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第15回 ため池の総合治水への活用

2019.02.05
田中丸 治哉
生産環境工学講座 水環境学教育研究分野 教授

概要
兵庫県は、県・市町・県民が協働して総合治水を推進することを目的として、平成24年4月1日に「総合治水条例」を施行した。
水環境学教育研究分野では、総合治水の流域対策の一つとしてため池の活用について検討してきた。本報告では、ため池の総合治水への活用に関する以下の内容について紹介する。
①兵庫県の丹波篠山地区、淡路地区を対象として、ため池事前放流で確保できる雨水貯留容量を計算した結果を示した後、水田貯留容量、田んぼダムを実施した場合の水田貯留容量、さらに近隣ダム群の洪水調節容量と比較し、ため池による雨水貯留容量の大きさを評価する。
②淡路地区のため池を対象として、ため池事前放流による洪水ピーク流量の低減効果を明らかにする。

今回は
地域連携センター長でもある田中丸先生に
「ため池の総合治水への活用」について話題提供いただきました。

治水と聞くと
主に大型のダムを建てることやその補修、また護岸工事といった
河川改修などのイメージが強いですが

地域にあるため池や水田を貯水施設として活用することで
大きな予算を使わずに域内で貯水容量を確保することができる

というのが今回の内容です。

元来の目的である、農業水利施設としてのため池は
「できるだけ水位を高く保つ」ことが求められますが

ため池を治水に利用するには
「できるだけ水位を下げておく」必要があります。

そのため
営農に支障がない程度で、どこまで水位を下げられるか
を水位が回復する量を勘案しながら計算する必要があります。

報告では、兵庫県の丹波篠山地区および淡路地区を対象に
近隣ダム群の洪水調節容量と比較し
ため池および田んぼダムによる雨水貯留容量の大きさを評価し
ため池治水、田んぼダムを実施した場合の貯留容量を
何も対策をしないときと比べた効果
を示していただきました。

こうした評価に基づいて、行政への政策提言や、
地元の管理者に向けたため池の水位調整に関する指針などに
つなげているとのことでした。


会場から出た質問の一つに
「治水による農業者にとっての(営農面での)メリットは何か」
という質問がありました。

合意形成のはかりやすさという点から
実態として農業者が受益者になる地区
すなわち
災害時に被害を受ける下流域に管理者である農家が含まれている地区
から取組みが進んでいっており
そうでない地区では
「インセンティブをどう用意するか」
が最後に残る課題となっているとのことでした。

ピーク流量の計算や推定、物理モデルや水位変動解析というと
難しいイメージを持つこともあるかもしれませんが
そうした知見が

予算がなくても今地域にあるため池や田んぼといった資源を有効に活用し
効果的な治水を実施するための基準や指針として役立っている

と分かることで
研究をより身近に感じることができる機会となったのではないでしょうか。


田中丸先生の研究紹介はこちら。

衛藤彬史

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