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第14回 好き嫌いは遺伝か?環境か?! -味がヒトに及ぼす作用ー

2016.11.18
藍原 祥子
生命機能科学専攻 応用生命化学講座 食品・栄養化学教室 助教

概要
甘い、苦い、甘辛い、しょっぱい―― 。私たちは口にしたものをさまざまに表現する。ヒトはこの感覚を頼りに、味には共通の質があること、それらが自然界に存在する分子に由来することを見出してきた。そして味覚とは生来、動物が有用なものと有害なものを分けるために発達させてきた生理機能であると考えられる。さて、食べ物を商品とするほどヒトの文化が成熟してくると、味を調えることで付加価値を生み出すこともできるようになった。
スパイス、甘味料などの調味料がそれである。これらの原料は多種多様であるために、代表的なものしかわかっていない。しかしながら現在知られているものでも、冷感や温感を与えるもの、味を変えるもの、味を呈しながら
他の生理機能にまで作用するものなどおもしろい化合物がたくさんある。私たちが感じる味とは、実にいろいろなものごとにリンクしているのだ。魅惑的な感覚の世界を、農学的な視点もいれながらお話していただいた。

第14回は藍原 祥子先生です。

砂糖や塩など
味を呈する化合物(味物質といいます)が
舌の上にある味蕾にキャッチされるとシグナルが発生し
その情報が脳へと伝わってヒトは味を感じます。


本日の藍原先生のトークは

「突然ですが実験です。被験者はアナタ!」

という出だしでスタートしました。

西アフリカ原産の赤い実
ミラクルフルーツを食べる前後で味覚がどう変わるのでしょうか。

シークアーサー果汁を飲んでその酸っぱさを記憶しておきます。

ミラクルフルーツを食べてからもう一度シークアーサーを飲んでみると

なんと甘味を感じます

後口に残る苦味は変化がありません


これはミラクルフルーツに含まれる
ミラクリンというたんぱく質が味蕾に存在する甘味の受容体と結合し
酸があると甘味受容体を活性化した状態にするため
すっぱいはずのものが脳では甘いと感じるのです。

このミラクリンように味を変える物質を味覚修飾物質といいます。

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では、味の感じ方は皆一緒なのでしょうか?


ビターキャッサバという植物は毒性の高い物質を含むため
普通は苦いと感じ食べないのですが
アフリカのある地域においては苦味をあまり感じない遺伝子を持っており
食べることができるという事例があります。

このキャッサバを食べると
マラリアの発症を抑えられることが知られており
この地域はマラリアの発症率と毒性のバランスで
遺伝型の分布が特異であることがわかります。


このように
味覚は個々人で感度が異なり、それには生死に関わる理由すら存在します


そもそも私たちにはなぜ味覚があるのでしょうか。


それを考えるため、さまざまな生物を見てみましょう。

ヒトの味蕾には
甘味、苦味、酸味、塩味、旨味(うまみ)の基本五味を感知する
味覚受容体があります。

哺乳類だけでなく鳥類や魚類にも味蕾はありますが
5種類の受容体がすべてあるわけではありません


吸血コウモリ、ニワトリや猫は甘味を感じません。

魚には口の中だけでなくクチビルやヒレでも味を感じます。

また脊椎動物だけでなく昆虫も
口だけでなく脚などの毛のような組織に味覚受容体を持ち
甘味や塩味を感じていることがわかっています。

さらに原始的な生物であるセンチュウにも神経細胞のうち
嗅覚と味覚に相当するような
化学物質に応答する感覚細胞が見つかっています。

このように
生物は生きていく上で摂取が必要なエネルギーを探したり
いるものといらないものを判断したりするために
味覚(化学物質の受容機構)を備えている
のです。


最後に、意外なところにある味覚受容体を紹介します。

ヒトの小腸や大腸の上皮細胞にも味覚受容体がある
ことがわかってきました。

これはどういう働きをしているのでしょうか?

もちろん腸からの電気信号で脳が味を感じることはありません。

代謝の制御のためでしょうか?

まだそのしくみは解明されていません。
ナゾ深き感覚の世界、いっしょに研究しませんか?

豊嶋尚子

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