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直しながら使う営み

私が金継ぎを始めた大きなきっかけは、「陶磁器は割れたら終わり、じゃないんだ!」という
驚きでした。
日々の暮らしにおいて、気にいっている器ほど、割れると悲しいから、食器棚の奥にしまい込む。
それが普通だと思っていた私には、希望の光に見えました。
 
昨年より開講している金継ぎ講座で、漆で器を修繕することができるようになった生徒さんたちが、
「好きな器を日常で使えるようになりました」とおっしゃいます。
好きな器、気に入った器を、毎日の暮らしの中で使えるのは、とても豊かで幸せなことだと思います。
 
人生は、長いです。日々の暮らしは、生きている間、ずっと続いていきます。
生きていれば、人間の心身は、元気な時も、病のときもあり、若い頃のエネルギッシュさも、
老いの穏やかさも訪れます。心身には、さまざまな変化や、時には突発的なことも起こります。
でも、都度、それを受け止め、手入れ・養生をしながら、全てを折りこみつつ、また生きていく。
その営みの繰り返しが、生きることそのものの全体として、とても豊かなものだと感じます。
 
漆という、漆の木が自身の傷を癒すために出す樹液をありがたく使わせて頂きながら、
まるで心身の養生と同じように、水が漏れるようになったらヒビに漆をしみこませて止め、
縁が欠けて口当たりが気になってきたら錆漆で埋めて、様子をうかがいながら手入れをし、
都度、器の傷を受け止め、また、その傷を折りこみながら、自分が本当に使いたいと思っている
器を、永く、日々の暮らしで使っていく。
 
「直しながら使う営み」は、そういう豊かさ、人間としての豊かな生き方も教えてくれる気がします。
 
 

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