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#021 F1サーキットにて(16)オーストラリアGP

 緑があふれるメルボルンや街角からも海が見渡せるシドニーと比べると、アデレードは砂漠の中にぽつんとできたような味気ない町と思っていたが、実際はまったく違って、町の周りを公園に囲まれ、その外はユーカリの森に続く落ち着いた町だった。

 それもそのはず、電車に乗って1時間ばかり行ったところに、ドイツからの移民の人達が母国のライン川周辺の地形に似ていることからブドウ栽培を始めたバロッサ・バレーがあり、ここでオーストラリアワインの7割が作られているという土地だった。

 アデレード・サーキットは、市の中心を南北に走るキング・ウィリアムズ通りの東側にあるリミル公園の周りの公道と隣接するヴィクトリアパーク競馬場のインフィールド内に造られたパーマネントコースを使って開かれていた。 

 サウス・オーストラリア州政府が全面的にバックアップしていたグランプリで、大会に合わせてクリスマス・ページェントのイベントが組まれており、仮装行列や山車のパレードで街中が人でごった返している中でのレースだった。

 ドライバーも最終戦ということで、皆リラックスしているのが分かるほどだった。大会前日の木曜日に町はずれの自然保護区に行くと、グージェルミンやアレジといったドライバー達も、コアラを抱いたり、カンガルーと遊んだりと、のんびりした時間を過ごしていた。

 決勝レースの前、恒例としてドライバー全員が揃って行われた記念撮影も和気あいあい。それが終わって、いよいよレースのスタートとなるのだった。

 既にコンストラクター(製造者)部門もドライバー部門もチャンピオンは決まっており、ドライバーにとっては、3月のアメリカGPから8か月、戦い続けてきた1年を締めくくるレース、来期への一区切りとなるレースだった。

 それでも、スタートすれば激しいデットヒートの連続で、迫力満点のレースが展開された。マンセルの追撃を振り切って独走態勢に入ったセナが、ゴールまで数周を残してギアボックストラブルに見舞われタイヤバリアーに激突した。代わってトップに立ったピケの、前週の日本GPに続く2連勝だった。

 こうして、通算500回目の記念大会は終わり、ドラーバー達はしばしのオフに入っていった。