは暇がないと何も考えずに邁進して感覚がマヒして、気づいたら仕事に忙殺された年月を過ごしてしまうこともあると思います。でも、五十嵐さんは自分が何をやりたいかを見つめなおす時間を持つことができた。言い換えるなら、自分の自己実現とは何かを考えることができた。

さらに五十嵐さんの場合、その時にTeach For Japanの松田さんとの出会いがあって、監査法人からの出向という形でNPOに軟着陸できたのもラッキーだと思います。

社会貢献活動への方向転換に限らず、全く異業種への転職の失敗には、行く先の業態に勝手に夢を見て、行ってみたら現実が違うというパターンも多いのではないでしょうか。

五十嵐さんも、転職当初は理想と現実のギャップは感じられたようですが、帰れる組織があるという感覚が、大きな方向転換を支えたのだと思います。そして、NPO組織の清濁を併せのむ感覚を育てられたようですね。何もかも完璧な組織はありませんしね。

その感覚を持ったからこそ、次に内閣府の仕事が来た時に、もう一回全体を俯瞰する仕事をしてみようと思われたのでしょう。そこで調査や研究をすればするほど、外国とは異なり、日本ではNPOを寄付だけで回すことは難しいと分かってきたのですね。

そうすると、もっと別の資金調達の方法を探さなくてはいけないんじゃないかと考えられて、グロービスのKIBOW社会投資に来た。ここまで五十嵐さんの考えはすごくクリアで分かりやすかったです。

年齢を重ねるごとに視座が高くなられているので、政府、NPO、インパクト投資とみられることで、日本の社会貢献にまつわる組織とそのサポート体制の構造全体を経験し、その構造そのものを変革したいと考えられているということだと思います。

五十嵐さんは、ソーシャルファインナスを学ぶための留学準備中でもあるとのことです。きっと、最初に夢見られたグローバルリーダーに今後なっていかれるのでしょう。これからが楽しみですね。