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#015 F1サーキットにて(11)ベルギーGP

 ベルギーGPの舞台スパ・フランコルシャンにはドイツのフランクフルトから向かった。

 フランクフルトからデュッセルドルフまで国内線で飛ぶ予定だったが、フランクフルト便の到着が大幅に遅れてしまったので、その便はすでに出てしまっていた。フランクフルトからデュッセルドルフまではルフトハンザ航空が運行する直通専用列車に乗せられた。
 
 翌朝、デュッセルドルフから高速を飛ばし、アーヘンの町を抜けるとベルギー領に入る。そのまま高速を行くと、スパ・フランコルシャンがあるアルデンヌ地方の中心都市リエージュだが、このときはマルメディという小さな村に泊まる予定を立てていたので、ユーペンという町で高速を下り、一般道の68号線をルクセンブルグに向かって南下した。このアルデンヌ地方というのは、緑がいっぱいの丘陵地帯で、中世の古城が点在している。もう少し事前に下調べをして、そのことを知っていたら、訪ねたい所がいっぱいあったのだが、このときは、ただひたすら車を飛ばした。

 マルメディという村は、スパ・フランコルシャン・サーキットで、まだF1が開催される前の1982年までスパ24時間レースなどで使われていた長大な公道コースの一端を占めていた村で、現サーキットまで15分ほどで行くことができる。翌年はサーキットを挟んで反対側のスパの町に泊まったのだが、サーキットの周辺には、このマルメディ以外にも、スタブローやクーといった標高500m前後の台地に点在する小さな村があり、そこにもレストラン付きのホテルがあるので、車で行くならば、そちらに泊まるのをお薦めする。特にスタブローにはサーキット博物館があり、スパ・フランコルシャンを走った歴代の名車が展示されている。レース好きには魅力だろう。

 スパ・フランコルシャン・サーキットは今でも、フランコルシャンの町とマルメディ、スタボローの二村をつなぐ公道を閉鎖して行われているが、距離は1982年までの14kmから半分以下の6、940mに短縮されている。それでも、この地方特有の天候の急変をもろに受け、雨にたたられることが多いので、夏とはいえセーターと雨具は必需品である。

 ドライバーたちも「ヨーロッパでいちばん美しいサーキット」と言っている。ホームストレートを除くすべてのコースが深い緑の中にあって、森を抜け、丘を駆け上がっていくマシンの美しさは、他に比べようがない。
 そうした中でも、いちばんのお気に入りはラディヨンの坂に設けられたスタンド席だ。正面スタンドを駆け下りてきたマシンが最低部のオー・ルージュを抜け、火花を散らしながら一気に駆け上がる右カーブだ。

 最深部のリヴァージュは、のんびりとピクニック気分で観戦するには最高のポジションだと思う。一気にビルひとつ分の高低差を下りきる急カーブを、真上の崖から見下ろすことができる。ここで写真を撮っていたら、ふたごの女の子を連れたおじさんが折りたたみイスから立ち上がり、ポットの紅茶を飲ませてくれたのだが、翌年も同じ場所に同じようにそのおじさんが腰掛けていて、F1がいかにベルギー人に親しまれ、愛されているかを知らされる思いだった。