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西山ゆりこ句集 『ゴールデンウィーク』

俳壇3月号の「若手トップランナー」という、若い俳句の書き手を特集するコーナーで見た西山ゆりこさんの句がとても好きだったので、こちらの句集を購入しました。2017年発行です。新作をみて惹かれて、過去の句集も読んでみようとなるのは、読者として一番幸せな句集との出会い方だなぁと思います。

第九回田中裕明賞の選考会で、小野あたらさんの『毫』(受賞作品)に次ぐ点数を獲得していた西山ゆりこさんの『ゴールデンウィーク』。句集を読むより先に選評会でのやりとりを読んでいたので、いくつかの句は知っていました。しかし句集を読む前に、当該句集への有名俳人の評価を先に読んでしまうのは、良し悪しだなと思いました。

ゴールデンウィークありつたけのアクセサリー

選評会では、表題句がこれでいいのかという意見がありました。「アクセサリーを出してみたらこんなにあった、わーい、ゴールデンウィークだという。物欲をそのまま肯定したような、ちょっと俗っぽすぎますね。この句を表題句に選ぶというのは一体何を考えていらっしゃるんだろう。ここが一番の減点材料という気がしますね。」と四ッ谷龍さんのコメント。

しかし句集のあとがきを読むと、『ゴールデンウィーク』というタイトルにしたのは、二十歳から始めた俳句を四十歳になった作者がまとめて読み返したときに、かつての日々を思い返して、あの日々はまさにゴールデンウィークだったという理由で句集名にしたことがわかります。(一般的な捉え方では、この句が表題句で作者の自信句という認識でしょうが……。)

胎内の水かたむけて髪洗ふ

こちらの句に対しては、選評会で岸本尚毅さんが「これは面白がる読者も少なからずいるかなと思うんですけれど、私はこのタイプの句は「またか」という気がしました」とおっしゃっていました。先に選評会の評を読まなければ、わたしはこの句を面白がる読者だったと思います。

もちろん高い評価を得ている句集ですので、選評会でもたくさん褒められています。

しかし審査員の○○さんがこう言って褒めていたからすごい句なのだ、と私はすぐに思ってしまいがちです。先人たちの詠み方を参考にするのはとても大事なことなのですが、まず最初は自分の感覚を大事にしたいと思いました。俳句歴によって、好きな句、好きな俳人、好きな句集が変わっていくのは当然のことです。

長くなりましたが、こちらの句集でとくに好きだった句を。

耳掻を家族でまはしあたたかし

蠅取り紙蠅を捕へて回転す

納税期甘納豆のやめられぬ

松脂の香れる廊下夏兆す

夏の雲ファラオの壁画みな働き

背中より水へ倒るる夏休み

パプリカの赤を包丁始かな

男の力クレソンの水を切る

制服を着崩してゐる青嵐

夜濯や一本の草浮かび来る

感冒や眠りても眠りても夜

身籠りて心臓二つ熱帯夜

知らぬ子の声に乳張る青嵐

図書館の人の匂ひや冬隣

サングラス取り糠床へひざまづく

作者の明るさ、あっけらかんとした雰囲気が表れている句が多く、パワーのある句集だと思いました。また折を見て読み返したいです。



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