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ひとりで持ち運べる屋台ができるまで

ひとりで運んで、ひとりで組み立てられるひとり屋台。ある仕事がきっかけで、「京都にオシャレなひとり屋台があったら、ある人の人生が少し前に進められるかもしれない」。そうふと思いつき、制作した。
ポップアップや什器が得意な工務店アトリエロウエさんの、10歳年下のオシャメンと、あれやこれやと相談しながら一緒に作ったのが、この「コウリコ」だ。効率よく小売を楽しんでほしい、との想いを名前にこめた。

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(完成した屋台「コウリコ」)

自分のものさしを育む、京都の市文化
京都では古くから、市が多い。知恩院の手作り市、東寺の弘法さん、天神さん(北野天満宮)の天神市、五条坂陶器まつりといった古い市から、平安楽市など新しいものも増え、多種多様だ。手作り市ドットコムなるサイトを見るに、毎日のように京都のどこかで市が行われている。
市は、作り手との会話が何より楽しい。その時教えてもらった制作秘話や器の盛り方なんかを聞きながら買う行為は、ほとんど服はZOZO派となってしまった私には、新鮮で楽しい。
また、自分の好きなものの見極め力が問われる。五条坂の陶器市は、毎年楽しみにしているのだが、最初は多すぎる陶器が全部素敵に見えて、何を買えばいいか分からず、ただただ疲れて坂を上り下りして終わった。たが、回を重ねるごとに、「質感・持ったときの厚み・気負わず使えるか」が要だと、自分のものさしがようやく分かってきた。最近では、散財対策のために、予算を1万円に設定、必要な器をあらかじめリストアップして挑んでいる。

京都は、分かりやすいハイブランド商品が売れにくいとよく聞くが、街を歩いていてオシャレだなと思う人は多い方だと思う。食事も決して高級な店に誘われることがベストでもない。また、京都の街なかの公立高校は最近まで私服だったのだが、それは幼くしてTPOに合わせた服を選ぶ教育なのだと、どこかの本で読んだことがある。たしかに。
自分のものさしを持っていることは、京都で暮らすにおいてはとても重要なこと。市は、その訓練の場ともいえるのかもしれない。

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屋台が小さな一歩になり得る⁈
市は、たいてい皆同じようなアウトドア用のテントを使用している。それが店の雰囲気にハマればいいが、そうでもなさそうなのがお客さんとして行っていて気になっていた。ただ、作り手がそう思っていたとしても、大工さんが知り合いにいない限り、オーダーして作ってもらうなど難しいだろう。創り手の想いを反映したようなテンションの上がる屋台があれば、今出店していない人でも、やろうと思うかもしれない。何なら、知り合いの店先を借りて店を始められるかもしれない。屋台が小さな一歩になり得るのでは、と気づいたのだった。

そう気づいたきっかけがあった。世界文庫アカデミーという、新しい働き方 を実践して学ぶ学校の講師を数年している。その生徒のみんなは、「絵本カフェがやりたいけど、仕事をしながらなので家賃を借りてまで店を持つのが難しい」といったお悩みが多くあった。人脈やセンスはあっても、金・時間のハコ問題は、まだまだハードルが高い。そこで、仮の店を屋台でつくることができれば、彼女たちの夢も近づくのでは、と考えが浮かんだのだ。実際、セカアカ(世界文庫アカデミーの略)の校長が主催で行ったマーケットに足を運び、元生徒に聞いてみると、「岸本先生、つくって下さい!」と目を輝かせていた。
きっと彼女たちみたいな人は京都に多いはず。こういう人たちが京都で諦めずに小商いができるよう、ハードルを下げて取り組める前段の店として屋台が機能するのでは、と仮定した。

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AmazonなどのEコマースが生活の当たり前になり、モノを売る必要が無くなった時代に、小売に人が求めるものは、そこにしかない体験だ。後で使うときに思い出すような記憶に残る体験、変化に満ち、独自性があり面白い経験。どう売るか、が求められる高度小売の時代に、この屋台が一役買えたなら。

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岸本千佳
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