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田中裕明全句集 その4

田中裕明の第五句集『夜の客人(まろうど)』よりすきな句を20句挙げます。

木枯やいつも前かがみのサルトル
ぼうふらやつくづく我の人嫌ひ
さみだれのあつまつてゐる湖心かな
杖つかぬ桂信子やほととぎす
風呂敷につつむ額縁鳥の恋
象老いて小さくなりぬ春の風
墓に置く大きな鞄漱石忌
日脚伸ぶ重い元素と軽い元素
空へゆく階段のなし稲の花
目のなかに芒原あり森賀まり
爽やかに俳句の神に愛されて
浮寝鳥会社の車かへしけり
寒卵しづかに雲と雲はなれ
くらき瀧茅の輪の奥に落ちにけり
みづうみのみなとのなつのみじかけれ
ちよとまづいもの食べてをり女正月
あした逢ふ人に文書く余寒かな
草かげろふ口髭たかきデスマスク
法師蟬見知らぬ夜の客人と
水澄みて傷つきやすき銀の匙

以下、岸本尚毅さんによる解説からの引用です。

『夜の客人』は平成十七年一月、ふらんす堂より刊行。裕明は平成十六年十二月三十日に白血病で亡くなり、この句集が遺句集になった。句集自体は裕明自ら生前にまとめていたもので、「平成十六年秋」と記されたあとがきは、「長い長い厄年はこれで終わりにして、気持ちを入れかえて、俳句と人生に取り組みたいと思います」という一文で結ばれている。

岸本尚毅「句集解題・それぞれの句集について」『田中裕明全句集』

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