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蒼海7号の好きな句


仲間内でmixiを利用した句会をやっていたのですが、そちらに毎号の蒼海のすきな句と題して記事を投稿していました。

せっかくなので、noteにもアップしようと思います。

みなさまの句を勝手に取り上げています。


再会の君のマスクをはづしたき   堀本裕樹

連作「真夜のジャズ」からいい意味で浮いている一句。大人になってからの同窓会をイメージしました。大人の情熱、ぎりぎり許される暴力性だと思いました。そしてコロナ時代の今よむとまた違った意味にとれます。

筆洗ふ真水もやがて春の波   生駒大祐

生駒大祐さんの招待作品より。田中裕明賞、おめでとうございます。絵の具の筆を洗っていると、水はやがて絵の具の青に染まる。(連作全体の雰囲気から自然に青色を連想しました。)筆の動きに応じてできる波と春の波を重ねている。静かな間合いがとても好きな一句でした。「やがて」が効いています。

みづうみのほのかに匂ふ秋扇   内田創太

田中裕明の「みづうみのみなとのなつのみじかけれ」の句をまず連想しました。湖は夏の終わりの雰囲気がよく似合う。秋になっても暑い日に使う扇に、夏の終わりの湖の匂いがした。田中裕明の句もいざ説明しようとするとよさをうまく説明できなくてはがゆい。それと同じ感情を創太さんの句に対しても抱きました。

慣れぬまま去る東京の今日の月   杉澤さやか

わたしも地方出身で、就職で上京した組です。この句を読んで、就職して数年で地元に帰った友達を思い出しました。今日の月は名月の傍題。月はどこにいても同じように見られるけれど、東京でみる月はやっぱり特別。エモーショナルな句です。

雲間より冬帝の眼の蒼さかな   加留かるか

冬帝の蒼く澄んだ瞳がこちらをみている。神秘的で美しい景です。「蒼」という海の深い青を連想させる字を当てているのもすごくいいです。数年前のかるかさんのN俳入選句「殴り合う女神と女神青嵐」を思い出しました。大きな季語を自在に取り扱う柔軟な発想力に憧れます。

咳のする方を見てゐる漫才師   嶋田奈緒

客席の咳のひとを漫才中に気になって見てしまうのはプロとしてだめだと思いますが、テレビではない舞台のリアルが感じられます。あまりにひどい咳だったら漫才中にいじったのだろうか‥‥想像が広がります。先生の選評にもありますが、季語「咳」を新しい感覚で描いたところがとても好きです。

金屏を畳むや沖に油槽船   杉本四十九士

金の屏風の輝きと、沖合の青い海と、油槽船のなかの揺れる石油とが不思議に響き合います。金屏と油槽船とを取り合わせるセンスがすごいなぁと思いました。(ジャンルの違う格好いいもの同士です!)海の見える高級旅館を想像しました。

読み終へてまた読む文や星月夜   会田朋代

文には嬉しいことが書いてあるのでしょう。それを直接書かずに、読み終えてまた読むという動作と、星月夜という季語に託したのが最高にうまいです。手紙を読む人物の人柄も見えてきます。

このたびは桜紅葉や寡夫と寡婦   板坂壽一

「このたびは」という言い回しからお見合いを想像しました。桜紅葉という渋い背景が落ち着いた雰囲気の寡夫と寡婦に合っている。物語の広がる一句です。

生き下手ねとおかめ微笑む酉の市   澤弄月

「生き下手ね」というおかめのセリフがベタだけれど、俳句に取り込まれると新鮮な響きがあります。壽一さんの句といい、セリフを取り込んだ句が好きなのかもしれません。

都鳥みたらし団子二本買ふ   矢崎二酔

都鳥とみたらし団子を取り合わせただけなのですが、不思議と心惹かれる句でした。みたらし団子二本は、自分と連れ合いの分。川沿いのベンチで、都鳥をみながら食べようかという景を思いました。

この糞は畠食ひ尽くしたる狸   岡本安弘

作者は狸の糞どうか見ればわかるのですね。畑仕事をしている作者の実感から生まれた句。ごつごつとしたリズムも狸へのおさまりきらない怒りが感じられます。狸が冬の季語。

遠花火古希の火照りを持て余す   嶋茂好

「古希の火照り」が面白いなと思いました。古希のお祝いをしてくれている家族にあまり浮かれている姿を見られたくないのでしょうか。遠花火という季語が華やかさもありつつすこしさみしい雰囲気がでていてよいです。

望の夜の桟橋に鯉押し寄せぬ   日向美菜

美菜さんは高校生とのこと。どの句も、句材はありふれているものなのに、目のつけどころのよさと適切に言葉を配置するテクニックでいい句に仕立てているところが、なんというか渋い!

いつの間に黒きコートを好みたる 神保と志ゆき
セーターの羊の海をくぐりけり  神保と志ゆき

神保さんの句から2句を。仕事では黒いコートでビシッと決めている男性が休日には羊の絵柄のセーターを着ている‥‥萌えですね。

灯火親しむグローブにオイル塗り   佐藤涼子

灯火親しというと、なんとなく文学系のことがらと取り合わせるイメージがあったので、グローブとの取り合わせがすごく新鮮でした。オイルの香りも漂ってきそうです。オイルの輝きと灯火の取り合わせもいいです。

ボロ市の果つるところで鍵探す   岡本亜美

ボロ市が冬の季語。ボロ市がずっと続いている景色を想像して、その末端でバックをごぞごぞしている作者。鍵探すところを一句にするなんて、実際に経験したひとじゃないとできないよなぁと思いました。カラフルな民族衣装っぽい肩掛けのバックを想像しました。

昇任と聞き背筋伸び天高し   沖山悠江

昇任と聞いて背筋が伸びた、まではありふれているのですが、それを「天高し」という季語までつなげる素直さがすごい句だなと思いました。作者がそのまま天までぐーんと伸びていくようなイメージ。本当に昇任が嬉しかったのだなぁと。その次の句「同僚の心情いかにそぞろ寒」までセットにして味わいたいです。

前歯なきラガーのカメラ目線かな   河添美羽

ラグビー俳句のなかでずば抜けてリアリティがあってよかったです。前歯なきという身も蓋もない描写もいいですが、「カメラ目線かな」が抜群にはまっていて面白いです。

交番にパジャマの母や神の留守   児玉智子

交番にパジャマの母。短い中にものすごいドラマが詰まっています。認知症で徘徊していて交番に保護された母を迎えにいったシーンと考えました。神の留守という季語は、この世に神はいないのかという悲痛な嘆きととるのは考え過ぎでしょうか。

秋彼岸会いたい人の多過ぎて   斉藤洋子

とても素直な句。会いたい人とは実際に集まる親戚たちだけでなく、ご先祖さまの霊もひっくるめて表現していると思いました。なんとも明るい。生活のなかで自然に俳句とお付き合いされていることが想像できます。

飾り釦の如く台風並びをり   中村想吉

天気図における台風を俳句にしている点が斬新でした。飾り釦のいう比喩がぴったりでおかしい。昨年の台風にはずいぶんと苦しめられました。

哲学科同期で虫売と易者   ばるとり

実話ではないと思いますが面白いです。よく考えると虫売と易者ってそんなに違いのない職業。やっぱり哲学科同期だからか。虫売が季語。そんな季語の使い方もあるんだなと思いました。

絵に描けばかはいくもあり毒茸   松浦恵美子

スーパーマリオにでてくるような毒きのこを想像しました。あれを一句にするとは。季語「茸」って作りにくいと以前から思っていましたが、こんな飛び技もアリなのかと目から鱗でした。絵だけではなく毒茸っていう言葉の響きも十分かわいいです。

あの言葉探してページめくる秋   吉野由美

あの本に書いてあったあの言葉をいま読んで、糧にしたいと思ってページをめくる。よくわかります。だれもが共感する瞬間をよく俳句にされたなぁと感心しました。秋も動かないと思います。読書の秋だし、これから来る冬にむけて、糧となる言葉をしっかりと自分のなかに取り入れておきたいものです。

鶏頭やベトナムの夜を艶めかせ   和田萌

鶏頭ってベトナムにもあるんだと思いました。たしかに鶏頭の絵の具の原色のような強い赤や黄は、東南アジアのエネルギッシュな夜によく合っている。海外へ行かれた経験が豊富な作者ならではの海外詠ですね。

叔父ふいに現れ去りぬ零余子飯  サトウイリコ

家族で夕ご飯を食べているときにふいに叔父さんが現れて、ビールを飲んで柿の種をつまんで帰った。そういえば叔父さんなにか話があったのかな、いやただ酒を飲みに来たんだろうとか話している。テーブルにはおじさんが手をつけなかった零余子飯。わたしの実家は玄関の鍵もかけてなくて、近所に住んでいるおじさん、おばさんたちがしょっちゅう来ていました。当時はけっこう嫌だったのですが、いま思うとちょっと楽しかったなとこの句を読んで思い出しました。

ペンギンに頬ぶたれたき残暑かな   犬星星人

句会ではじめてこの句を目にしたときから半年くらい経つのですが、じわじわとこの句の良さにやられています。残暑の憂鬱を振り払ってくれそうなペンギンのビンタ。バッドばつ丸で脳内再生されました。

耳もとに母が来てゐるお盆かな   小塩亜紀子

「耳もと」という具体的な箇所を提示が良かったです。耳もとに亡くなった母が来ている。嬉しいけれど、「ちょっと近いよ」とつっこんでしまいそうです。

冬ざるるオムレツゆする兄の肩   筒井晶子

オムレツを詠むのではなく、オムレツを作る兄の肩を詠むなんて、独特な視点です。季語冬ざれがなんともさみしい気分にさせます。

ブラジャーが黒ずんでいるそぞろ寒 安田あおい

なんとも開けっぴろげかつブラジャーを使う方であれば誰しもが共感する句。そぞろ寒という季語もぴったりです。よくぞ一句にしてくれたなぁと思いました(笑)

退職の夫の胃袋掴む秋   西村みち子

男の胃袋掴む秋という平凡なことがらに退職の夫を組み合わせたところが斬新。きっと作者の正直なお気持ちなのでしょう。ところでこの退職の夫を、休職の夫としたらどうだろうとふと思いました。

フィアンセの正座くづれし冬座敷   小川紫音

フィアンセってすこし懐かしい言い回しです。冬座敷の組み合わせがなんともよくて個人的なツボにはまりました。70年代のドラマっぽいです。

理科準備室の珈琲香る秋の昼   松本恵

理科準備室という具体的な設定がよかったです。理科担当の教育実習生(大学生)がこっそり珈琲をたててほしいです。ビーカーとアルコールランプで。秋の昼の澄んだ空気感がなんとも合っています。

小春日や笑顔で閉まるエレベーター  森あずさ

エレベーターまで取引先のひとを見送って、「今日はありがとうございましたー」といって笑顔で扉が閉まる。エレベーターが動き出したとたん顔に張り付いた笑顔がふっと消えるシーンを想像しました。怖いっ…!バイバイしたあとにすっと笑顔が消える、あれです。季語小春なのにホラー句としか読めなかった。みなさんの意見をお伺いしたいです。

最後に拙句をひとつ。

ラジオいま詩の朗読や台風圏  千野千佳

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