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「女性」作曲家について

2018年11月30日・記

「中堅女性作曲家サミット」の書き起こし掲載にあたり、ひとつ書いておきたいことがあります。それは「女性」作曲家について。

わたなべさんも「オンナ作曲家の部屋【はじめに】」で書かれていますが、今ヨーロッパの現代音楽界ではジェンダー議論が非常にさかんです。引き金となったのは2016年にダルムシュタット夏期講習会の一貫として行われたGRIDプロジェクト(Gender Research In Darmstadt)。それ以前にももちろんさまざまな取り組みがあったのですが、これを境に「ジェンダーについて話して良いんだ!」という空気が一気に広がりました。

たとえばヨーロッパの五大現代音楽フェスティバル(ダルムシュタットを含む)は、その結果、むこう5年間は出品作曲家の男女比を50:50にするというポリシーを打ち出しました。既にそれは実行されはじめています。

でもわたしはこのことに違和感を感じています。これは違った形での差別なんじゃないだろうか。女性だから機会が与えられ、男性だから機会が奪われ得る現状。今でもよく分からないし、そもそも女性という括りについて、それについて考えたり書いたり話したりすること。

じっさい参加してくれた作曲家(渡辺愛さん、山根明季子さん、桑原ゆうさん、小出稚子さん、牛島安希子さん、樅山智子さん)からも戸惑いの声が聞かれました。たぶん、「(わたなべ)ゆきこちゃんに声をかけてもらったから、よく分からないけど参加してみようかな、一堂に会するのは面白そうだし」という人がほとんどだったと思う。わたしはそうでした、こんな人たちに会える機会はそうそうないし。

だから「オンナ作曲家の部屋」という名のもと、書き起こしを公開することについていろんな意見があがりました。いくつかあげてみます。

”オンナ”と括ることをどこまで打ち出すかについて [...] 迷いはないですか?
やっぱり抑圧の根元にある問題って女性をめぐる諸問題が多かったですし、ここを土台にしている媒体というかプラットフォームって、少なくとも日本の(現代・実験)音楽界では無いと思うので、別に女子女子しなくてもいいけど、女が中心となっていろんな問題を考えている場っていう根っこはこだわりたいかもしれない…どうだろう…。
女が中心となって考えている場を大切にしたいというのはわかる。それを敢えてオンナ、女性作曲家とは言わず、ただの「作曲家」としたいって言う気持ちが私にはあって、それって逆に男性と張り合っちゃってるんだろうか
私も女性とかわざわざ言わなくても…って基本的には思ってるし、人から言われるとカチンとくるんですが、世の中にまだまだ女性作曲家、という言葉が残っている理由についてもっと深く考えないと次に進めないのかな、とも、まさにシンポジウムをきっかけに思ったんですよね。そういう点では同じような問題を考えたり、モヤモヤしてる人に読みにきてもらうには、オンナって看板は [...] おいとくのもありかな、とも思いました。
ジェンダー臭のきついメディアになる(誤解される)のも怖いけどね。。一作曲家としての問題も勿論いっぱい扱っていくわけだから。。
女性と区別されるのに抵抗があって、女性という性別を扱うトピックであっても、対外的には性を感じさせないものにしていきたいという気持ちがあります。このカタカナ表記の「オンナ」というのが、すごく「女性」というものを生々しく伝えているように思えて [...] 皆さんの感覚としてはどうですか?

とにかく私を含めほとんどが、そしてわたなべさんもきっと、「女性」作曲家と自ら名乗って何かをすることに迷いがありましたし、今でもそれはあまり変わっていません。

前述のGRIDでイニシアチブを取ったアメリカ人女性作曲家Ashrey Fure(アシュレー・フラー)は、「女性」作曲家として口を開くことのリスクを記事にしています。私の知る限り彼女の作品はフェミニズムを売りにしてはおらず、このリサーチプロジェクトも、ニーズに応え一時的な「イベント」としての取り組みでした。

しかし同年のダルムシュタットでの自作品のパフォーマンスに対し、彼女は「Über fliegende Vaginas(さまよえる女性器)」という酷いタイトルの酷いレビューを受け取ります。

すげーな!女性器だってよ!

これは余りにも極端な例だけど、やっぱりこういった形でこうやって口を開くのは、勇気まではいかなくとも、何かしら引っかかりはあるわけです。

そんななか、パネリストとして参加した皆が口にしていたのが、この「中堅女性作曲家サミット」という会が楽しかったこと。それは(出演者が)女性だらけだったからか、助成もスポンサーもつかない小さくてこっそりとしたイベントだったからか、理由は明確にはわかりません。でも思いもかけず、とにかく楽しくて、終わったあと元気になりました。

そして、仲間っているんだなあと思った。そういった声が多く聞かれました。これは「女性」作曲家だからというより、思っていたことを口にしたら共感を得られた、そういうことからくる開放感のようなものだったと解釈しています。じっさい話し合いのなかで、女性の権利や男性社会への不満を説く内容は、ほぼほぼありませんでした。

***


さて、【グループA:渡辺、山根、桑原】記事は出揃いましたが、この後も何らかの形で「中堅女性作曲家サミット」改め「オンナ作曲家の部屋」を継続していきたいと考えています。いろいろ理由はあるのですが、続けることで見えるものもあるだろうこと、ムーブメントがどのような着地を見せるのか興味があること、そして何よりやっている自分たちが楽しいことが大きな理由としてあげられるでしょうか。

現時点で決定されているのは以下:

・【グループB:小出、牛島、樅山】記事の掲載(年明け)

・論文雑誌「Tempo」への書き起こし英文要約版掲載(ケンブリッジ大学出版発行、2019年初春予定)

・月刊書簡マガジンの発行(来年1月からを予定)
*サミット参加メンバーを中心に、質問をしたり答えたり、web上でも似たようなことをできたらいいなあというシンプルな動機からです。

ゆきこちゃんありがとう、あのとき声をかけてもらったおかげで、楽しい企画が生まれつつあります。

***


また、これは「オンナ作曲家の部屋」メンバーというより、ゆきこちゃん(流れでこう書いてしまった)とわたしのオーガナイズなのですが、こういうものも始まっています。

・月刊「さっきょく塾マスター 2018/19

いちおう「作曲家育成のためのプロフェッショナル・コース」と銘打たれてますが、じっさいの参加者は、現役音大生から、すでにキャリアをつんだ中堅作曲家、美大出身者までさまざま。月ごとのトピックに沿ってエッセイを書いたり話し合いをする場です。
(「教える・教えられる」の一方通行でも、「優劣を競う・順番をつける」のでもなく、とにかくディスカッションを中心にしていきます。)

11月はトライアル月として「自己紹介:3つのキーワード」がお題でした。興味のある方はこちらをご一読くださいね。記事内のリンクをクリックすると受講者それぞれの投稿記事がお読みいただけます。(宣伝しちゃった!(⁎⁍̴̆Ɛ⁍̴̆⁎))

森下周子


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Chikako Morishita、作曲家です。ちかこと読みます。ベルリン在住。作品リストなどはこちら: https://chikakomorishita.com/

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