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山月記×ちいかわ

「夜眠っていると・・・
誰かが僕の名前を呼ぶ声で目を覚ました。声は家の外から聞こえてくる。
外へ出て見ると、声は森の中から繰り返し僕を呼んでいた。
その時はなぜか、不思議とも怖いとも思わなかった。声を追って、僕はいつしか森の中を走っていた。楽しい気持ちさえしていたかもしれない。気付けば左右の手で地面をつかんで走っていた。なんだか身体中に力が満ち溢れてきて、軽々大きな岩も跳び越えていた。
少し明るくなってから、谷川に降りて自分の姿を映して見ると、僕は僕が「討伐」してきたあの怪物になり果てていた。最初、僕は自分の目を信じなかった。それから、これは夢に違いないと思った。これまでにも夢の中で、これは夢だぞと知っているような夢を見たことがあったから。」

「どうしてこんな事になったんだろう・・・。
わからない・・・何から何までわからないことばかりだ。わからないけど、誰かが押し付けてきたものをただおとなしく受け取って、わけがわからないまま生きていくのが・・・僕らの「運命」なんだと、その時わかった。」

「・・・視界の隅に、僕の姿を見て震えながら逃げようとしている、小さくて・・・可愛らしい生き物を見つけた。(誓って言うけど、「おいしそう」なんて思いもしなかった)なのに、それを見てしまったとたん、僕の前から僕が消えた。
・・・次に僕が戻ってきたとき、自分の手や・・・口の周りが血に塗(まみ)れているのがわかった。あたりには何かの毛が散らばっていた。」


「・・・以前の僕を思い出せる時間は、日がたつにしたがって短くなっている。ついこの間までは、なんデ僕はこんな姿になってしまったんだと嘆いていた気がするのに、この間ふと気が付くと、僕は自分があの、ちいさくて、よわくて、うまみのあるイき物だったなんて、信じられなくなっていた。」


「きっト・・・僕のようなイき物も、あのちいさくてうまい食べ物たちも、もとは何か他のものだったんだろうな。そうなってしばらくはまエの自分をおぼエていても、だんだん忘れていって、最初っから今のジぶんだったトおもいコんじゃうんだろうな。」 




「フフッ・・・フフフ・・・・(また見つけたッ!)」






「(遊ぼ・・・もっと遊ぼ!トんデ、はねて・・・もっト!!)
キャーーーーーッ!!!
(イーーーっぱい遊んデ、うごかなくなるまデあそんデ、イなくなっテも・・・おなかがすいたら、またきテね、ずっトだよ・・・ずっト!!)」

「山月記」中島敦 を下敷きに)


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