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蒼海6号の好きな句


蒼海号での好きな句を取り上げています。みなさま、いつもすてきな句をありがとうございます。蒼海6号は2019年12月発行。句は夏が多いです。招待作品は岸本尚毅さん。


生臭きものうらがへす野分かな   堀本裕樹

「生臭い」という身も蓋もない言い方が好きです。裏返すという行動に何の意味もなさそうなのがいい。755のリズムも癖になります。

老いゆくや秋夕焼にサングラス   岸本尚毅

サングラスで老いを隠そうとしているのが、かえって老いを引き立たせているよう。老い、秋夕焼、サングラス。すべての登場人物がきっちりと輪郭を持ってあらわれています。これぞ俳句。

一塩に熟れたる鯖の入洛かな   杉本四十九士

江戸時代の句なのかと思われるほど、格式高い句。鯖街道だと思いました。「一塩」という言葉で、鯖の香りがしてきそうなほどいきいきとした景が立ち上がってきます。それでいて大きな景色を詠まれているのがすごい。

思春期のあご尖り来やマーガレット  岡本安弘

甥っ子や姪っ子の成長をみていると、成長とはすなわち顔が伸びることだと思えてきます。思春期になるとあごが尖るというこの感覚、とてもよくわかります。マーガレットの青臭さののこる美しさとも響きあいます。

煤竹の箸の細さよ夏料理   森沢悠子

奇をてらった表現はないのに、心にのこる一句。箸の細さと夏があっています。なによりも夏料理のおいしそうなこと。透明感があります。

炎帝や海向く手摺みな湿る   白山土鳩

夏の海の逃げどころのない暑さを思い出させてくれる一句。「みな」にやりきれない心情が現れているように思います。手摺の湿りにピントを合わせたことが手柄。

発端は麦茶に砂糖入れしこと   福嶋すず菜

麦茶に砂糖を入れたことでおばあちゃんと孫が喧嘩したのだと思いました。そもそも麦茶に砂糖いれるのでしょうか‥‥?笑える句、大好きです。

氷菓喰む和斗は新人賞歌人   桜望子

仲間の名前を入れた一句を結社誌に投句してくるとは。「氷菓喰む」にあどけなさとひょうひょうとした雰囲気がでていて上手いと思いました。

水中花泡を吐きたる夜の底   内田創太

泡を吐くという擬人化が生きています。あと夜ではなく夜の底と表現を重ねたところも見事。

演説の無線をひらふ海の家  さとう独楽

一昔前ののんびりした海の家の風景を想像しました。実家が新潟なので、この演説の無線は北朝鮮のものかも‥‥と思いました。

帰省子を諭せば諭し返さるる   谷けい

帰省子側の視点に立つと、せっかくの帰省中に説教をされたら言い返してしまうかもしれません。リフレインが効いていてリズムが良いので一読して覚えました。とても現代的な句だと思います。

水やうかん形見の帯の色かとも   冨永美恵子

水ようかんの色を帯の色に例えた感覚の新鮮さ。しかもそれが誰かの形見の帯と。複雑でエモい状況をわずか17音で示しているすごい一句。

兄嫁と腕相撲する帰省かな   三橋五七

楽しい句ともとれますが、エロスもただよってくるような。腕相撲ってなかなか難易度の高いコミュニケーションだと思います。

絵日傘の男するりと古書店へ   加藤ナオミ

最近では日傘をする男性も増えています。現代的な材料を扱いながら、古典的な雰囲気のただよう句。「するり」がいいです。リズムが良いので何度も声に出して読みたくなります。

夏服の紙ふうせんのやうな袖   古川朋子

ひぐらし句会のレポートで見つけてから、とても好きな一句でした。パフスリーブみたいな服がもともと好きなのですが、こんなふうに一句にすることができるんだなぁと。夏服を着ている人のかわいらしさを感じます。

ひとり居のテレビの脇の鯉のぼり   枝白紙

テレビの脇にある、だれかからもらった小さな鯉のぼり。捨てるのもあれだし、とりあえず端午の節句が終わるまでここに置いておこうという感じかなと思いました。現代的な乾いた感性が好きです。

客間にはサンローランの夏布団   大住憲生

お客様用のサンローランの夏布団。おしゃれというよりも、哀愁を感じました。サンローランの夏布団、見たことないので想像ですが‥‥。

冷麦や生まれながらのおちよぼ口 おざわけいこ

「秋扇や生まれながらに能役者 / 松本たかし」を思い出しました。おちょぼ口をさらにすぼめて冷麦をすすっている。自分のこととしたらおかしみがあるし、家族のことだとしたら愛情を感じます。

師は放屁したに一票月見草   嶋田奈緒

師は誰なのか書いてありませんが、堀本先生だとするとかなり面白いです。それが蒼海の誌面に載っていることがすごいです。確信犯的な一句。

アマリリス我儘な子は淋しい子   ばるとり

思い込みの激しい中七下五が強烈に心に残りました。アマリリスという言葉を聞くとこの句を思い出すようになりました。

四名に五組敷かるる夏布団   松本恵

人数と布団の数しか出ていませんが、数詞が効いていて想像がふくらむ一句。部屋を空けている時間に仲居さんたちが布団を敷いてくれる昔ながらの旅館を想像しました。

for menと書かれて日傘売られをり  吉野由美

最近は男性も日傘をするようになりました。個人的には女性的なデザイン日傘のフリルや花柄が苦手なので、男性向けのシンプルなデザインの方を買いたいと思いました。冒頭の「for men」が印象的で大好きな一句。

継ぎ接ぎの渋谷卯の花腐しかな   芳村瑞恵

「継ぎ接ぎ」という表現がぴったり。渋谷が絶対に動かないところがすごいです。季語「卯の花腐し」のやるせなさがよく出ています。あと渋谷はなんとなく臭いエリアが多いイメージ。そんな渋谷も、再開発で急激に姿を変えつつあるのですよね。

休職の部下のデスクの梅雨湿り  サトウイリコ

いまはわりとどの職場でも休職中のひとが一人や二人いると思います。風刺になってしまいがちなところをデスクという物に託して詠まれたのが良かったと思いました。

羅を畳めば色の現はるる   田中久美子

羅(うすもの)に施された繊細な色が、いくつか布地が重なったことで見えてきたという発見がとても俳句的で美しいと思いました。「色の現はるる」という躍動感のある措辞も良いです。

素麺の桃色ねだる老母かな   成瀬桂子

子どもじゃなくて老母というところがグッときます。赤ちゃん返りしているのかなとも思ったのですが、桃色が好きなおばあちゃまと考えてもいいですね。


限られた作品しか取り上げていないのですが、他にも好きな句がたくさんありました。

最後に拙句をひとつ。

サングラス夫より借りてよく似合ふ  千野千佳



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