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第16回 ウシの感染症‐予防・治療法へ向けて‐

2019.06.13
松尾 栄子
応用動物学コース 感染症制御学 助教

概要
イバラキ病は1959年日本で初めて報告された嚥下障害を主徴とする牛の感染症(致死率~20%)で、家畜伝染病予防法の届出伝染病である。その原因ウイルスとして、二本鎖RNA(dsRNA)をゲノムとして持つイバラキウイルス(Ibaraki virus, IBAV)が、茨城県下の発病牛から分離された。イバラキ病は、近年も国内で流行しているが、感染牛に対しては対症療法しかなく、治療法の確立は急務である。ウイルス性疾患の予防や治療には宿主内でのウイルスの増殖機序を知る必要がある。しかし、現在IBAVの分子生物学的な感染・複製機序の詳細はほとんど解明されていない。
そこで、IBAVの感染・複製機序の解明を進めるとともに、新規予防法および治療法の確立に向け、dsRNAウイルスの病原性決定機序の解明をさらに大きく推し進めていくことを目的とし、最も謎の多いタンパク質であるVP6について解析を進めている。今回のA-Launchでは、VP6の研究の詳細の前に、まず、感染症とは何か、イバラキウイルス感染症の問題は何か、どんなウイルスなのかについて概説していただいた。

今回は、松尾先生より
イバラキ病を中心とするウシの感染症
についてお話しいただきました。


イバラキ病は
流行性出血病ウイルス血清型2群に属する
イバラキウイルスによるウシの感染症
です。

主な症状としては
流涎、嚥下障害、食欲不振、脱水症状、流産等があります。

イバラキ病を発症したウシの致死率は20%程度です。
ヒトはイバラキ病になりません。

イバラキウイルスは
「運び屋」であるヌカカの吸血行為によって牛に感染します。

ヌカカの活動は6~9月に活発になるため
イバラキ病は夏から秋に多く発症します。

イバラキウイルスに感染しているヌカカが風に乗って飛んできたり
ヒトや物について移動したりすることで
ウイルスのウシへの感染が拡大する可能性があります。

1959年に日本の茨城県で
イバラキ病のウシから初めて原因ウイルスとして
イバラキウイルスが発見されました。

当初は、固有のウイルス種だと思われていましたが
遺伝子を詳しく調べたところ
流行性出血病ウイルスの血清型2群というグループに属する
ウイルスであることが分かりました。

日本では
イバラキウイルス以外の流行性出血病ウイルスが流行することがあります。例えば、1997年には血清型7、
2015年には血清型6の流行性出血病ウイルスの流行がありました。

感染症の対策には、「予防」「診断」「治療」が重要です。

しかし、現在の日本では
イバラキウイルス以外の流行性出血病ウイルスが引き起こす感染症に
十分対応することができません

まず、予防法としてはワクチン接種がありますが
イバラキウイルス(血清型2群)に対するワクチンしかないため
別の型が流行した場合には効力がありません。

また、診断用のキットは日本で市販されておらず
感染の有無の判定をウイルス遺伝子の検出に頼らざるを得ません。

さらに、発症したウシには「補液」によって
失われた水分・栄養分を補給するなどの対症療法しかなく
ウイルスそのものを排除する方法はまだありません。

ヒトに病気を起こさないことや
インフルエンザの様に毎年流行するわけではないことなどから
国内の流行性出血病ウイルスの研究はあまり進んでいません。

しかし
今後もイバラキウイルスだけでなく様々な流行性出血病ウイルスが
流行する可能性があり
新たな診断方法やワクチン、治療法の開発に向けての研究が
必要とされています


当日は多くの教職員や学生にお越しいただき
活発な意見交換がなされました。

学生からもイバラキ病の症状、感染拡大の要因について等の
質問がありました。

松尾先生には専門的な内容をわかりやすくご講義いただき
感染症の問題について考える良い機会になったと思います。

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