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能村登四郎全句集⑦ 『冬の音楽』

能村登四郎の第7句集『冬の音楽』は、昭和56年、登四郎70歳のときに出版されました。収録句数は370句。第6句集『有為の山』から3年での出版です。

昭和53年末に登四郎は教職を離れ俳句一筋の生活に入ります。昭和55年に沖創刊10周年を迎えました。同じ年、後輩の福永耕二の突然の死がありました。

あとがきには、「職を離れてから多少時間的にも精神的にも自由になったので、その分だけ伸び伸びと明るくなったように思う。」とありました。

前句集と同様に好きな句がたくさんありました。

くれなゐの外にめくれて雛の唇
鮎食べて齢ほのぼの兄おとと
灯の芯に来し踊り子の帯ゆるみ
線虫を見てより薄眼してをりし
溜息はどの石仏か木の芽冷え
みどり児を尻から抱いて日雷
白地着て腰が要と帯を巻く
ごつくりと唾のむ音の蟻地獄
幾人か敵あるもよし鳥かぶと
水中に落ちし胡桃に手足生え
曙色となり若者の初湯出づ
わが門を去りにし人の賀状くる
葱の根の白さしのぼるごとくなり
ほどほどの日射しが似合ふ鳰
ふところ手かく深くして老いゆくか




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