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波多野爽波俳句全集 その4

波多野爽波の第四句集『一筆』。

爽波自身によるあとがきには、昭和60年から63年までの4年間に「青」に発表した約1200句から375句を抽いた、とあります。

相変わらず「多作多捨」に徹して励んでいるが、これによって如何に技に磨きをかけ得るか、またどれだけよき出会い、偶然に恵まれるか、自力を超えた他力を引き出し得るかなど、道はなお遠いと言わざるを得ない。

と爽波は結んでいます。

まさに自由自在といった句柄で、笑える句も多く、とても好きな句集でした。
なお、この句集を刊行した翌年に爽波は亡くなりました。

好きな句をあげていきます。

鮨桶の中が真赤や揚雲雀
栗の花踏んで別れぬみぎひだり
腹具合怪しけれども舟遊び
墓参ほめられし句を口ずさみ
次なる子はやも宿して障子貼る
避寒して金使ふことごく僅か
身ほとりにあり春風の玉手箱
部屋割の紙貼り出して昼寝かな
夜濯に往くと戻るとすれ違ふ
理屈などどうでもつくよ立葵
捲き上げし簾に房の二つづつ
掃除婦の揃ひの服に秋が立つ
からし溶きわさびも溶いて星月夜
孫の手を身ほとりに置き冬の空
申し訳ほどの鏡台浮寝鳥
雑巾を干して帰るや弓始
夜着いて燈はみな春や嵐山
春眠や腫れものの根の深うして
青あらし電流強く流れをり
納涼の人工芝の踏み心地
いろいろな泳ぎ方してプールにひとり
席替へてここはふつくら夏座布団
落ちてゐるのは帰省子の財布なり
捕虫網その他何でもある教会
朝顔や良き句に大き二重丸
尚毅居る裕明も居る大文字
果樹園の一間に集ひ夜学かな
犬入院猫退院の月夜かな
ゴールデンウイーク霊柩車が行くよ
端居して日の丸小旗手にしたる
夜業人帽子きつちり被りたる
悲鳴にも似たり夜食の食べこぼし


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