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第1回蒼海賞受賞作品「うららかに」(曲風彦)を読む


第1回蒼海賞は、曲風彦(まがりかぜひこ)さんの「うららかに」が受賞されました。

蒼海9号に全句(30句)掲載されています。

個人的にかなり好きな連作であり、何度も読み直しています。

蒼海本誌に堀本主宰のわかりやすい評が載っていますが、個人的な記録として、「うららかに」の好きなところを書きます。

始まり方がすばらしい

1句目「聞き返す人事異動や初燕」→突然の人事異動。季語「初燕」の明るさがいいと、主宰評にありました。2句目「詰むる荷の軽き引越し風光る」→お引っ越し。こちらも季語の明るさが気持ちいいです。3句目「へらへらと酌むシャンパンや春灯」→赴任先のアパートに到着。単身赴任らしさがでています。4句目「春の潮甘やかに吾を迎へたる」→赴任先は海の近くの街。「あ」の音の繰り返しに明るい雰囲気が出ています。

ご本人のコメントより「受賞作は東京から高松に移り住んでからの一年の生活をモチーフに作った句を中心にまとめた」とのこと。

1句目から時系列に沿って句を並べることで、単身赴任先での生活というテーマへと読者を引き込みます。

方言句のうまさ

13句目「笑ろてたらええと言ふ人つくつくし」。四国らしい方言と、笑っていたらいい、というなにやら深い言葉に胸をつかまされます。作者の人となりが見える句だと思いました。

うどん句の巧み

連作を一読した感想で「うどんの句が3句くらいあったな」と思ったのですが、よく見たら2句でした。「穴子握り」「焼き栗」「たこ焼き」「金平糖」の句があり、食べものとしてのポジションがうどんに近いので勘違いしたのかもしれません。食べもの句のどれもおいしそうなこと。

うどん句は8句目「青嵐や束でかき込むかけうどん」、最後の「うららかに啜る釜揚げうどんかな」。それぞれ夏のうどん、春のうどんとしての対比が鮮やかです。赴任して最初の夏のうどんを勢いよくかき込むのに対し、2年目に突入する春には春の日差しとともに釜揚げうどんをゆっくりと啜り上げる。作者の心情の対比も感じました。特に最後の句は、きらきらとした春の日差しがうどんの浸かるお湯に映えている映像が喚起されて美しいです。

シャンパン句の対比もうまい

うどんとともに2句登場している句材がありました。それが「シャンパン」。3句目の「へらへらと酌むシャンパンや春灯」と11句目の「花火散りシャンパンの泡旺んなり」。3句目「へらへらと」にすこし自堕落な雰囲気がでていて、どことなく大人の色気も漂います。対して11句目では散りゆく花火と湧き上がるシャンパンの泡との対比が鮮やかであり、旺んなシャンパンの泡はあたかも作者の生活の充実を物語っているかのようです。

テレビ俳句の脱力感もいい感じ

瀬戸内の自然と、人々との交流とを描いた骨太な句がメインに据られている一方で、「テレビをみて作ったのでは」という俳句もありました。それがいい具合に力が抜けて、現代っぽい雰囲気を出しているのが個人的には好きでした。

うそ寒や固定画像のコマーシャル」→ボラギノールのCMを思い出しました。季語「うそ寒」と狙いがわからないCMのどこか薄寒い感じとが響きあいます。

冬深し出所不明の山水画」→なんでも鑑定団だと思いました。(違っていたらすみません。)

暖房やダンサー貪れるサラダ」→和田萌さんがディレクションをされた情熱大陸のポールダンサー小源寺亮太さんの回を見て作られたのかなと思いました。言葉遊びの面白いリズミカルな句。

最後から2句目がうまい

29句目の「遍路杖こつと地を突く読経あと」。主宰評にもありますが、一見地味だけれど観察が行き届いている句。実際に見て句にしたことがありありと伝わってくる写生句です。遍路という四国ならではの季語を持ってきたのもテーマに合っていてよかったと思います。連作の最後の句がいいのはもちろんですが、最後から2番目にこのような作者の確かな実力を感じさせる写生句を配置することで、連作としてよい印象を残すことができるのだなと思いました。

以上、あくまで個人的な読みです。

「うららかに」は読んでいるこちらの心が晴れやかになってくるような素晴らしい連作です。また折々に読み返そうと思います。








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