見出し画像

田中裕明全句集 その2

田中裕明の第二句集『花間一壺』(かかんいっこ)。句集冒頭に、句集名の引用元になった李白の漢詩「月下獨酌」が載っています。

好きな句を挙げます。

逢ふときはいつも雨なる青胡桃
雪舟は多くのこらず秋螢
濁り鮒人に逢はねば帰られず
木の股に水溜りをる夏芝居
宵闇の鳥籠たかく吊られあり
春昼の壺盗人の酔うてゐる
葡萄いろの空とおもひし貝割菜
襟巻を長く垂らして鹿のまへ
高き窓しめて眠るに芭蕉の葉
永き日のお濠の端の水菓子屋
鋭きものを恐るる病ひ更衣
田を植ゑて河童の顔やわらひをる

つづいて第三句集の『櫻姫譚』(おうきたん)より好きな句を。句がより平易で柔らかくなっているように感じました。

春風のからだほどけてゆく紐か
宿出でててもとさびしき春日傘
夏めくや卓布にふるる膝がしら
何用もなく大阪の暑きこと
君が居にねこじやらしまた似つかはし
青梅や指の匂ひの消えてゐし
身に入むや女黒服黒鞄
菌山招待状をふところに
池二つ涸れてその色異なれる
八重櫻氷の溶けし水つめた
宿の子をかりて花火を見にゆくも
薬罐さげ秋の暑さをわびにけり
木と別れ水をはなれて雪解風
すこし墓またすこし墓雪解風
辞書入れて露の鞄といふべしや
大根焚子供の靴をポケットに
小さくて全き六腑水温む
ハンカチを濡らしてくれし良夜かな

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?